当サイトをご訪問してくださる方の多くがおよそ40歳代以上の壮年・熟年世代と思われます。もちろんそれよりも お若い方、歳を召された方も居られるでしょうが・・。
それらの中で、・・そう、廃止・解散されたのが1987年(昭和62年)ですから、凡そ40代後半以上の方なら憶えておいでかと思います。
「国鉄」です。 正式名称「日本国有鉄道」、明治期から大正・昭和へ集散発展した国有鉄道事業(鉄道省)を、1949年(昭和24年)独立採算制の組織として再編・発足し、その後40年近くに渡って営業を続けた鉄道事業体でした。
モータリゼーションが勃興するまでは、各都市ごとのバス路線などとリンクしながら日本の旅客と物流の中核を担い続けました。 国民に近しい組織として一時期は野球チーム(現・東京ヤクルトスワローズ)も保有していたほどです。
その一方、現在では考え難いことながら、例年、風物詩のごとくストライキが頻発する事業体であったことも昭和中盤期を知る者の記憶なのかもしれません。
・・が、通勤や生活上の足とは別に、日々の喧騒を忘れ遠い地へ移動するための手段も先ずは国鉄路線。 国鉄という言葉に淡いロマンを感じる方も少なくないのではないでしょうか・・。
国民の足、そして旅の友として走り続けた国鉄でしたが高度経済成長期以前、国鉄の歴史の形成期に活躍した主役が “蒸気機関車 / SL” でした。
昭和30年代から徐々に電化路線へと置き換えが進められたため、1975年(昭和50年)をもって ほぼ全廃の状態となりましたがSLへの愛着と情感を抱き続ける人は多く、その後もイベント運行などが度々行われ、到着駅へ詰めかけるファンの姿がニュースにもなったことを憶えておられる方も少なくないでしょう・・。
地方にあっては鉄道利用人口も減少し事業の赤字状態化が続く中、数十年以上昔の車体・機体を動ける状態で維持(動態保存)するのは、熟練の技術とともに想像以上の熱意が必要と思われます。
しかし、SLへのロマンを求める声に応えるべく令和になった現在でも尚、蒸気機関の保守、運行イベントの開催・管理はたゆまず続けられているようで。
こうした夢とノスタルジーに満ちたSL運行イベントの端緒ともなったのが、山口県の新山口駅と島根県の津和野駅を結ぶJR西日本山口線を走る『SLやまぐち号』です。
『SLやまぐち号』は1979年(昭和54年)8月に営業を開始した特別運行列車であり、「C57-1 / 国鉄C57形蒸気機関車1号機」が基本車輌として運用されています。
このC57-1(C57型の1番目に製造された車輌の意)、何と誕生(落成)が1937年(昭和12年)といいますから、山口線就役時でも42年、現在に至っては90年の時を走り続ける不朽の機体とも言えましょうか。
男性的な力強さが想起される蒸気機関の中でもC57型、それもとりわけ初期型の車輌はその優美な車体形状から “貴婦人” の愛称をもって親しまれました。C57-1はその記念すべき第1号でもあったのです。
しかし、名に反して その半生は決して優雅で平穏なものではありませんでした。
兵庫県の川崎車輌で生まれた後は関東・東北各地の路線を転属していましたが、戦時中には宇都宮機関区において空襲に遭い被弾しています。
戦後になると膨大な復員移動や物流の支えとして、機関車の心臓でもあるボイラーの積み替えを施しながら八面六臂の働きを果たしますが、昭和36年には羽越本線にて土砂崩れに突入し大破。 廃車の余儀ないところまでに至ってしまいます。
それでも1号車であることの意義を重く見た当時の機関区長の決断により、5ヶ月間もの大修理を経てC57-1は見事に蘇ったのです。
落成以来35年、昭和47年にはついに通常運行業務の幕を下ろしますが、その年の新潟県村上植樹祭において “お召し列車” 牽引の栄誉に浴します。 その後もイベント運行や京都鉄道博物館でそのたおやかな姿を披露しながら、貴婦人にもようやく落ち着きの日々が訪れ・・たように思えたのですが・・。
昭和50年の蒸気機関廃止後、SLの文化と車輌の維持復活を望む声は日増しに高まり、それは貴婦人の再登壇へと結びついていきました。
とはいえ “生き物” とさえ言われる蒸気機関車の維持運行は、線路幅さえ合えば良いというわけにはいきません。
機関に必須の給水施設や転車台の有無。 専門の運転人員。 路線の近くに蒸気機関に特化したメインテナンス施設があること。 通常定期列車との相反が生じない程度の運行密度であること。 そしてSL運行にリンクして効果ある観光地の存在など・・。
それらを満たして尚且つ地域住民の熱望があり、当時の国鉄総裁 高木文雄氏の決断をもって定められたのが国鉄山口線でした。
1979年8月1日、12系客車を牽いてその姿を見せたC57-1は、多くのSLファンと住民たちの熱烈な歓迎を受けて再びそのドラフト音を轟かせました。
SL復活の嚆矢となり花咲いた貴婦人の成功は その後に続くSL運行イベントの手本となり、各地の路線に懐かしき煙が昇ることにつながったのです。
現在『SLやまぐち号』は春から秋にかけての土曜・日曜日を中心に1日1往復の営業運行が組まれています。(9月は休業)
牽引する客車も現在では専用設計35系5両編成のものが用いられており、1920から30年代のレトロな外観を有しながらも安全で快適な乗り心地を提供しています。 1号車、展望デッキ付グリーン車、2〜5号車、普通車(3号展示設備、5号バリアフリー等)
新山口駅から約2時間かけて至る(途中仁保駅での給水タイムを含む)島根県津和野は「山陰の小京都」と呼ばれており、美しい城下町の散策が楽しめます。
新緑の風薫る季節、懐かしい煙の匂いを感じながらのガタゴトSL旅、かけがえのない想い出を刻む一日になるのではないでしょうか?
90年の時を超え未だ麗しき貴婦人C57-1ですが、さすがにこれだけの期間走り続けた機体の維持は、慎重に慎重を重ねた保守と運用が必要です。
点検修理中や他の状況によっては予備車であるD51-200(デゴイチ)やDD51-1043(ディーゼル機関車)が、代替運転の任に就いたりまた重連牽引をしたりすることも少なくありません。 そうして文化財ともいえる貴重な車体を維持し続けているのでしょう。
C57-1はここ数年不調なときも多く近年 長期のメインテナンスを受けています。本年2026年も5〜8月まではD51-200による運行となっていますが、9月以降は長期修理を終えて運行に復帰するという話も聞かれます。
期待に胸膨らませながら、のんびりゆったりの旅を計画してみてください・・。







