和歌山県 熊野行楽チュートリアル、第三編にして最終話になります。 拙いながらの記事に関わらず、最後までお付き合いいただき有難うございます。m(__)m
二編 最後で “忘れ物” と書きましたが、忘れ物なんて言い方は失礼かもしれません。
熊野を来訪されるなら外せない一社、ある意味、熊野開闢にも連なり、その荘厳威容な佇まいによって近年とみに話題となっている『神倉神社』(かみくらじんじゃ)を最後に併記しておきたいと思います。
神倉山(標高120メートル)の山上に坐した “ゴトビキ岩”、ビルほどの大きさ 推定465トンともされる巨大な岩塊が、一見 落ちて来そうな驚異をまといながらも、そこに鎮座する稀有な社。 圧倒的な存在感で “磐座信仰” さもありなん、圧巻の一言です。 また、例年2月6日に行われる “お燈まつり”。 2000人もの男たちが燃え盛る松明を片手に山頂部から全石段を一気に駆け降りる、勇壮かつ神秘の祭事は一度見たら忘れられない光景となるでしょう。
”熊野速玉大社” の摂社であり、主祭神は “天照大神、高倉下命※” としながらも、熊野権現(上の神々の総称的・統合的な単一存在)が、熊野の最初に降り立った地ともされる神倉神社。 熊野三山を訪れる際は ぜひご予定に組み入れられることをお勧めします。
注:但し山上社に上る538段の石段は急勾配な上に、かなり凸凹ですので充分にご注意ください。 ※ 高倉下命 神武東征の折、熊野で危機に陥った神武天皇一行を助けたとされる神。
並びに もう一点、前編 熊野古道トレッキングの途中において “多富気王子(たふけおうじ)の石碑・・” なるものに触れましたが、「王子」とは 駒野古道(内の中辺路と紀伊路)沿道に築かれ、熊野巡礼に詣でる者たちの守護を司る祈願所(神社)でありました。
『熊野九十九王子』とも呼ばれ、最盛期には100近い王子社が設立され、一説には “休息・宿泊・救護” のための基点としても機能していたといわれます。 “王子” の名称は、修験道による解釈の “熊野権現の御子神” から来ています・・。 現在、その大半は遺影を留めるに過ぎませんが、千年過日の昔には多くの参詣者がここで安堵を得、残る旅の加護を祈ったのでしょう・・。
では、その「王子社」にまつわる民話を添えて “熊野チュートリアル” の締めと致します。
今回もご訪問いただき有難うございました。m(__)m
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『木になった旅人』
さても今は昔 熊野の下露ゆうところに兄と妹が住んでいたんやと
この兄妹は早うにお母はんを亡くしてな 病気がちのお父はんを支えて一生懸命に働いていたんやと
兄のほうは毎日毎日山へ出かけて木を伐り 妹のほうはお父はんの 世話やら家事の切り盛りやら一切を引き受けて 甲斐々々しゅう働いておった
そやけど兄一人の働きでは三人 食うてゆくのが精いっぱいで
お父はん の薬を買うた日などは 兄妹 食べずにいることもあったのやと
兄のほうはやっと十一になったばかしで 村の人たちも可哀相に思うて何くれとなしに面倒をみてくれ この兄妹を励ましてくれておったのやけど どうもお父はんの病気の方は捗々しゅういかんねやして
ある日のこと 兄が山からの帰り道 村一番の物知りのお婆さんに出会うたんやと
お婆さんはお父はんのことを色々たずねてくれたんやが 別れしなにふとこんなことを言うんやいしょ
「あんなあ あの小広の王子さんへ一度お参りしてみたらどうじゃい あそこん神さまは そりゃあありがたい神さまでな 何でも一生に一度だけは どんな願いでも聞き届けてくださるそうじゃ おまんらも(お前たちも)もぜひお参りして おすがりしぃよし」
* 和歌山県西牟婁郡小広峠にある小広王子社
それを聞くと 兄は小躍りせんばかしに喜んで さっそくに妹を連れてお参りに出かけ一生懸命お祈りしたんやと
するとその晩のことや 白いひげを生やした神さまが夢に出てきてな
「いつもながら感心な兄妹じゃ おまえたちの願いを聞き届けてやろう
岩上の坂という険しい坂を知っておろう あの坂に生えている黄色い花を採り それを煎じて父に飲ませるがよい かならずや病は治るであろう・・」
兄妹は夜が明けるのを待って岩上の坂へ登っていき あちこちと黄色の花を探したんやして
そしたら険しい崖っぷちに それもたった一本だけ咲いているのを見つけたんやと
苦労の末その花を採ると二人は急いで家に戻り それを煎じてお父はんに飲ましたんやて
そしたらたちまち病気は治り お父はんはすっかり元気を取り戻したんやと
兄妹は涙を流して喜んだんやと・・・
その噂は村じゅうにもパッと広まったんやけど ちょうどそのころ 熊野詣でをしようと村を通りかかった一人の男が この話を耳にしたんやして
「ほう そんなありがたい神さまがあるとは知らなんだ 今夜はその宮さんで夜明かしして頼もかい」
言うて ニタニタ笑いながら山へ上がっていったんやと
そうしてお社の前までやってくると
「えぇ神さま 私は はるばる京から参ったものですが 今 病気で死にかけている母親がございまして どうか死ぬまでに一度で いいから金の成る木を見たいと 毎日言い続けております どうか金の成る木をお授けくださいませ・・」
そうお願いすると お社の隅でごろりと横になったのやと
うつらうつら眠っていると 夢の中へ神さまが現れて
「おまえの母親が本当にそう申したというなら その願いを聞き届けてやろう
あすの朝 そこの石段の傍を探すがいい おまえの母親の望みのものを見るであろう」
と言われたんやと
夜が明けたんで その旅人はあわてて起き上がると、石段のところへ飛んでいったんよ
そしたらこれはどうじゃ 石段のそばでキラキラ光っているものが見えてるがな
八つ 九つ 十と黄金の実がぶら下がっている木じゃ
旅人は そりゃもう喜んで その木に抱きついてたら そこへ朝詣での村人が やって来て
「えらいもの持ってはるがな わしらにもちょっくら見せてくだされ・・」と頼むんやして
旅人はびっくりして 慌てて大きな風呂敷を取り出すと その木にスッポリ被せてしもたんやと
「そんな根性悪いことせんと ほんのちょっくら見せてくだされや」
村人たちがあんまり頼むよって 旅人はしぶしぶ
「まぁ仕方がない ひと目だけ拝ましてやるか それにしても おれさまの頭のよいのに驚いたか ここの神さまは親孝行なら どんな願いでも聞き届けてくれると聞いたんで 神さまをだましてやったのさ あんたらも生きてる間に せいぜいその頭を使うことや・・」
そう言いながら パッと風呂敷をとりのけたんやと
そしたらこりゃどうじゃ あんなにキラキラ輝いていた黄金の実は一つも見当たらへん
それどころか 腐った古草履が何足かぶら下がってんねやしょ
ほいたら旅人はかんかんに怒って
「ええい このうそつき神めが!」
ちゅうて 大きな石を拾うとお社の中へ 三つ 四つと放りこんだんやて
村人が慌てて止めるんやけど もう頭にきてしもて人の言うことなんか聞くかよう
「ええい これでもか これでもか」
とひしりまくって あとからあとから石を放りこむんやして
「もうやめなされ ええ加減にせんと神さまのバチが当たりますよし それに 元はといえば 神さまをだました あんたの方が悪いんやして・・」
見るに見かねて旅人を抱きとめた村人やったんやけど・・はっと顔色を変えたんやと
恐ろしいことが起こったんやして
たった今まで大騒ぎしていた旅人の髪の毛の一本一本が 木の葉に変わってゆくんやしょ
ほいで体の方は見る間に大きな木の幹になってしもうたんやて・・
あまりのことに村人たちは へたへたとその場に座りこんでしもて震えとったんやと・・
せんど(大分)してから誰かがポツンと口をきったんやと
「やっぱり“金の成る木” なんて この世にあれへんねや あるとしたら あがら(自分たち)の心の中に生えて育つんやのし・・・」
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