架線なき空 息吹く気動車の佇まい – 徳島県

四国、徳島県において鉄道を利用するとき、また鉄道に関わる話をするときに”電車” と言う言葉を使うと訂正される場合があるといいます・・。 曰く “電車” ではなく “汽車” 。

慣れない者が “汽車” と聞くと どうしても “蒸気機関車” を思い浮かべてしまいがちですが、ここで言う “汽車” とは “気動車” のことを指しています。 “気動車” って何? な方も居られるかもしれませんが “エンジンを搭載して走る鉄道車輌”、 平たく言えば “ディーゼル列車”* のことになります。

徳島県には架線から電気を受給してモーターで走る “電車” は一輌も走っておらず、ディーゼル機関車が鉄道の主体となっているのです。 どういうことでしょうか・・。

 

鉄道ファンの方、徳島県の鉄道事情を知る方なら周知の事でしょうが・・、徳島県には線路の上空を走る架線(電線)がありません。 全国で唯一完全に “電化路線のない県” となっています。 ※(お隣の高知県も基本非電化鉄道ですが “とさでん交通” の路面電車があります。沖縄県は鉄道路線がありませんがモノレール路線 “ゆいレール” があります。)

全国的にも珍しい鉄道事情の徳島県。こうなった背景には・・、私鉄路線が発展するまでに国有化されてしまい、運用コスト面を優先されたため。 ディーゼル化が早くに確立されたため却って電化に踏み切れなかった。などの理由が挙げられるそうです。

もちろん電気鉄道の話が全く無かったわけではなく、1911年(明治44年)には “阿波電気軌道” という会社が立ち上げられ、その社名のごとく電化路線の開業を目指してもいたそうですが、最も要である電力供給の問題から頓挫、後の国鉄に吸収されています。

創業当時の阿波電気軌道。 画像©鳴門市史編纂室・徳島県立図書館

昭和の中頃までは時折聞かれた話でもありますが、往時の徳島県(というより四国全体的に)は その地勢から水源の確保や電力事情に苦労した背景があり、貴重な電力を大きく消費する路線の電化には問題点も多く、明治も後半から昭和の前半にかけて鉄道が目まぐるしく変化していった時代に 合わせることができなかったという事情もあるのでしょう・・。

 

鉄道に興味の薄い方には蛇足になるかもしれませんが・・、憚りながら ひとつだけ注釈を入れておきたいと思います。

*記事の初頭において “ディーゼル列車” と書きましたが、正確には “ディーゼル動車” であり “ディーゼル列車” という言葉はありません。 “ディーゼル機関車” と混同しないように “列車” という言葉を用いました。 なぜなら “ディーゼル動車” と “ディーゼル機関車” は異なるものだからです・・。

(左)ディーゼル動車 (右)ディーゼル機関車

一般的にお客さんを乗せて走り “電車”と間違われる列車” は ほぼ “ディーゼル動車” です。連なる全ての車両一輌ごとにエンジンを搭載し、それを先頭車両でコントロールしています。要するに全ての車両が “動車” であり “動力分散方式” と呼ばれます。(電車も一般的に全ての車両にモーターを搭載しています)

それに対して “ディーゼル機関車” は 先頭(もしくは最後尾)を担当する車輌単体に巨大なエンジンを搭載し、動力を持たない客車や貨車などを牽引(もしくは推進)します。 徳島県を始めとして、現在の日本のディーゼル車は貨物用途を除いて多くが “ディーゼル動車” なのです。

 

完全に電化路線がない県・・というと、何か時代に取り残されたかのような印象を与えますが、ディーゼル車であっても新型車両は随時導入されています。一見としては他の都市と見かけ上違いはありません。 また郊外などで昭和的な場面にあっても、それが却って叙情に満ちた鉄道の姿と風土を留めていることにも繋がります。 ディーゼル車ならではの風土や乗車感覚など、鉄道ファンならずとも 徳島の鉄道風景に特別な想いを抱かれる方も少なくないのです。

電化されていない ということは架線が全くないということ。青く開ける空の下、ノスタルジックな雰囲気をまといながら懸命に走る “汽車” の姿は、過ぎ行く時代を今に留める貴重な景観ともいえるでしょう。

徳島県にお出掛けの際は、こういった独自の交通事情と歴史に気に留めながらの移動も、旅行を豊かにするアプローチのひとつかもしれませんね・・。

 

そんな徳島県の東北端、海峡を見晴らし、徳島市からのアクセスも間近な “鳴門市”。 この鳴門市郊外の一画で本年5月3日(金)~26日(日)にかけて『鉄道写真展 -特急列車と機関車-』が開催されます。 当該ページはコチラから

クリックorタップで『鳴門市ドイツ館』ホームページへ

《 日本で唯一電車が走っていない徳島県。電力を使わないディーゼル機関車と自然豊かな風景が相まった貴重な写真などを約60点展示します。また、会期中には楽しいイベントの開催も!》~広報より~ (只、パンフレットの真ん中を飾っているのは香川・愛媛県内と思われる電気機関車EF65の写真w?)

“鉄道写真展” ・・とはいえ、そこまで大掛かりなものではありませんが、作品供出には “鉄道友の会 四国支部” や “徳島鉄道写楽会” が主体となっており、徳島県の鉄道史を知る人には意義深く思い入れのある展示会となっています。

さらに、写真展が開かれる場所も、近代史の中で特異な意義と光を残す記念碑的存在であり、徳島県・鳴門市の歴史の誇りの一端ともいえましょう。 次回はこの写真展の開催場所である『鳴門市ドイツ館』の歴史に触れてみたいと思います・・。

 

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