山梨県、日本の中央部に位置し古くは甲斐国と呼ばれ、京を都とする西国と新開の地であった東国とを結ぶ結節点でもありました。
甲斐という言葉の語源を調べると、当地が富士をはじめとした山々に囲まれた “峡(カイ・キョウ)” なる土地であったことに由来するという説があるものの やや弱く、上記のように東海・東山両道を結び人と物の 行き”交う” 重要な地点であったことを表す言葉を元としている説が有力ともいわれています。
古事記・日本書紀など奈良時代の書物に既にその名が見られることから、当時としては東国以北の北方勢力に対する牽制や侵攻、そして統治権拡大にとっての物流拠点としても機能していたのでしょうが、他にも特筆すべきものがこの地からは産出されていました。
それは水晶。古くは水精・玻璃(はり)とも呼ばれ珍重されてきた鉱石です。
学術的に石英とされる鉱物の一形態であり、石英の括りだけでいえば全国的に見られる一般的な鉱物ですが、大半は不純物を含んだ小石状の状態であることはご承知のところでしょうか。
しかし、その中でも純度が高く六角柱状の結晶を成しているものを水晶といい、多くは高純度ゆえに透明度が高く希少性のある石となります。
海外産の様々な宝石が並ぶ現代では そこまで高価な石ではありませんが、天然産の高透明度の美しい結晶はダイヤモンドにも似た無色透明さから人々を魅了し、また、そこに宿る神秘性さえ思い起こされることから人気の高い宝飾品のひとつともいえるでしょう。
あまつさえ、それが古の時代であれば尚さらのこと。当時、僅かながらに採れる水晶はまさに珠玉であり一般の暮らしとは隔絶された秘宝でもありました。
これは日本だけのことではなく世界的にも同様の認識や文化をもって扱われていたようで、驚くべきことに紀元前5世紀頃の古代文明で珍重されていたそうで、我が国においても弥生時代に既に研磨・加工されていたことが分かっています。(鏃など)
そして、その高純度石英である水晶の産出地として国内でつとに知られるのが中部・甲信地方。分けても山梨県・甲斐国の金峰山(きんぷさん)・昇仙峡周域が良質の鉱脈として重用されてきたのです。
往古には妙なる神宝として神社の御神体や貴重な仏具として用いられ、時代が下って武田信玄による甲斐国隆盛の時代にも重要な水晶鉱山として重んじられていました。
金峰山を神体とし武田氏の庇護を受けた「金櫻神社(かなざくらじんじゃ)甲府市御嵩町」にも磨かれた水晶が二つ神宝として祀られているそうです。
この二つの神宝 “火の玉” “水の玉” が神宝として納められたのが江戸時代。 水晶原石を求め当地を訪れていた京の職人が金櫻神社の神官に当時最新の研磨術を伝えたことが、甲州水晶のさらなる商品性を高めたのだとか。
以後、山梨県は高度研磨技術の研鑽向上によって、水晶を基軸に据えながらも、あらゆる宝石・宝飾における加工・生産のメッカとなったのです。
現在では宝飾品出荷額日本一、国内宝飾関連企業の4分の1以上が集まり “宝石の街” といわれる所以でもありましょう。
そんな山梨県ですから水晶や宝石に関するメーカーやディーラーが多いのも当然ですが、これらを主体とした関連施設にも興味深いものがあります。
そのひとつが、富士河口湖町(ふじかわぐちこまち)にある『山梨宝石博物館』。 国内でも珍しい宝石・希少鉱石の専門博物館です。
白亜の建物外観に比して照明を落とした仄暗き展示室。そこに神秘的な輝きを放ちながら佇む宝石・ジュエリー、そして原石は総計2000点以上にも上るのだそうで。
ひとつひとつ見て周る目に映る光は、観覧者の感覚さえ非日常の世界にいざなってくれるかもしれません。
さらに展示エリアの奥に座す巨大水晶の威容に驚かない人はいないでしょう。 単体結晶でありながら 高さ1.8m、重量1270kgの大きさは極めて希少なもの。ブラジル産、圧巻の一言です。
宝石・宝飾というと何となく女性の好み・趣味のように感じてしまいがちですが、男性であっても服飾に備える留めピンや腕時計・アクセサリーにおける装飾ルースなど無縁ではありません。
また、それらにそこまで関心のない方でも、地質に由来して産出される “石・鉱石” にはそれとなく興味がある・・という方もおられるでしょう。
『山梨宝石博物館』では単に宝石の陳列に終始することなく、また美しさを謳う高級品としての側面にのみこだわることなく、鉱石のひとつとして生まれる原石の由来から加工をとおして唯一無二の宝石へと生まれ変わる過程を、歴史的に構造的にそして視覚的に展開しています。
館内にはお洒落なカフェやミュージアムショップも併設されていますので、ゆったりくつろぎながら観覧されては如何でしょう。 日常では決して見ることのない至高の煌めきと不思議の時間を過ごすことができるのではないでしょうか・・。
尚、『山梨宝石博物館』の近隣には『富士河口湖 石の博物館 宝石探しと天然石のお店』や『石ころ館 河口湖』など甲州宝石にまつわるスポットが林立しています。ぜひお立ち寄りのほどを・・。
さて、もう一件は宝石博物館の北方、笛吹市石和町の駅前通りにある『甲斐の駅 いさわ』です。
“道の駅” ではなく “甲斐の駅” として運営されていますが、石和町を訪れる観光者が気軽に立ち寄れて、旅の疲れを癒やしながら石和(いさわ)のお土産をゆっくり選べる道の駅のような複合型観光施設となっています。 キャッチフレーズは “宝石も、思い出も、おみやげも。ぜんぶ、ここで見つかる。”
「甲州天然石工房 彩石の蔵」では国内外から集めた天然石や鉱物を多数取り揃え、他では手に入らない一点もののルースやアクセサリー制作に対応。 単なる販売に留まらない石そのものの意義や歴史にも精通しています。 お店の言葉を借りるなら “あなただけの石との出会いは” 忘れられない時間になるはずです・・。
甲斐の駅いさわ の敷地内には かなり大きなスペースをとって庭園のように整備された区画があるのですが、これはただ休憩のためだけにあるのではありません。
「宝石発掘体験 SAGASO isawa」 この区画一帯を使って原石を自分の手で探し出すトレジャーハント体験ができるのだそうです。 砂場、浅瀬、洞窟を巡りながらの採石はかなり珍しく楽しい体験となるでしょう。中には化石やパワーストーンも含まれているらしいところが気になるところですね。見つけた宝石はその場で洗い、お土産として持ち帰ることが可能だそうです。
宝石や原石と言うと大人の趣味のようにも思えますが、この採石体験はお子様にも喜んでもらえるのではないでしょうか。
『甲斐の駅 いさわ』は、いうまでもなく名湯「石和温泉郷」の圏内です。
石和温泉は昭和30年代に興った温泉で長久の歴史さえありませんが、勃興期の世情を背景に様々な遊楽施設などが併設され大いに賑わった歩みを持っています。
それ故に今なお町の彼処に昭和の面影をそれとなく感じさせてくれる温泉街とでもいえるでしょうか。 甲州観光、温泉を含めての宝石巡り、ちょっと変わった視点からの趣深い旅を楽しんでみてください・・。







