子供の頃、割と都市部に近い所に住んでいました。
小学生だったでしょうか、市内の大きな “科学館” に連れて行ってもらったのです。
当時は アポロ11号による人類初の月面着陸成功によって世界が湧いていた時代であり、翌年の ”大阪万博(日本万国博覧会)” にアメリカ館において ”月の石” が展示されたように、各都市の ”科学館” にも宇宙関連の展示が競って行われていました。
私の住む町の科学館でも、当然 それら宇宙やアポロ計画に関連したイベントが催されており、11号司令船の実物大?模型が誇らしげに飾られていたのを憶えています。
(現在はエントランス前の広場に国産ロケットH-IIBの機体が展示されているようですね)
宇宙に対する限りない未来と憧憬、元々 ”天文館” としての傾向が強かったその科学館は、かなり大型の “プラネタリウム” を備えていました。
真昼の時間であるにもかかわらず、その天蓋に夜の大宇宙を描き出す不思議さと、圧倒的なダイナミズムに感動した想い出は今も胸の中に焼き付いて離れません・・。
さて、宇宙開発への夢が演出されていた時勢とはいえ、もちろん 他の科学関連展示・常設展示も行われていました。
それらの多くは 重力や物理的効果、また電気力を利用したギミック(仕掛け)であったり、”化学的” な反応を指し示した展示物であったりしたのですが、そこは やはり子供、難しげな言葉が並ぶボードよりも、実際に目の前で動作し 時に自分が関わることで制御出来る “動き” のある機械やロボットなどの展示物の方に目が行ったものでした。
レールを伝って転がるボールや その行き先で器用に動くアングル、クルクル回りながらビー玉を掬い上げてゆくギミックや その動作は、全て物理的な所作の組み合わせであり・・、
ピカピカと明滅する電球や不自然さを湛えながら動くロボットのアームは、電気力の成す技であるものの、子供の目には只、珍しい玩具を見ているかのごとく、きらびやかで興味津々の一時でしかありません。
しかし、それらのことに目を丸くして夢中になって見ている子供の脳裏には、必ずと言っていいほど ”科学” そのものに対する興味の芽が芽吹いているのです。
佐賀県武雄市 の「佐賀県立宇宙科学館」で春の企画展『ビーコロ 2021』が始まっています。
『ビーコロ』その名からもわかるように、ビー玉を使って色々な仕掛けをクリアしてゆく装置であり遊びでもあります。 ある時はレールを伝いながらドミノ倒しのように延々と難所を超えるギミック、ある時は身近にある素材を使って手軽に遊べるゲームを作る工作・・。
科学館スタッフの手作りによる “ビー玉コロコロ装置” は20台、「TAKEO2021 コロリンピック」をテーマに作られた全長約20mの大型コロコロ装置は圧巻ですね。
『ビーコロ』は 基本的に素朴な内容と簡易な手掛かりながら、そこから生み出される “動作と結果” に子供の心を捉えて離さない “夢と創造性” を無限に持っており、その楽しさは時に大人さえも魅了してやまないファンタジックな世界でもあるのです。
この『ビーコロ』に似たもの・・というか、思い出されるものに平成の頃より親しまれたNHK教育番組『ピタゴラスイッチ』がありますね。 元々、小児向けに企画された番組ですが、こちらの方も結構 大人の方のファンが多かったと聞きます。
「ビー玉を転がして楽しむ遊び」 文字だけで表してしまうと それだけの安易なものに感じてしまいますが、その装置を見て楽しんだ子供の目と心には、その楽しさとともに そこに繰り広げられる世界の不思議さに対する感動、(ここをこうしたらもっと・・)という創造性が芽生えます。
著しく便利になった現代の生活も、元は誰かのほんの小さな願いや思いつきという “夢と発想の芽” から少しずつ茎を伸ばし枝葉を広げた科学によって支えられています。
転がるビー玉を見つめる現代の子供の眼差しから、10年後、20年後の世界を変革するような未来が創造されることもあながち夢ではないのです。
アポロ計画で湧いた1970年代以降、アメリカや他の多くの国は月や外宇宙に乗り出すことを半ば放棄していました。 世界はどう役立つか解らない遠い宇宙よりも、有用性の高い地球上の問題にその目を向けたからです。
その事自体は正解であったかもしれませんが、結果的に そのベクトルは実益性を追求するあまり無垢で純粋な発想や研究を阻害する流れとなりました。
情報量も少く思考的にも発展段階であった60~70年代の頃のように ”夢見る” 科学は花開き難い世界となってしまったのです。
実益性を優先することは経済性・合理性には適っていますが、それはともすれば人間そのものを置き去りにすることにも繋がりかねず、人間が主体であるべき未来に不透明感をもたらし、AIが高度に発達した現在では「シンギュラリティ・技術的特異点」の問題さえ囁かれるようになっています。
だからこそ、人間の中から芽生えた夢と希望に根ざし、人間性を最重要点に据えた “真の科学の発展” が今こそ必要なのではないでしょうか。
その萌芽は幼い時にこそ備わるものだと思うのです。
あの時代のように稚拙ではあっても、明日の未来へ夢を抱ける日々が続くためにも・・。
春の企画展『ビーコロ 2021』 佐賀県立宇宙科学館 当該ページ
佐賀県立宇宙科学館 Facebook公式アカウント
日 程 : 2021年3月25日(木)~5月9日(日) ※休館日:月曜日
開催時間 : 平日 9:15~17:15、土日祝 9:15~18:00 ※GW期間(4/29~5/5)は18:00迄
場 所 : 〒843-0021 佐賀県武雄市武雄町永島16351
その他 : こちらから
問い合わせ : TEL:(0954)20-1666 FAX:(0954)20-1620
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