菊水も凌ぐ湯の里に夏の涼を訪ねる – 石川県

温泉の国と言われる日本、良くも悪くも火山帯と深く関わるこの国で、温泉は古より人々の生活と常に関わってきました。

時に荒ぶる神となり未曾有の災いをもたらす大地の力も、平生においては人々に大きな力と心身への癒やしを与え続けてきたのです。

おそらくは有史以前から関わっていたであろう人と温泉のつながりは、人が歴史のつづら折りを言葉や文章で残すようになると、そこに様々な伝承・伝説を生み出し 神=自然との関わりや、稀有の聖人との開湯伝説を花開かせながら現代に至るまでその神秘性を伝えているのです。

 

石川県加賀市、閑静な山間と穏やかな町並み交じる地に北陸屈指の温泉地として知られる「山中温泉」 ここにも古の聖人による開湯伝説が残っています。

 

『 行基上人(ぎょうき しょうにん)』

奈良時代、河内国(大阪府中南部)に地方氏族の子として生まれ十五の歳に出家、二十四で受戒を果たします。

幼き日より聡明であったなどと言うのは、これら聖人によくある言い回しですが、行基が早くから持っていた智慧とは、法のための法ではなく生きる衆生(民衆)を救ってこその法であると気づいていたことではないでしょうか。

以後「広く民衆を救う」という極めて仏教本来の姿を標榜・具現して、一つの寺に籠もることなく、機内(近畿地方)を中心に 常に各地を巡りながら仏教の教えを説き広めるだけに留まらず、人々に治水や灌漑、架橋などの技術を伝え実際に自らもその構築に携わり また貧民の救済にもあたりました。

当然のことながら、日毎にそして何処の地に赴いても多くの民草の崇敬を集め、その数は時に数千から万の人頭に上ったといわれます。

あまりの人気ぶり、動員力に時の朝廷は危機感を持ち十余年に渡って行基の行動に対して弾圧を与えますが、行基の信念は手折れる事なく また民衆の実際の暮らしに多大な恩恵をもたらしたこともあり、やがて弾圧を解除、その偉業を認めて「行基大徳」の諡号を授与、後には日本で初めての「大僧正」の位階を贈ります。

後の「最澄」や「空海」のように一大仏法圏さえ築きませんでしたが、その事績と人々の実際の暮らしを救う実践的な心情は、後の世にまでその恩恵と尊崇をつないでいるのです。

 

 

『 山中温泉 』

その行基上人が行脚の途上で発見、開湯したと伝わるのが「山中温泉」です。
伝説によると行基上人は遠く北方の加賀の上空にきらびやかな雲たなびくのを見て神仏の導きを悟り、山中の地で湯元を見つけると檜の丸太をもちいて九寸の薬師如来像を彫り、温泉の守護として安置しました。

地元の民を含め細々とその噂を伝え聞いた人々は温泉を訪ね、大いに心身の癒やしを得たそうです。

時が流れ 平安も末、能登の地頭 長谷部信連(はせべのぶつら)は、たまたま出掛けた山中で一羽の白鷺が 湯気立ち昇る渓流で傷付いた足を癒やしているのを見つけ、白鷺が立ち去った後にその地を掘ってみると一体の薬師像を発見、当地が霊験あらたかなる場所であることを知り、一帯に十余軒の湯宿を建て、それが今に続く「山中温泉」の元となったそうです。

 

後世に連なり多くの人々を迎えた「山中温泉」ですが、特に江戸時代 元禄の頃、俳聖・松尾芭蕉 が著名な「奥の細道」の途上、門人 河合曾良とともに「山中の湯」を訪れ、滋味溢れる温泉と付近一帯の清涼なる景観をことのほか喜び、有馬・草津と並ぶ「扶桑の三名湯」と讃えて “ 山中や 菊は手折らじ 湯の匂ひ “ の句を読んだそうです。

“ 菊は手折らじ・・” とは、遠く中国のこと、とある河の崖の上に咲く菊からしたたる露を飲んだ者は長命を得るという故事に因み、それを飲むまでもなく長生き出来そうな程 山中の湯の良い香りであると謳ったのでした。

 

 

『 鶴仙渓 』

芭蕉も喜び愛でたように、この “山中温泉郷” を流れる大聖寺川(だいしょうじがわ)の中流は、玄妙な姿の奇岩を讃えた「鶴仙渓(かくせんけい)」と呼ばれる渓谷となっており、静寂で風光明媚な景観とともに、河原から見上げるとその形態を見誤ってしまいそうなS字橋「あやとりはし」、総檜造りの「こおろぎ橋」、芭蕉の遺徳を祀る「芭蕉堂」などと相まって、訪れる旅人にそこはかとない旅情をもたらしています。

この「鶴仙渓」の河原で涼をとり山中の自然と雅を愛でる『 鶴仙渓川床 』が 4月から11月の間に行われているのをご存知でしょうか。

「川床」 4月から11月、つまり花咲き風薫る春から 葉陰を過ぎる陽光眩しき夏、そして紅葉鮮やかな秋までを、渓流の瀬音と自然に抱かれながら別天の時を過ごす誠に風雅な設えです。

京都では「納涼床(のうりょうどこ)」と呼ばれるように、さながらこれからは夏の避暑として格別の時間と経験を提供してくれるでしょう。

 

旅館や付近飲食店(参加6店舗)で川床弁当などを購入して「川床」に持ち込み 緑に囲まれながら一服の涼を味わい、合わせて菊水をも凌ぐ山中の湯で心身を癒やせば、今年の夏の酷暑を乗り切る至福に恵まれるに違いありません。

 

* 新型コロナウイルス対策に基づき営業内容の制限、また 天候の影響などにより川の水量が増えた場合 臨時閉業などの処置がとられる可能性がございます。 お出掛けになる場合は必ず事前・直前のご確認をお勧め致します。

 

『 山中温泉 』 (一社)山中温泉観光協会 サイト

場  所 : 石川県加賀市山中温泉西桂木町

アクセス : こちらから

 

『 鶴仙渓川床 』 詳細PDF

場  所 : 石川県加賀市山中温泉地区 あやとりはし付近

日  程 : 2020年4月1日(水)~11月30日(月) 悪天候 増水時などは中止 ※9月15日(火)〜17日(木)はメンテナンス休業。11月は不定休

時  間 : 通常9:30〜16:00、11月は10:00~15:00。※4月17日(金)より当面の間、11:00~15:00までの短縮営業

料  金 : 有料。大人(中学生以上)300円、小学生200円、加賀棒茶付き。山中温泉旅館組合加盟の旅館宿泊者は100円引き

問い合わせ : TEL.0761-78-0330 山中温泉観光協会

 

 

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