大苦の果てに望むもの 於安御前伝承(前)- 徳島県

今年もいよいよ押し詰まってまいりました。寒風強まる中、皆様 風邪などお召になられていませんでしょうか? ・・などと問い交わすのが例年の振る舞いなわけですが、本年は新型コロナウイルスの都合もあり、多くの人がマスク&手洗いを励行しているためか風邪・インフルエンザとも劇的に少ないそうですね。

素直に喜べないのは、未だコロナウイルスが猛威を振るい続けており こちらの方が被害甚大で何とも言えない状況なのですが・・

どうか皆様、人出賑わいそうな状況を出来るだけ避けて “コロナなどお召になられませんように” ・・いや、冗談ではなく当イナバナ.コムは(私 管理人も含めて)ご訪問頂く方々も比較的 中高年層の方が多いので、万が一罹患の際には重症化の懸念も拭いきれません。

どうか、来年 ワクチンが行き渡るまで、心身ともに健康を維持して年を越えられるよう頑張りましょう。

 

と、言うところで 本日は徳島県の北部 美馬にある、安産祈願で有名なお寺とそれにまつわる伝承からお伝えするわけですが、「安産祈願」奇しくも先日ポストしました「一日800人 年間29万人」の記事にも一脈通づる内容となりそうです。

ここでも 子を宿し産まんとする母の姿が描かれていますが、やはり偉大なものですね。母の姿、女性の力というものは・・

子の姿はあまり描かれていません・・、それはなぜなのか? 読み進めて頂ければお解りになるかと思います。 つまり、安産祈願につながる伝承ながら あまりおめでたい話ではないということになります。 先にご留意頂けますよう・・・

 

神社やお寺に奉られている木を御神木と呼びますね。「梛」「杉」「榊」「楠」「檜」「松」など多岐にわたりますが、多くの場合共通しているのは生命力に溢れているところ、つまり寿命が長く常緑であるところなどでしょうか。

人の一生より遥かに永い時間を生き、移り変わる世の成り行きを見ているであろうその姿、また不思議な芳香・薬効などを呈する姿に 人は人智を超えた神秘性を感じたのでしょうね。

楠は比較的温暖な気候を好んで育つ高木樹で、幹周り10m 樹高20mを越える場合も少なくなく最大級の楠は樹高50mに届くものもあるのだとか・・

そんな巨木の楠ですが、かつて阿波国美馬に有った「大楠」もとてつもない大きさであったと伝えられています。

 

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朝日昇れば西に五里の日影をさし 夕日沈む頃には東に五里の影をなびかせる美馬の大楠

その始めも知らぬほどの時を数え 天を突くばかりの御姿をたたえて美馬の衆の尊崇を集めていた

しかし ある時 都の大君より戦のための大船を造るために 日の本中から木材を集めるとのお触れが下された

美馬の大楠はことのほか目立つ立派な大木 この木材を用いれば大船を造る要となろう

真っ先に目をつけられると 阿波国の領主を通して地元の名主に徴用に供すべしとの命が下された


されど 地の村々では何十年何百年と敬い大切にしてきた大楠 これを切られれば地の守り神を切られるようなもの 衆々 集まり三日三晩にわたって悩み泣き談義を交わそうとも良き答えも出ようはずもない

とは申せ 大君をしての厳命 背くわけにもゆかん
やむを得ず名主は木を切るための人足を募ったが 祟りを畏れて誰一人として名乗り出る者が無かった

 

事進まぬ様子を見て困った阿波の領主は 手元から樵(木こり) を集め 奉行を付けて美馬の地に遣わしたのだそうな

ところが 美馬に着いた樵たちも 初めて見る大楠の偉大さ神々しさに気圧されて誰も斧を振り上げようとせん

奉行も同じくして驚いたが領主より託された使命 樵たちを脅したりすかしたりしながら ようやく木を切り出す手配となった

しかし 樵が斧を木に打ち込み始めると一天俄に掻き曇り猛烈な風雨が吹き荒れだしたのだと

やはり山の主の怒りに触れたのだと怯む樵たちであったが 後ろで激を続ける奉行に押されてなんとか斧を振るい続けたそうな

これは木か それとも岩か鉄かと思えんばかりの堅さを それでも数人の樵が交代で斧を打ち込み ようやく一日がかりで五寸程 切り込める有り様だったと

ところが次の日 昨日の続きをと集まった奉行と樵たちが見たものは 五寸どころか傷ひとつなく元どおりに戻っていた大楠の姿であった

奉行も樵たちも これには驚いたが 既に一度は斧を当てた木 ここに来て引き返すわけにもゆかぬ 昨日と同じように風雨激しい中 必死に斧を打ち込み続けたのだと

だが 三日目の朝 やはり何事も無かったかのように元の姿に戻っている大楠を前にしたとき さすがの樵たちも これ以上続けることは出来んと騒ぎ出し 中には熱を出して寝込む者も出てしもうた

 

ほとほと困り果てた奉行 名の通った修験者を招き 祈祷を納めて山の主の怒りを鎮めてもらうことにしたのだそうな

護摩を焚き一心不乱に祈祷を捧げる修験者 やがて奉行のもとへ立ち返るとこう言ったのだと

お奉行殿 誠に心苦しいお告げなれど 山の主の怒りは はかり知れず 生贄を求めております それも孕み女(はらみめ) の生贄を出せと・・

これを聞いた奉行も村人たちも驚き恐れおののいた
孕み女 つまり木を切るために尊い二人の命を差し出せということ
とてもではないが二つ返事で決められることではない・・

 

進退極まり ことの事情を藩主に伝えたが 藩主はここに至ってもやはり木は切らねばならぬ 都の大君に納めねば阿波の行く末に災いをもたらす どうあっても取り決めどおり伐採を終わらせよとの命を下したそうな

もうどうにも出来ぬ 腹を括った奉行は美馬に戻り改めて触れを出した
「主の怒り鎮めんために自ら供物とならん孕み女は その菩提を末永く篤く弔う 残された家の者には手当金を施す」

奉行にあっては苦渋の決意と触れではあったが やはり身籠った身で名乗り出る者も 妻を送り出す夫も そうそうには出て来るはずもない

そのような中 ついに「私がその贄になりましょう」と自ら名乗り出てきた女がおった

 

名を “安” というたそうな

そしてそれは こともあろうに奉行の妻であった 話を伝え聞いた妻が 丁度自らが懐妊していたこともあり 身重の体を押して美馬の地までやって来たのだ

動転 驚いた奉行は「何を馬鹿なことを」と思いとどまるよう諭したが

「私がならなければ いずれ誰かが無理にでも引き出されましょう」
「そのような贄で山の主の怒りが鎮まるとも思えず 板挟みとなった貴方のお勤めにも障りましょう」

そう言って決意を示したそうな どれだけの夫の言をも退けたそうな

まだ十九の歳だったという

 

斧入れの日 大楠の前には祭壇が調えられ やがて到着した輿から降り立った御供が奉行の妻だと知った村人たちは一様に驚き また涙したそうな

やがて読経の読まれる中 樵たちは一心不乱に斧を打ち込み 修験者は乱心したかのごとく祈祷をあげ その中を大楠の切り口にむかい進む妻

一度振り返り 夫と村人たちに会釈を終え・・ 妻 そして腹の子は彼岸の国へと旅立ったのだと

 

天をも突かんと言われた美馬の大楠 されど さしもの大木も五日の間 斧を打ち込まれて ついに切り倒される日が訪れた 地に伏せた巨木は早速に製材され造船地に運ばれたそうな

我を失いながらも職務を果たした奉行は国元へ帰った後 勤めを辞して隠棲したともいう

そして 造られた大船だが どういうわけか 大きな働きも成さぬうちに早々と沈んでしもうたとも聞く
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いやはや 何気にキツいお話でしたが、美馬半田の神宮寺には奉行の妻 “安” の名を冠して「於安御前」という寺院が持たれ、今日では安産にご利益高きお寺として参詣者が絶えないそうです。

実は本日のお話は この「於安御前」の縁起とはいささか異なる地元の伝承民話でして、次回、後編では「於安御前」生粋の縁起話を含めてお伝えしたいと思います。

 

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