夜陰の紅葉を照らす光に古を想う – 奈良県

奈良盆地の南端部、静かな山間の場所、そして訪れた人なら分かる言葉では表せないような古色豊かな陽射しと風・・。時間さえゆったりと流れているかのような古代の面影ゆかしき村といえば、ご存知 奈良県明日香村・・。

個人的にも好きなため、少々持ち上げ気味な書き出しとなっていますがw、歴史好き、特に飛鳥時代前後のお話に興味抱かれる方には、得難い魅力溢れる青史の景勝地といえましょう。

総積2000トンに及ぶとされる巨石を積み上げ、明日香村の象徴とさえいえそうな “石舞台古墳” をはじめ数々の史跡を求め、私も高校生の頃から何度も訪れましたが、その秘めたる古代の風情は尽きるところをしりません。ここには今も1400年前の風が流れているのです・・。

 

石舞台、飛鳥宮跡、女子群像壁画で知られる高松塚古墳、キトラ古墳、亀石、鬼の雪隠など今もなお謎多き旧跡。飛鳥坐神社、飛鳥寺、橘寺など創建さえ詳らかでない古代発祥の寺院等々、明日香村に坐す往古の面影は、その時の遠さ故に確たる詳細が顕わでないところが さらにロマンを招くのでありましょう。

ということで 本日はこの明日香村の一院、花のお寺としても有名な西国三十三所 七番霊場『岡寺』のお話をさせていただきたいと思います。

岡寺は上述の石舞台や飛鳥寺などからもほど近い古代飛鳥宮域のやや山手中腹、その地名も “岡” に建つ寺です。 岡に建つ寺 “岡寺”、この名は後世に呼び習わされた “通称” であり、正式には『東光山 真珠院 龍蓋寺(りゅうがいじ)』と号します。

 

古代日本において最大の内乱となった “壬申の乱” 終息後、天武天皇の継子として期待された “草壁皇子”。されど父天皇崩御の後も皇位に就くことなく28歳の若さで逝去。 歴史的にも謎の多い皇子として知られていますが、母 鸕野讃良(後の持統天皇)によって引き起こされた謀計(対抗勢力であった大津皇子への粛清など)の末の心労が原因ではないかと考えられてもいます。

大人しく生真面目な人柄であったとも伝えられますが、この草壁皇子の宮があった場所が当地の “岡” であり、”義淵(ぎえん)” という僧侶が亡き皇子の館を譲り受け興したのが『龍蓋寺 / 岡寺』の由緒なのだそうです。

“義淵” は法相宗の僧侶ですが元々 氏族の出自であったともされ、その縁からか天武天皇の元で養育されたといいます。草壁皇子と歳は離れていますが家族や兄弟のように近しい間柄であったのでしょう。 言うなれば龍蓋寺の創建は亡き弟たちへの手向けであったのかもしれませんね・・。

 

岡寺の境内にはその旧名の如く “龍蓋池” と名付けられた池があり、その中ほどには一本の石柱が建てられています。

寺の創建伝説のひとつに、「飛鳥の都を荒らす龍が現れ 日毎にその災厄が巷を覆ったが、義淵の手によって調伏され この池に封じられた。後に龍は改心し善霊と化し当地の守神となった」というものがあります。現在もこの石柱に触れると大雨に見舞われるのだとか。

そして異聞として、その龍とは鸕野讃良によって刑死させられた大津皇子であったという話もあり、同時に苦心の末早逝した草壁皇子であったという話も並列するかのように伝えられています。 由緒伝承はさもあれど、骨肉ともいえる虚しい争いが演じられた当時の悲しい記憶と、それを鎮めるがために心を砕いた義淵の想いが息づいているようにも思えますね・・。

義淵は後に日本初の “僧正” の名を付され、岡寺の他 “龍門寺” など五ヶ龍寺の創建に携わっています。 博識・法力に優れ並び立つ者なき傑僧と称され、その弟子として行基、玄昉、良弁らを輩出しています。

面白いのは門下の一僧には過去の記事でも取り上げた “弓削道鏡” もおり・・、そこは人の歴史、如何に高僧の薫陶を受けた者でも、その活かし方 道の歩き方は人それぞれということですかね・・w。

 

義淵は法相宗の僧であったので、岡寺もその歴史前半では法相宗の寺院でありました。時の流れの中でその趨勢が失われ、江戸時代に同県桜井市 長谷寺の加担によって復興し、以降 真言宗豊山派の寺院に改宗し現在に至ります。

上でも書きましたように、現在では四季を彩る “花の寺” として知られ、季節の花々が散りばめられた “花手水(はなちょうず)” はつとに有名ですね。 また先の龍調伏伝説を縁起に “厄除けの寺” としても崇敬を集めています。

当寺 本尊、日本最古といわれる “如意輪観音” 像は約5メートルという大きさもさることながら、その姿は一般に知られる如意輪観音像(右膝を立て六臂・六本の腕)と異なりリアルな二本の腕。どっしりと腰を据えて結跏趺坐を結ぶ堂々たる姿、仏像ファンにとっても見どころ多き尊像といえるでしょう。

 

そして時節は秋、境内内外には色鮮やかな紅葉が辺りを紅色に染め広げていきます。明日香の山間に薫る古代へのロマンを雄弁に物語る季節の到来です。

こうした中、11月23日(木)から26日(日)迄の4日間『もみじ回廊 紅葉ライトアップ』が開催されます。 岡寺ではこれまでも明日香村開催の “飛鳥 光の回廊” などに協賛開催をしてきましたが、光の回廊終了に伴い 本年からは当寺オリジナル開催としてのライトアップ・イベントとなりました。

開催時間は稜線に日も隠れる 夕刻17:00時から20:30時まで(最終入山20:00時)。数百数千と並んで夜陰を照らし出す竹灯籠とともに、仄かな光を放つ色とりどりの和傘。そしてプロジェクト・マッピングの妙。三重宝塔から楼門に至る紅葉のトンネルも大きな見どころですね。

長く続いた “飛鳥 光の回廊” 終了は残念ですが、それに代わる秋の夜のロマンチックイベントとしてこれからが注目です。

長閑で安寧、されど時に数多の人々の栄光と没落を飲み込みながら渦を描いていた往古の時代。

今 平和が続くこの時代にその厳しさのほどは想像の域にしかありませんが・・。せめてそうした時代の悲喜交交を、夜闇に映える古刹の向こうに想ってみるのも一興かもしれません・・。

『岡寺』公式サイト

『もみじ回廊 紅葉ライトアップ』当該ページ

※ ご承知のとおり 現在 コロナウイルス感染症問題に関連して、各地の行楽地・アミューズメント施設などでは その対策を実施中です。 それらの場所へお出かけの際は事前の体調管理・マスクや消毒対策の準備を整えられた上、各施設の対策にご協力の程お願い致します。 また これらの諸問題から施設の休館やイベントの中止なども予想されますので、お出掛け直前のご確認をお勧め致します。

お願い:運営状況、イベント等ご紹介記事の詳細やご質問については各開催先へお問い合わせ下さい。当サイトは運営内容に関する変更や中止、参加によるトラブル等の責務を負えません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください