憧れた異国の光「兼高かおる 世界の旅」

本日は2019年7月ポストの記事をベースにリライトしたものになります。
当時、昭和時代の出来事をカテゴライズしたいと考え “昭和ピックアップ” という新カテゴリーを設置、その後 “あの頃ピックアップス” と名前変えして10本ほど記事を上げましたが、2021年2月から新規ブログ「昭和テロップ」を別に開設したため、その後 当カテゴリーの寄稿は伸びず事実上 休眠状態となっています。

今後も昭和関連記事は「昭和テロップ」の方に注力してゆくと思われますので、今回はイナバナ.コムにも過去こんな記事があったという感じでご賞味いただければと思います・・。

 

「もはや戦後ではない」と言われたのは1956年(昭和31年)度の経済白書、当時の流行語にもなりました。
昭和20年8月の敗戦以降、永きに渡る苦渋と疲弊、 大きな喪失感と新しい時代への迷いの中で生きてきた日本人にとって この言葉は、この5年前(1951年・昭和26年)に発効された “サンフランシスコ講和条約” とともに、重たい足枷(あしかせ)をようやく外せたような開放感と達成感にあふれていたのでしょうか・・

しかし、その後に続く「回復を通しての成長は終わった。今後の成長は近代化によって支えられる」という序文のとおり、復興を成し遂げたのは基本的な社会基盤と景気回復への道筋だけであって、文化的な近代化はまだまだこれからといった状況でした。

まだ町のそこここに戦後の爪痕が残る昭和30年代、生活の基盤は回復したものの大多数の国民にとって海外(特に欧米)は、いつか辿り着くべき文化先進の地であり 同時に夢の舞台でもありました。

30年代後半になるとテレビの低価格化と普及が進んだことにより、茶の間で遠い異国の風景を目にした時も”海外渡航” は一般国民にとってまだまだ別次元の話であり”憧れ” の枠を出ないものだったのです。

 

そんな 昭和34年、年も押し詰まった12月13日に始まった「兼高かおる世界飛び歩き」は、人々の目に、脚色されていない”生” の海外の姿と洒脱なナレーションを届け人気を博しました。

当時若干31歳、フリーランスのジャーナリストとして活躍されていた “兼高かおる” さんが実際にその地を訪れ取材した映像をもとに、サブキャスターの芥川隆行氏とともに送る同番組は、開始翌年の35年9月には「兼高かおる 世界の旅」として改題しさらに視聴率を上げてゆきます。

その後 バブル景気の真っ只中、誰もが海外旅行をなし得るようになった1990年(平成2年)9月30日、その役目を全うし得た同番組は 最終回を迎えました。 その期間 実に30年10ヶ月、放送回数 1586回を数える長寿番組であり、その間 兼高かおるさんが訪れた国は約160カ国、全行程約720万kmとも伝えられおり、地球外周になおすと何と180周にもなるのだとか・・。

単なる進行タレントではなく 自らプロデュース、インタビュー、時にカメラマンまでをこなし、番組の内容を事前に決めることは一切せず 全てその場の展開をもって進めていったというのですから驚きですね。

番組を通して親交を結んだ人物は “ジョン・F・ケネディ” “マルコス大統領夫人” “チャールズ3世” など各国の重鎮から、”アルベルト・シュヴァイツァー(博士)” “サルバトール・ダリ(画家)” “ビヨン・ボルグ(テニスプレイヤー)”など 各界の著名人、そして数多の市井の人々に至るまで、この世界を構成するあらゆる人々であり、それらの想いと暮らしを通じて己が信条でもある「世界をお茶の間に運ぶのが私の仕事」をブラウン管の上に具現化しました。

理知的であると同時に旺盛な好奇心、そして行動力に溢れた人柄は水泳をはじめとしたスポーツや冒険にも注がれ、ついには南極点そして北極点に到達した一般女性の一人ともなりました。 その上で、それだけアクティビティに満ちた日々を送りながらも、決して女性としての優雅さと品格を失うことなく過ごされたことに敬意を表さずにはいられません。

 

昭和中盤、まだまだ女性の社会進出が不十分であった時代、明晰な知性と感性、あふれる行動力で時代に希望をもたらせ続けた 兼高かおるさん、
80の齢を数えてもなお精力的に世界各地を訪ねておられましたが、平成31年1月5日、90歳で永眠されました。

最後に「兼高かおる 世界の旅」に使われたテーマミュージック「80日間世界一周(Around the World in 80 Days)」の動画をお送りします。
今も天国から数多の世の有り様を興味深げに眺めておられるのかもしれない兼高かおるさん、その途上には幾多の困難あれども、彼女の人生はまさに この映画のように波乱と喜びに満ちたものであったのでしょう・・。

 

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