動き出す幽趣 BONSAIは何処に行くのか


まことに流行や物事の価値観というものは時代によって移り変わるようで、数年前まで当然であったことが、今では全く異なる状況にあるなどということは頻繁に起こりえるようで・・。

平成の初期まではサラリーマンの標準装備ともいえた “ポケベル” も今では遠い過去の遺物・・、それどころか つい5〜6年前まで、あれほど普及した “携帯電話 / ガラケー” でさえ、そろそろ見たことも無いという世代が出てきそうな勢いです。

変遷を重ねることによって社会は進歩を遂げるのでしょうが、その移り変わりの目まぐるしさに、時折ついていけなくも感じてしまいますね・・w。

 

さて、本日ご案内する “変遷” は、古くからあるのに見落としがちなもの・・、既にご存知の方も多いでしょうか、日本の園芸文化の中でも伝統ある、そして この10年ほどの間に大きくその状況を変えてきた「盆栽」のトピックスです。

この「盆栽」・・そうですね、少し前までは “年配者の趣味” “現役引退後の暇つぶし” 的な印象が強かったのではないでしょうか。 漫画「サザエさん」の父親 “波平さん” が剪定鋏でチョキチョキやってるイメージですね(波平さんは現役ですが・・)

しかし、現在 盆栽は若い世代や女性の間でも注目を集め、少しずつではありますが愛好者を増やしているのだそうです。

この状況の変化の背景には、盆栽業界が抱える暗然たる危機感が関係しています。
つまり、今、日本における盆栽の世界は、それを供給する側にも、受け入れ愛好する側にも、新しく若い活力を切実に求めているのですね・・。

高齢者の趣味といわれ昭和時代には数万人を数えた盆栽人口も、今は7千人を割り込むまで減少したといわれ、商業的な未来が危ぶまれているだけでなく、その文化の継承にも将来が見え難くなっているのだそうです。

新しい国内市場の開拓に力を入れはじめて10年余り、先のような新世代の愛好者の増加にようやく結び付きつつある現状といったところでしょうか。

 


一方で、海外における盆栽愛好者の増加には目を見張るものがあり、2017年に埼玉県で開かれた「世界盆栽大会」には、40ヶ国から4万人を超える愛好家が参加、国宝級といわれる国内盆栽から気鋭の海外作品まで、300点を超える展示に多くの注目が集まりました。

日本からの盆栽輸出額も数億円規模だった2000年代初頭に比べ2010年代に入り急上昇、近年では100億円に届く勢いで 今もなお伸び続けているそうです。

海の向こうでは「BONSAI」の名で通り、高度な園芸のひとつとして、また、侘び寂びにも通ずる芸術品として愛好する人が増加し、のみならず盆栽作家・職人も次々と育っています。そうなるとそれにまつわる業界・経済も増大してゆくということですね。

世界盆栽大会もアメリカ、ドイツ、韓国、そして盆栽の下地となった「盆景」の国、中国でも開催され、盆栽のユネスコの無形文化遺産申請も文化庁によって検討中だとか・・。いよいよ “盆栽” はワールドワイドな展開で世界に定着しつつあるのです。

 

これだけであれば、日本にとっても喜ばしいことなのですが、残念なことに 発祥の地であるはずの日本そのものの盆栽人口が危機的な状態である現状・・。これが問題です。

海外とは逆の状態、愛好者人口が減少すれば業界の活力も失われ経済も縮小してゆく。当然、業者さんは維持存続のために海外輸出に注力してゆくようになり、結果として資金も人材も、そして文化そのものが日本の国から流出して希薄になってしまいかねないのです。

平安時代ともいわれる盆栽の創始、鎌倉時代には広く定着し江戸時代以降 大きく発展を遂げてきた悠久の歴史、一子相伝ともされる師弟継承の形からか、長く盆栽制作の世界は閉鎖的であったともいわれます。 それは盆栽の世界の深淵さ故かもしれません。

そして それを打ち破るかのように、近年、国内における新たな愛好者層の発掘、新たな盆栽文化の創造に向けて新世代の作家職人・若きクリエイター達の活動が高められてきているのです。


(星人アートプロジェクト 「空中盆栽」)

千年を優に超える歴史の中で盆栽は培われてきました。
盆栽が他の園芸と決定的に異なる点は、盆栽の意義そのものが 単にその姿形の出来や美しさを見せるにとどまらず、そこから表現され見る者に想起させる、作品の向こう側にある深い世界観にあります。

観賞用として珍重される盆栽ですが、本来それは単なる飾り物ではなく、目に見えるものの先に広がる世界こそが盆栽の本義なのです。

国際化され、また新たな創造のもとに創り出される盆栽は、本来持っていた自然と侘び寂びの憧憬とは異なる世界に 足を踏み出すことになるかもしれません。
人の社会と歴史の中で、伝統と革新は常に相克の立場にあるものなのです。

願わくば、盆栽が世界に向けて羽ばたいてゆくと同時に、国内でもしっかりと、古格と刷新の両道&融合を成しえた文化の再興を、果たしてくれることを祈るばかりです。

 

盆栽は正味 本格的にやろうとすると、その奥深さ故に非常に手間と時間、そして想像力を必要とする趣味でもあります。 それだけに比較的 時間に余裕のある年配者の興ずるところとなってしまうのも無理からぬところでしょう。

しかし、最近では比較的 手軽に始められ育てることができる品種や作品、静かなひとときを過ごすための小品など、現代の生活・世相に合わせたものも色々と出て来ています。

機会があれば是非とも一度 “盆栽” に触れ合ってみてください。*
“年寄りの趣味” などという先入観を一度捨ててみれば、そこには必ず今まで知らなかった新たな世界が開けているはずです。

苦心と想像力を重ねて育てる、目で見て愛でる、その向こう側の世界に幽趣を馳せる、それが “盆栽” の醍醐味なのですから・・。

(* 販売会・品評会、また他人の作品を直接 手で触るのは基本的にです。)

 

(一社)日本盆栽協会 公式サイト(フォトギャラリーが見ものです)

HOSHINCHU「空中盆栽」のサイト

 

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