暮らしを支える小さな石板 100年の歴史展 – 大阪府

住んでいる家の内外、また 訪れる建物や街の其処ここで、普段 あまり気にも留めず見逃されているにもかかわらず、建築の大切な要素を占めている小さな素材があります。

それは “タイル” 、陶磁製のもので主にシンク(流し台)まわりやバスルーム、また手洗いなど水まわりのシーンで使われるものが よく知られていますね。

その耐久性(堅牢性)や撥水性の高さから水まわりに使われますが、様々な大きさやデザインの中から最適なものを用いることで、使用場所の明るさやタイル表面の平滑性(滑りやすさ)を調整することもでき、生活に多くの利便と彩りをもたらしてくれます。

近年はその姿も減りましたが、少し以前、町の銭湯の浴場内は床面から壁面、バスタブに至るまでタイルで覆われ、向正面の壁には風景や富士山の絶景を描く “タイルアート” の美しさも生活の一部であったので、懐かしさを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。

こうしたことから 水まわりでのイメージが強いタイルですが、少し目を移してみると、建物の外壁からハードウォール(石塀)の外装、エントランスや庭先の足元、そして道路の舗装に至るまで、私たちの住む住環境から都市整備の様々な場面で活躍しています。

ちょっと待って!? 玄関や庭に敷いてあるのは “テラコッタ” ではないの? と思われる方もおられるかもしれません。 “テラコッタ” は元々 “素焼き” の焼き物のことで、売られている建築用・造園用プレートは、あくまで “テラコッタ風” タイルなのです。 素のテラコッタに比べて表面処理もなされていることが殆どですね。

 

ひとつの素材や商品に異なる呼び名が併存し、世間でそのままに周知されているというのは時折見られる現象ですが、この “タイル” についても、その昔は “敷瓦” “貼付け瓦” “化粧瓦” “陶板” と様々な呼称で呼ばれていたそうです。

一般の人ならともかく 業務で関わる人たちにとって、これは少々不便であると問題となり、大正11年、東京上野で開催された「平和記念東京博覧会」の傍会で「全国タイル業者大会」が開かれ、この席上で “タイル” という名称に統一されました。

明治時代、性急に築き上げた西洋的文化が徐々に根付き、本格的な近代化に向けての過渡期でもあった頃、全国的なインフラの整備と合わせて人々の住環境や都市構造の刷新は、国としても必須の課題であったのです。 後の世に残る歴史的建築物の多くも、この後、昭和の前半期にその黎明を迎えていますね。

今年は、この “タイル” 名称統一から丁度100年目にあたるそうで、これを記念した企画展『タイルとおおさか -日本における「タイル」名称統一100周年-』が “大阪歴史博物館”(大阪市中央区、大阪城公園南西)にて開催されます。

大正時代から昭和前期の貴重な資料や当時のタイルの遺物が展示され、一般的な建築カルチャー系とはまた異なる、ちょっと変わった視点からの歴史考察が楽しいイベントではないでしょうか。 その展示からひとつ・・、

現在も燦然たる雄姿を残す「大阪中央公会堂」は大正2年に着工、7年に完成しました。
その設計案は公募によって募られましたが、第一席となり採用案となったのが建築家 岡田信一郎の案でしたが、このデザイン図面には煉瓦積みと見える外壁が描かれています。

しかし、この煉瓦積みと見紛う外壁は、実際には鉄筋コンクリート造りの壁の上から 厚さ14mmのタイル(化粧煉瓦)が貼られて仕上げられているのです。
つまり、当時 既に鉄筋コンクリート造りの建築方法が導入され、それに見合う外壁装飾が導入されていたということですね。

大正時代に既に、上貼りの装飾技術が取り入れられていたことにも驚きですが、実はこれが初めてではなく、大正3年に国家施策の一環として建てられた「東京駅駅舎」や「帝国ホテル旧館」も同仕様、鉄筋コンクリート壁に化粧煉瓦貼りで造られているのです。

“煉瓦造り” というと、明治や大正ロマンを感じさせるシックなイメージで、現在でも資金に余裕のある計画では、時折 希望の対象となりますが・・、残念ながら煉瓦をそのまま積み重ねる西洋式の工法では、地震国である日本の安全基準に達しません。

よって、ひとつには中央に穴の空いた煉瓦を用い、そこに鉄筋を通すことで構造強度を確保する鉄筋組みの煉瓦工法が施工されますが、手間が掛かることによるコストの上昇が否めません。 鉄筋コンクリート造りにタイルを用いるという合理的な工法は、既に100年まえから実用に踏み切られていたのです。

展示会ではこの他にも、昭和前期に造られた「宇治電ビルディングの神像テラコッタ」や「旧阿倍野近鉄百貨店 外装タイル」など、当時の建築と世情を推し量るのに貴重な資料が公開されているそうです。

(一社)全国タイル業協会 / 全国タイル工業組合

“タイル” を見るために博物館に行く・・というのも、ちょっと意外かもしれませんが、そこから見えてくる100年の大阪の歴史には、考えもしなかったウィットに満ちた発見があるかもしれません。

新しい発見と、そこから始まる興味深い時間、広がる世界は実際に足を運んで探し歩く旅の道すがらにポツンとあったりするもの・・ 今回の企画展もそんな発見の一助になればと思っています。

 

『タイルとおおさか -日本における「タイル」名称統一100周年-』
大阪歴史博物館 公式サイト

日  程 : 2022年4月20日(水)~6月27日(月) ※火曜休み(5月3日、6日は開館)

場  所 : 大阪歴史博物館 8階 特集展示室 〒540-0008 大阪市中央区大手前4丁目1-32

問い合わせ : TEL:06-6946-5728 FAX:06-6946-2662

 

 

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