二三の雲は今も生きている – 福島・長崎県

山本 二三(やまもと にぞう) 、その名を知られる方は、おそらくアニメーションに精通された方でしょうか。 1953年(昭和28年)生まれ、70年代の半ばからスタジオに在籍し、後に語り継がれる多くの大作に関わられました。

映画やテレビドラマの制作がそうであるように、アニメーション制作もまた その担当する役割がそれぞれ細分化されています。

その中でも作画に携わる作業はアニメそのもの・本体を作り上げていくものなので、制作のメインストリームともいえる業務なのですが・・。

これとて絵コンテ(初期段階)や セル画工程(最終的にフィルムに落とし込んでいく前の作業)を別にしても、キャラクターやメカニックなど様々な美術担当スタッフの協働によって作品は完成への道を歩むことになります。

山本氏が受け持った分野は「背景」。
出来上がった作品を観客がはじめて目にするとき最も意識の外にあり・・、そして見終わったずっと後まで、無意識の内に残り続ける「世界観そのもの」を描く美術担当だったのです。

 

背景美術・・、氏が初めて総責任者として関わった作品が1978年にNHKで放送された「未来少年コナン」でした。

この作品は後のスタジオジブリで知られる宮崎駿氏が総演出(監督)を初めて務めた作品でもありました。 「ルパン三世」シリーズや「アルプスの少女ハイジ」で共に苦難を越えてきた高畑勲氏とともに本格的アニメーションとして作り上げたものです。

画像©日本アニメーション NIPPON ANIMATION

放送当時の視聴率は奮いませんでしたが、SF作品でありながら練り上げられた骨太な世界観。そして端々に見る斬新かつ感動的な演出と作画技法は、それまでのアニメーションクォリティを打ち破るものであり宮崎アニメのマイルストーンとなった作品でもありました。

ところが当時の美術監督が急遽降板することになり、白羽の矢が立ったのが山本二三氏その人でした・・。

 

それまで「サザエさん」や「マジンガーZ」で着実に地歩を築いてきた山本氏でしたが、「未来少年コナン」の現場にあってはかなり苦労を重ねられたようです。

完成度の高さで知られる宮崎作品、こだわり妥協を許さない宮崎監督の峻烈さは当時から旺盛であったようで、「未来少年コナン」のスタッフの多くもこの洗礼に晒されました。 当初の美術監督降板に代わり参加した山本氏も同様であったでしょう・・。

しかし、この苦労の中から山本氏が内に秘めていた才能が本格的に開花していきます。

画像©長崎新聞

まだアニメーションの背景が背景としか認知されていなかった時代、「未来少年コナン」で描かれる空や雲は極めて有機的に振る舞い、それは “絵” を越えて “空間” であり “世界” となりました。

いかに秀逸な脚本やキャラクターが存在しても、それだけで作品世界は完成されません。 魅力的なキャラクターがいて、感動的な物語の中で語り動き回り、それらが生きる “世界” が必要なのです。

そこに効果的な音響や劇伴音楽が合わさることによって、ひとつの卓越した作品が完成されるのです。

山本二三氏の描く空、雲、未踏の森、街並みや部屋は単なる絵ではなく、そこにあって生きている実在そのものといえるでしょう。

コナン以後も宮崎氏や高畑氏そしてジブリ作品に多く関わり、「ルパン三世 カリオストロの城」で数多の背景を、「天空の城ラピュタ」で象徴的な空や巨木を、「もののけ姫」で神厳鬱蒼たる森を描き、作品の質と感動を背景から支え続けました。

画像©山本二三

彼の作画に対する姿勢を貫いているもののひとつに、直接そこに無いもの、目には見え難くとも実際の雰囲気を伝えるために必要なものを求め描くというものがあるそうです。 “生きている背景” を描き続けた彼らしいポリシーといえるでしょうか。

 

初見では意識して顧みられることの少ない・・、それでいて欠くことのできない山本二三の空。 2023年、70歳という年齢で逝去したことにより彼の空は二度と描かれることはなくなりました。

彼が旅立ったであろう雄大な青き空。そこに浮かび流れる白雲は “二三雲” と呼ばれ業界人やファンの間で愛され続けています・・。

半世紀に渡る画業を記して、彼の故郷 長崎県五島市には『五島の雲 山本二三美術館』があります。

画像©山本二三 「五島の雲 山本二三美術館」

江戸時代建造の武家屋敷「松園邸」を改修したもので、落ち着いた佇まいの中に彼の手による背景原画や絵画の展示。再現されたアトリエや “二三雲” の回廊が訪問客の目を楽しませてくれるでしょう。

 

また、福島県郡山市にある『郡山市立美術館』ではこの13日から11月9日(日) にかけ『新・山本二三展』が開催されています。

初期から最新作までの手描き背景画に加え、制作の過程で生み出される未公開の美術設定やイメージボード、制作用具など約220点が紹介展示されるそうです。

アニメーターを目指す若者のみならず、今までアニメーションの背景に意識が向かなかった人たち・・、どころかアニメーションにさして詳しくなかった諸氏にも、新たな発見と感動をもたらしてくれるのではないでしょうか。

あの日に見上げたような どこまでも青い空、漂う二三の雲は今も生きて貴方を待ち続けています・・。

『郡山市立美術館 新・山本二三展』公式サイト

『五島の雲 山本二三美術館』公式サイト

画像©山本二三

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