平和を願うカバは焼け跡の中から立ち上がった – 岡山県

昭和20年6月29日、誰しもがまだ深い眠りの中にある午前2時43分、その悪夢は始まりました。 深夜の岡山市の空を覆うように、大挙して現れたアメリカ軍 B-29による爆撃が始まったのです。

到来した爆撃機 B-29の数は140機、それも完全に不意打ち状態での襲来であったため空襲警報も出されず、高射砲や迎撃機での応戦も叶わなかったため、岡山市街地は瞬く間に火の海と化し 市民は一瞬にして大混乱の坩堝へ叩き落されたようなものだったでしょう。

陽も上がる頃、B-29 が飛び去った後に残ったのは、壊滅的な打撃を受け一面の焼け野原となった町の姿と1730名以上の痛ましい犠牲でした。

岡山市近郊には多くの軍需工場があり、また 山陽本線の要でもあったため爆撃目標とされたと言われますが、軍需工場下請けの民間施設一掃までを目的としていたことから、事実上の無差別爆撃であり、多くの一般市民を巻き込む凶事となりました。 終戦まで後一ヶ月余りの出来事です。

 

8月15日、日本が終戦を迎えると人々は瓦礫の中から立ち上がり、新たな国造りのために歩き始めなければなりませんでした。 国の主たる都市・施設・機能の大半が失われていたので、当分の間はあらゆる物資欠乏・物流停滞の嵐に見舞われながらでしたが、それでも人々は力強く一歩ずつ復興の道を歩んでいったのです。

翌年、昭和21年 岡山駅から程近い町の一角に 産声を上げた一軒の仕事場がありました。比較的早い時期に創業出来たのは、その母体に岡山市で水飴の製造を元に食料・化学関連事業で発展を遂げた “林原グループ” を持っていたからでしょうか。

その仕事場で作られていたものは “キャラメル”、赤い箱の片隅に描かれていたのは “カバ” のマーク、今日 国内屈指の菓子メーカーとなった『カバヤ』の誕生です。

まだ町の其処此処に 焼け跡のくすぶりさえ感じそうな頃、沈みがちな人々、とりわけ子供たちにとって 一粒のキャラメルはどれだけ美味しかったことでしょう。 それは単に一人の口の喜びに留まらず、子供の笑顔にこそ大人の明日への活力が宿っていたのです。

“カバ” というユニークな動物をキャラクターに選び、同時に社名ともしたのは、その穏やかなイメージから “恒久の平和”、”大きく開けた口” から “お腹一杯食べられる時代” の到来を願う、切実とも言える希望の想いが込められていたといいます。

画像 © カバヤ食品株式会社

昭和27年まで続いた “砂糖” の配給制、苦難の時を乗り越え徐々に回復してきた食料事情の中でも、砂糖は供給が中々に追いつかず非常に貴重な甘味料であったそうです。

キャラメルという、当時の子供たちにとって宝石にも替え難い魅力のお菓子は、大きなヒット商品となり会社の基礎を築きましたが、砂糖配給制が解除された27年から『カバヤ キャラメル』は新たな取り組みを始めました。

キャラメルの箱に点数の書かれたカードが封入され、集めて応募すると児童文学の本が当たるという景品制のキャンペーンです。

景品制の販促方法は後の世にも引き継がれますが、この時行った児童文学本の発行は2年間 159冊に渡って刊行され、全国の少年少女に夢を与えた貴重な資料「カバヤ文庫」として確立し、現在も岡山県立図書館のデジタルデータとして閲覧可能となっています。

 

同年にはキャラクターである “カバ” を模したキャンペーンカーを制作、全国を宣伝に周り各地で子供たちの人気を集めました。

その後も 粉末ジュースの素やインスタント食品の開発・参入をはじめ、菓子製品の充実を計り昭和39年には第2のヒット商品「ジューC」、50年には「マスカットキャンディー」を発表、着々と企業としての発展を積み重ねていきます。

そして53年に後の “食玩ブーム” の火付け役とも言える「ビッグワンガム」を発表、世間に衝撃を与えながらも、それは近年における “食玩ブーム” の展開と定着を見れば “先見の明” のなせる技と言ったところでしょうか。

画像 © カバヤ食品株式会社

昭和54年(1979年)完全に独立した企業として、新たな一歩を踏み出した「カバヤ食品株式会社」、この後も意欲的な商品開発やプロモーションに取り組み、平成23年には60年ぶりとも言える “カバ” のキャンペーンカーの復活がなされました。

「クッキーくん」「チョコちゃん」と名付けられた車が活躍する現代は、窮乏と復興が渦巻いていた時代とは異なり、世の大勢が満ち足りている中でその活動内容も異なりますが、子供たちに夢や希望を届けるという想いは当時と何ら変わることないようで・・。

一説に、岡山県は教育熱心な遺風だと言われます。文化・芸術に対する啓蒙にも優れ、これらを支援するメセナ活動に取り組む企業も少なくありません。 「カバヤ」の理念でもある “子供たちに夢と笑顔を” という精神は、それら教育や文化隆盛の基礎土台を成してきたものとも言えるでしょう。

焼け跡の中から平和と笑顔を願って創業され、本年令和3年には75周年を迎えた「カバヤ」 有り難いことに今現在、日本の国に平和は維持され続け 必要な物資に窮することもありません。 豊かな時代に「カバヤ」が見据え望む未来はどのようなものなのでしょうか・・

いつまでも子供たちの笑顔が絶えることのない世の中でありますように・・。

 

『カバヤ食品株式会社』 公式サイト

「カバヤ文庫」 岡山県立図書館 デジタルコンテンツ

 

 

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