「幸せは 歩いてこない だから歩いてゆくんだね ♪ 一日一歩 三日で三歩 ♪♪」 昭和時代を知る方ならご存知、水前寺清子さんの「三百六十五歩のマーチ」。躍進を続けていた高度成長期を象徴するかのように力強くそして希望に溢れた歌でしたね。
只、この歌、単に元気で楽しいだけの内容ではなく、思うようにならない日や辛く悲しいことがあっても、挫けず諦めず 喜びの日が来るのを信じて一歩ずつ歩いて行こう・・という不屈の応援歌でもありました。 ちょっと減調傾向になるとすぐにドロップアウトして他の道を模索する、現代のような合理性が まだ薄かった頃、ひたすら努力の積み重ねを美徳としていた時代の精神を歌い上げた歌でもあったのです・・。
「一日一歩 三日で三歩 三歩進んで二歩下がる」なんて凄く不合理じゃん! ・・昭和40年代 まだ小学生であった私はそう思い、また処々の理由からこの歌を当時 快く思っていませんでしたが、50年を超えて再び思い返してみると、この歌に込められた原初的な人のあり方生き様に改めて頷かされてしまうのです。
都合よろしくフットワークを変えながら生きてゆくのも ひとつの生き方ではありますが、基本、人の人生は一日一日の積み重ね・・。 ”腕を振って足を上げて♪” 一歩ずつ地道に歩いてゆく他ないのではないでしょうか・・。
ところで、一歩一歩 とはいうものの、人の歩き方が時代によって変わってきたという説があります。日本においては「ナンバ歩き」と呼ばれるものです。 耳にされたことがある方もおられるのではないでしょうか・・?
簡単に言うと江戸時代の頃までは、現代の歩行方法とは異なる歩きかたで歩いていたのではないかということ。 要するに “右足を出すときは同時に左腕を、左足を出すときは同時に右腕を” という現在当たり前の歩き方とは(およそ*)逆の手配り・足配りだったとされる歩行法。
* 多く、”右足と右腕・左足と左腕” を同時に繰り出すのが「ナンバ歩き」の特徴とされてきましたが、「ナンバ術協会」の師範(桐朋学園大学教授・矢野龍彦氏)によると、それは誤った認識だそうで もう少し柔軟性に富んだ歩き方なのだそうです。 * また「ナンバ歩き」そのものについても その典拠が薄いことから、実在性に疑義を呈する意見も出ています。
現代ではスッと背筋を立ててスマートに?歩くのが格好いいのかもしれませんが、「ナンバ歩き」では重心を低く、体幹を保ちながら “無駄に拗らず” “無駄に踏ん張らず” “無駄な動きを交えない” 歩き方。不合理をまた良しとする時代にあって、身体にとってはとても合理的な動かし方であったのかもしれませんね。
「ナンバ歩き」が実在であったか否か、研究の外野にいる私たちにその真偽は分かりませんが、”歩き方” などという日々の暮らしから自然に生まれ身についてゆく身体の動作。現代とは移動方法も暮らしの実情もかなり異なっていた時代に、今とは異なる動き方があったとしても不思議ではないようにも思えます。
そして、仮にそのような歩き方が実在していたとして、何故 それが現代のようなスタイルに変わってしまったかといえば、やはり生活様式の変化といえるでしょう。
あくまで個人的な想像ですが、「ナンバ歩き」が実在したという理由の一つに “着物の帯が解け難い歩き方だった” というものがあります。これが事実だとすれば、明治以降 急速にその服飾文化も西洋化を果たしていった中で、歩き方も自然にその着衣に沿ったものに変化していったと考えることができるのではないでしょうか・・?
ともあれ、普段、何ら気にすることなく行っている身体の動作や 日々の暮らしの端々にも、人が紡いできた時代や社会の影響が少なくないようなのです。
以下の図は「進化の行進図」と呼ばれ、古くから知られた “人類進化を表したイラスト” なのですが、近年の研究においては この図式にも疑問が持たれており、実際にはこのような大まかで一絡げなものではなく、同じ時代、比較的近い地域にあっても、その環境・自然条件などの違いによって人の行動パターンや動作傾向の進化に違いがあったことが報告されています。
人類はその進化過程の途上において樹上生活をしていた時期があるとされ、故に手先が発達し身体や関節が柔軟になったと言われていますが、450万年前の地層(エチオピア)から見つかった “ラミダス猿人” と呼ばれる最古の猿人化石からは、樹上生活と地上歩行(二足歩行)の両方の特徴が備わっていたそうです。
また。古代ギリシャやローマ時代、中世のインドや中国においても地域や環境による歩行文化の違いが文献に残されており・・。 やはり、人は思考のみならず その身体の動きにさえ、自然や社会の影響と切っても切れない結びつきを持っているものだと感じさせられますね・・。
年末最後の記事にあたって何やら小難しく面倒くさい内容となってしまい申し訳ありません。
何にせよ歩くことは生きること行動することの基本でもあります。 皆様にも心身とも健康に留意していただき日々の歩みをお続けください。
ということで、一日一歩・・と換算するならば、本日12月28日、本年の元旦から数えて362歩目となりました。後3日、後3歩で大晦日、今年も満了ということに相成ります。皆様にはつつがなく残り3日を歩かれて新たな年をお迎えくださいますよう。
本年も一年間 誠に有難うございました。来年も何卒よろしくお願い申し上げます。
イナバナ.コム ROCKZOU