「テルマエ・ロマエ」に学ぶ入浴の歴史 – 山梨県

ようやく秋らしい日和が見られるようになって、少しはヤレヤレな感じになってきました。気の早い話かもしれませんが、遠からずまた風花舞う冬の到来を考えれば、今のうちに夏の疲れを取り行楽の恵みに浴して 身心ともにリフレッシュしておきたいもの・・。

不思議なもので(例えば)同じ室温23〜25℃であっても、春の彼岸過ぎ4月も後半辺りであれば「暖かくなった・・」と感じますし、10月これからの時期であれば「涼しい・・」と感じます。それまでの気候に慣れた身体ならではの感覚ですが、季節の変わり目だけに体調管理にも気をつけたいところですね。

さて、気温も落ち着き秋の気配が身近に感じられるようになると、恋しくなってくるのが 温かいお風呂、温泉。これもまた日本人ならではの感覚といったところでしょう。

とはいえ、風呂や温泉にまつわる文化というものが、日本だけのものではないのも近年ではよく知られたところ。火山帯上に立国している日本ほどではないにせよ、古今東西、お風呂、温泉とも各国なりの入浴文化を築いてきたのです・・。

 

2008年から2013年にかけて雑誌掲載され大きな反響を呼び、二度の実写映画化までされた漫画「テルマエ・ロマエ」は、掲載終了後の今も多くのファンを持つ人気作品です。

・・古代ローマ帝国の浴場建築技師 “ルシウス” はふとしたきっかけから現代の日本にタイムスリップ。 独自に発達した温泉文化に感銘を受け、さらなるタイムスリップを繰り返しながら故国ローマの浴場発展に活かしてゆく。なおかつ日本の温泉旅館に身を置く娘 “さつき” との間に愛を育んでゆく。・・といったところが大まかな概要。

画像 © ヤマザキマリ / 株式会社 エンターブレイン

題材として用いられることが少ない “古代ローマ” + “浴場” と、現代的なフィクション+ラブコメ要素を巧妙に組み合わせることで、それまでにない面白さと知見を広めました。 因みに「テルマエ・ロマエ」とは「ローマの温泉たち(公衆浴場)」の意味だそうです。

 

この「テルマエ・ロマエ」をモチーフとして、主人公ルシウス・モデストゥスをホスト役に、古代ローマの浴場、そして日本の入浴文化を興味深くご案内してゆく『テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本』が、山梨県甲府市の「山梨県立美術館」で開催されています。

テルマエ展では 古の面影を彷彿とさせる絵画や彫刻、考古学的に価値の高い資料など100点もの展示物から、古代ローマの入浴場、それも市井の民に近いテルマエ(公衆浴場)の様子を伝えることで、時代と文化を隔てながらも私たちにも身近なリアルな生活感を知る機会になるでしょう。

画像 © 山梨県立美術館

帝政ローマは歴史的にも高度に発達した文化国家であり、そしてそれは同時に支配階級と一般民衆の間に、大きな生活格差を生み出した時代でもありました。

時の権力者は食料の補給やテルマエの建設増加を施して、国民の不公平感解消にあたったといい、多い時には市街地に大小数百軒ものテルマエがあったとも伝わります。 「テルマエ・ロマエ」に登場するローマ皇帝 “ハドリアヌス(実在)” も、そうしたひとりであり後の時代に “賢帝” とも讃えられました・・。

ローマ市 カラカラ浴場跡

 

同時にテルマエ展では “ルシウス” が感銘を受けた日本の入浴文化と歴史にも光を当てていきます。

今回の記事でも若干混淆していますが、”入浴” と “温泉” は似て異なる文言でしょう。”入浴” はその語のとおり風呂や温泉を利用することですが、”温泉” は狭義には温湯が湧き出る場所であり、それを利用した入浴施設といえるでしょう。

狭義の “温泉” は、それこそ古墳時代以前から存在し 当地の民によって管理・愛用され、名の知れた温泉地には続く時代の権力者たちも足繁く通ったと資料にも残されていますね。

翻って “入浴・人工の風呂” ということになると少々勝手が異なります。何より自前で水を調達し、それを沸かして維持しなければならないのですから、その労力に相応なものを伴うところ。 よって、 “水道” というものが整備されるまでは、その多くが一定量の湯を沸かして蒸気に浴する “サウナ方式” でありました。

6世紀頃、仏教の伝来とともに “風呂・入浴” の仕儀が流入したとも伝わります。大陸における入浴文化は身心安寧のための法でもあり、流入後は主に寺院内に “浴堂” が設けられ “身と心を清め助けるもの” として使われていたことから、永く宗教的な側面をも持ち合わせていたようです。

社会の安定をみる江戸時代に至って、この寺院風呂を一般民衆にも徐々に開放していったことが 後の “湯屋” に繋がりました。 都市部と地方では多少異なりますが、おおよそ日本人と “日常お風呂” 文化のはじめは江戸時代あたりといえるでしょうか・・。

 

それにしても、”温泉” があり “日毎の入浴文化” が培われてきた日本の国。温泉が国土の数多に身近にあるがゆえの “温泉=風呂=入浴” の混淆文化と言えるのかもしれませんね。

実際、山梨県下にも “河口湖温泉” “山中湖温泉” “下部温泉” など、富士山由来の温泉が数多くあり、「テルマエ展」が開かれている山梨県立美術館、甲府市にも “温泉大好き武将・武田信玄” の隠し湯ともいわれる “湯村温泉” もあります。 「テルマエ展」での時代・風土異なる “風呂文化” の見聞とともに、温泉巡りをしてみるのも一興ではないかと思います。

快適であるがゆえに、キツい夏冬に比べて短く感じてしまう春秋の過ごしやすい時期、行楽の季節。 温泉にせよ紅葉にせよ、貴方の身心に癒やしと活力、リフレッシュメントを与えてくれる秋となりますように・・。

『テルマエ展 お風呂でつながる古代ローマと日本』公式サイト

開催期間:2023年9月9日(土)~11月5日(日)
月曜休館。月曜祝日の場合は開館し、翌平日休み

開館時間:9:00〜17:00 最終入館16:30

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