浅瀬渡りし島の城 国宝の磨崖仏 – 大分県

イナバナ.コムでご案内する城カテゴリー。これに登場する城郭もしくは城趾は、なぜか海や運河に関わるものが多いことに最近気付きました。

特に選んでそうしているわけではないのですが、誰でも知っているような有名な城や観光名所として名高い城を外しながら興味深い場所を探していると、何となくそうなってしまったということですね・・(^_^;)。

本日ご紹介させていただく城趾は現在は陸地の上、街中の小山に佇む城址公園です。 しかし、明治時代に周囲が埋め立てられるまで、この場所は山ではなく一個の島でありました。 故に古くは “丹生島城” また海原に向かい浮かぶ姿から “亀城” と呼ばれたそうです。

丹生島城 想像図

攻防激しき戦国の世、宗麟(そうりん)の名で知られる大友義鎮(おおともよししげ)の本拠としても機能し、後に『臼杵城(うすきじょう)』となった城址にも、もうすぐ春の息吹が訪れます。 ※宗麟は出家後の法号。

 

豊後国(現在の大分県)に生まれ、熾烈なる家督相続を切り抜けた宗麟は、その果断と勇猛を奮いやがて九州北東部六カ国を治める大領主にまで登りつめます。

武勇のみにあらず統治外交そして経済にも優れており、北方に開けた領地と海路を使い未曾有の富を領国にもたらしました。

中国地方の覇者であり長門国(山口県)をして版図を拡げようと圧を増やす毛利氏。南九州から北部への覇権を伺う島津氏。両方向への難局を御しながら、その対峙のための拠点として白羽の矢を立てたのが臼杵の海岸線にある小島でした。

臼杵城(丹生島城)想像図

満潮時には四方を海に囲まれた完全なる島嶼。干潮時のみ西方向に僅かに現れる干潟によって陸地とつながる様は、文字どおり天然の要害であったのです。

堅固な砦を築き干拓地を広げ一定の城下を作り上げたその様は、まさに昇龍のごとき宗麟の最盛期の象徴であったのかもしれません。

 

時が経ち隣国 龍造寺氏の勃興、島津氏の侵攻に抗しきれず大友氏は衰退の道を歩みました。

一時は宗麟の子である大友義統(おおともよしむね)の居となりますが その後改易。 以後、豊臣家臣、徳川家臣の治めるところとなりながらも島周囲の埋め立て、城下町の拡充を図りながら臼杵城は明治時代の破却に至るまで その威容を留めたのです。

 


昭和41年に大分県の史跡として再認識を受けました。 現在の『臼杵城』は2001年(平成13年)に復元された大手門をはじめ2基の櫓と庭園、そして幾ばくかの石垣を遺すに留まりますが、その独特の形態と閑静な佇まいから、市民に愛される憩いの城址公園となっています。

3月下旬から4月上旬にかけて園内は薄紅の桜色に染まり、県内外の観光客で賑わいます。

実行委員会主催による『臼杵城址桜まつり』が開かれ、多くの屋台出店、歌謡イベント、近隣の大岩山における「大岩山登山絶叫大会」などが催されます。 夜間にはライトアップが行なわれ、この桜まつりをもって臼杵の春は佳境を迎えるのです・・。

 

臼杵城にお出掛けの機会がありましたときは、出来れば南西に2km程にある『臼杵石仏』まで足を伸ばしてみてください。

自然の岩塊から切り出し掘り上げられ、現在は4群に分けられ安置される数十体の磨崖仏(まがいぶつ)を見ることができます。

制作された時期はおろか携わった人物、経緯ともに全く不詳の謎に包まれていながら(一説におそらく9〜10世紀頃石彫)、その深遠幽玄の面立ちから多くの尊崇を集めてやみません。 完成度の高さとその規模から歴史的な意義も極めて深く、61基の石仏全てが国宝として認定されています・・。

『臼杵石仏』には “臼杵” において “真名野長者伝説” という民話伝承、臼杵から南西に35km程離れた豊後大野の “三重町” に同じく “真名野長者” にまつわる伝承が関連付けられて語られることがあります。

史実的な真贋としては不明ですが、その内容には以前当ブログで掲載した「芋掘り藤五郎伝承(前)」に近似する部分もあり、中々に興味深いところでもありましょう。 Wikipediaに詳しく案内されていますので ご興味のある方はコチラからどうぞ。

 

臼杵市界隈には古の景色を色濃く留めている場所も多く、歴史好きな方には意外な穴場といえるのかもしれません。

北九州に大領土を築き、仏教にも外来のキリスト教にも理解を持ち、”豊後の王” とまで讃えられた大友宗麟の熱情と栄華は今も太陽の影を落とし続けているのです。

春の散策の中にそれを訪ねてみるのも一興ではないでしょうか・・。

『臼杵城址桜まつり』 臼杵市観光協会

二王座歴史の道

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