小学校時代の “図画工作” の授業、好きでしたか? それとも苦手でしたでしょうか? 半世紀以上前、私がまだ児童の頃は図画工作を縮めて “図工” の時間などと言っていましたが、今でもそうなのかな・・。
どんな科目であっても人によって得意不得意はあるもの、特に手先の器用さや発想力を求められるアートな授業内容は、些かに人との相性を左右しやすいものかもしれません。
私は・・といえば、好きでした。夢見がちな天然風味のオツムだったからか自分の思い付いたものを表現したり、あれこれいじりまわすことが性に合っていたのか、図工の時間を苦に感じたことはありませんでした。
逆に言うなら記憶力や幾何的な応用力を求められる “算数” や “社会” “理科” などは軒並み苦手でした。 つくづく必須科目・進学ラインに向いていない脳ミソですね・・。 おまけに運動オンチですし (^_^;)
ともあれ、こうした性格ゆえか子供の頃は模型作りに明け暮れ、また自分で方眼紙に作図し切り抜いて立体のロボットを作ってみたり、絵を描いてみたりと、手先・目先のことばかりにかまけていました。
その嗜好性は年金も間近のこの歳になっても変わりません。只、その手先・目先がどうにも効かなくなってきてしまいましたが・・。
デザイン業まで兼務した我が身を顧みるとき、好きなことに相応に注力できた半生に悔いはありません。 “好きこそものの上手なれ” と言いますし・・
そう、私の場合、好きではありましたが・・上手かといわれると・・決して胸を張って上手とは言えないのです。 自分の作り上げたものに納得いくことは稀、まだまだ改善の余地があるように思えてしまいます。
名の知れたアーティスト、クリエイターたちなどとは比するべくもありませんが、彼らのような才能にただ感嘆するのみです・・。
自分語りばかりですみません・・m(__)m
名の知れた方々に限らず、何かを創造し築き上げるプロセスにおいて用いる有効な手段のひとつに “見立て” というものがあります。
作り上げるものが何であれ、それに取り掛かろうとするとき、完全な完成形が出来ているわけでも、それらに必要なリソースが揃っているわけでもありません。 そんなときは日常の生活で見かけるような小物などを “とりあえずの代用として” 事を進めていきます。
子供の頃、ソロバンを車や戦車に見立ててガラガラ滑らしてあそんでみたり、積み上げた布団を山に見立てて登ってみたりといった、あれと同じです。 視点を変えれば “子供は想像力と発想の宝庫” ともいえましょう。
イレギュラーなアプローチながら、そうした “見立て” の能力は単なる手法であることにとどまらず、より豊かな想像力を生み出し育む源ともなるのです。
こうした “見立て” の能力をいかんなく発揮し独自の世界観を作り上げたのが、ミニチュア写真家であり見立て作家の田中達也さんです。
熊本県出身、現在は鹿児島県を中心に活動を行う田中さん、子供の頃は模型作りやテレビゲーム、そして絵を描くことが好きなごく普通の少年だったといいます。
模型(プラモデル)などでは基本的に実際のモデルから縮尺されたものを扱うのが通例ですが、そういったことからミニチュアやジオラマなど箱庭的な世界に惹き込まれていくようになりました。 特に精緻な造形と自由な組み合わせで無限の世界を作り上げることができる “鉄道模型” には強い憧れを持っていたそうです。
とはいえ鉄道模型は旧来から高価・・というかお金の掛かる趣味のひとつ。一般的な家庭で、それも子供の興味に合わせて簡単に買い与えられるものでもありません。
欲しくても買ってもらえない不足感を埋めるために、田中さんは身近に有ったティッシュケースや小物の空箱、本や雑貨などを、模型の電車やビルに見立てて遊んだそうです。
こうした “見立て” と “転用” を応用した遊びというのは、幼少期から少年期における子供ならではの発想の豊かさ、そして没入感ゆえの行為ですが、似たような経験と記憶をお持ちの方も割と多いのではないでしょうか? 私としてみれば共感できること数多です。
只、田中さんの場合、これらの子供時代の感覚が胸の奥底でずっと静かに息づいていたのでしょうか。
大学時代に美術・デザイン関連を専修し、同時に教職の資格も取得しましたが、その中で自分が思い浮かべる形や世界観を構築するための手法に考えを巡らせ、また、それを人に伝えることの難しさや大事さに気がついたといいます。
卒業後、鹿児島県内の制作会社に就職しましたが、広告制作など日々アイデアを募らせて仕事を進めていく中で幼い頃に培った “見立て” の手法を再認識されたようで・・。
それ以来 “見立ての手法” “見立ての面白さ” に則った技術を度々用いて仕事を進めていきましたが、同時に仕事を離れた “個人的な趣味” としての作品発表をも行うようになっていきました。 作り上げた作品をインターネット上で公開すると大きな反響を呼び、やがて社会からも注目を集めるようになります。
近年において最も多くの人に知られたのは2017年、NHKの連続テレビ小説『ひよっこ』のオープニングではないでしょうか。 (NHK発信のものがなくオリジナルな映像は見つかりませんでしたが、以下の動画から多少 再確認することができます)
食パンや切り分けたフランスパンを駅と電車に、サイダー瓶の王冠をテーブルに、きらめくガラス瓶を並べてナイトイベントの街並みに・・。氏の感性と構成力の高さには・・やはり感嘆するほかありませんね・・。
10月の末から12月14日(日)まで愛媛県松山市の愛媛県美術館にて『田中達也展 みたてのくみたて MINIATURE LIFE・MITATE MIND』が開催されています。
「HOME」「FORM」「COLOR」「SCALE」「MOTION」「LIFE」「WORLD」の7つのエリアごとに分けられた氏の作品は、どれも日頃見慣れた素材にありながらも今まで考えもしなかった “見立て” の効果に彩られて、新たな驚きと楽しさに満ち溢れています。
また、イベントでは発想の逆転、見慣れた素材を大型化することにより観覧者自らが組み合わせの人物となってミニチュア世界を体感、フォトスポットにもなるコーナーも併設、より楽しめる設営となっています。
手の届くミニチュアの異世界、存分に楽しまれては如何でしょうか・・。
こうした感性や作品の良いところは、作り手の技能や感覚が天上の芸術家のような人々の独占物ではなく、一般私達のような人にも見様見真似でも楽しめるところにあります。
アートやクリエーションには絶対的な規定や法則があるわけではないので、その人それぞれの感性そのものの発露、楽しんだ者勝ちなのです。
よく “センスがないから・・” などといいますが、センスなどは興味の先に芽生え育つもの・・。 何よりも先ず “楽しむこと” を探ってみましょう。
この秋があなたの内面世界に新たな実りを生み出す季節となりますように・・。
『田中達也展 みたてのくみたて MINIATURE LIFE・MITATE MIND』愛媛県美術館







