鉄道だけの話ではない 地域路線の苦闘と未来 – 千葉県

まずい菓子

『まずい棒』をご存じの方は鉄道ファンの方でしょうか? それともお菓子マニアの方なのでしょうか?(笑) 「まずい…もう1本!」のキャッチコピーで2018年から千葉県「銚子電気鉄道」が企画・販売を始めたスナック菓子の名称が『まずい棒』です。

発売当初、ネット界隈でも話題になったのでお求めになられた方も多いかと思いますが、中身に関しては ”リスカ株式会社” や ”株式会社やおきん” が製造販売する「うまい棒」と基本的に同じものなので、いわゆるパロディ商品なのですが・・

”まずい” の名に反して普通に美味しく、味の種類に関しても「チーズ味」「コーンポタージュ味」「ぬれ煎餅味」「わさび味」(現在は「か~るいチーズ味」)と、比較的まともな味がチョイスされており、”まずい” の意味が別のところにあることが解ります・・

 

まずい状況

要するに ”まずい” わけです・・。 経営状態が・・(^_^;)

千葉県の東端 犬吠埼に軌道を敷く「銚子電気鉄道」の創始は大正2年に地元の有志によって興された ”銚子遊覧鉄道” であったと伝わります。

しかし、開業当初から想定の利用客を得られず、常に赤字状態であった ”銚子遊覧鉄道” は開線から わずか4年後の大正6年廃業・廃線となってしまい、その軌道(レール)は鉄材として売却されてしまったそうです。

そしてその6年後の大正12年、機の成熟を満たして ”遊覧鉄道” 創業有志が再び ”銚子鉄道” を再興、銚子~犬吠~外川 間を開業させます。

その後、途中各駅などを追加開業しならがら 戦後の昭和23年には再建整備法に則り「銚子電気鉄道株式会社」として登記、徐々に経営を安定させてゆくものの昭和50年初頭をピークに その後下降に転じ、平成の後半には往時の利用率も3分の1を割り込んでしまいます。

40年代後半に既に銚子市からの助成を受け、50年には「欠損補助対象地方鉄道」とされていた銚子電鉄は資金調達の為、51年2月から食品製造販売を開始、その後の「ぬれ煎餅」のヒットや様々な企画・経営改革の実施、そして各助成のお陰で運営をつないできたものの、平成以降の利用客の減少には歯止めがかからず、そこへきて2011年(平成23年)3月11日、東日本大震災による被災・・。

2018年(平成30年)には再び存続の危機に至った銚子電鉄が発売を開始したのが上記の『まずい棒』であった訳です。「経営がまずい!」状況に苦悶する鉄道会社の訴えが「ぬれ煎餅」の時と同じくネットを中心に反響を呼び、同社の収入源のひとつとして寄与しましたが、経営状況の本質が好転した訳ではありません。

 

経営に苦闘しているのは「銚子電鉄」に限った話ではありません。ご存知のように 全国の地方鉄道路線、のみならず地方の公共交通機関の大半が採算ぎりぎり、もしくは割り込んでおり助成金のもと運営を維持しているのが現状です。

大元の原因は自家用車の普及と地方人口の減少に端を発する問題なのですが、移動に際して便利な自動車の普及から公共路線の減少、さらなる自動車の普及という循環はとどまる様子もなく、人口減少の顕著な例である少子化は社会の趨勢とも思える流れであり、この先の人口増加に転じる見込みは立っていません。

”何でもあり” とまで言い切って多様な企画イベントを展開し苦闘する「銚子電鉄」よろしく、全国の地方鉄道各社も様々な企画を実行し、私の在地である和歌山市でも2006年に当時の “南海電鉄貴志川線” から経営を引き継いだ “和歌山電鐵” が、いわゆる「たま駅長」ブームで人気を博しましたが、鉄道経営本体の状況は決して好転しておらず助成金なくしては成り立たないのが現状です。

 

うまみを生み出す社会

本質的な改善策が見えないからこその現状なのですが、何よりも地域・地方そのものの活性化があってこその底上げではないでしょうか。

人口が増えない場所には いかなるサービスであってもその利用者は限られますし、採算の合わない場所に新しいサービスも文化も芽生えないという、またひとつの悪循環が発生してしまいます。

来月・来年の経営に苦闘する現場の人々が今日を生き抜いてゆくことに懸命なのは理の当然ですが、それをバックアップすべき ”地方” は ”お金” の問題も切実ながら、本質的な人口増加に向けての取り組みに目を向けるべきでしょう。

昭和から現在、数十年かかって変容してきた現状を改善するには 同じ年月を要するかもしれません。 また 未来、予想もしていなかった状況へ変化してゆくことも考えられます。
しかし、だからこそ一刻も早く、安定的な人口の確保と活性化の目標を立ててそれに向かう実効的な行動が必要だと思うのです。

 

時代が進むにつれて人の “生活” や ”人生” に対する価値観も移り変わり、また多様化してきました。 昭和の時代のように「全て “良いもの・新しいもの” は都会に有る」と思える時代でもありません。

インターネットの普及によりオンラインで受けられるサービスには、都市圏でも地方でもほぼ格差はありませんし、そもそも時代は ”モノからコト”(物質・商品に対する欲求から体験・経験に対する欲求)に移り変わってきています。

新たな価値観の萌芽を得ているのは主に壮年期以下の若い世代が主とも言えます。
彼らは昔のような金銭的・社会的な成功よりも、より個性的で豊かな人生での満足感や達成感を模索しています。

 

であるならば、彼らのような新たな世代の生活圏を地方に置くことも あながち見当外れの見識ではないと思えるのです。

地方が成さなければならないのは、彼らに興味を持ってもらうこと、”地方の魅力” と言うより ”魅力を見いだせる場所” としての地域改革を行うこと、そして、彼らが生きてゆくための、出来るだけ安定した生活基盤を築き提供することではないでしょうか。

それが 将来的に若い世代の県外流出を抑え 地方回帰を呼び込めば、結果的に地域の活性、地域公共サービスの自然維持にもつながると思うのですが・・

言うは易し行うは難しの如く、地方財政そのものが苦しい中、他にすべきことが山ほどあるのも事実でしょうが、途方もなく大きく壮大な力で回り続ける時代のうねりに変化を与えるためには、時に 無理からでも第一歩を踏み出し行動することが必要なのです。

『夢見る田舎暮らし』ではなく『地方で生きるという選択』を生み出すために、行政も私たち一人一人も意識を持ち考えてゆくことが大事だと思うのです。

 

* 今回より「鉄道・交通」カテゴリーを分化・新設致しました。

過去の鉄道・交通記事一覧

 

 

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