蘇る与次郎狐 出羽伝承の昔と今(後)- 秋田県

前2回に渡ってご案内しました「飛脚狐」そして「与次郎狐」の伝承ですが、与次郎が仕えた主君 佐竹義宣(さたけよしのぶ)公は戦国後期に生まれ安土桃山時代から江戸時代前期を生きた武将でした。

佐竹氏は常陸源氏(ひたちげんじ)の流れで 平安時代の末期から常陸国(現在の茨城県)を領地として覇を奮ってきた氏族ですが、時が下って義宣の時代、天下分け目の関ヶ原の戦いの時に、東西どちらにつくか態度を明確にしないまま積極的に参戦しませんでした。

元々、関東域で強大な勢力を誇ってきた北条氏と敵対関係であった佐竹氏でしたが、豊臣政権に対して翻意を募らせていた徳川家康が その北条氏との同盟を強めていったため 佐竹家内でも将来を見据えての意思統一がなされておらず、結果的に日和見的な対応をとらざるを得なかったようです。

ともあれ 合戦の前後も含めて懸命に立ち回ったため、家康から所領の安堵が一旦なされるものの、その2年後 突如として出羽 秋田藩への転封が言い渡されました。

ここまで読むと佐竹義宣公は日和見主義の頼りない主君のようにも見えますが、佐竹氏の武力は並々ならぬものであり 大坂の陣では数々の大功を立てています。
一説に秋田への転封は大きな軍力をもつ佐竹氏を徳川家が関東域から遠ざけたかった狙いもあるのではといわれているようです。

また 秋田藩 入領後も積極的な家内改革を行うと同時に、新たな国造り・土地の改良・開墾を推し進め、当初20万石といわれた石高を後年にはその倍以上に増やし、今日の米どころ秋田の礎を築く賢君であったともいえるでしょう。



さて ここからは伝承の域を出ませんが、その義宣公がまだ常陸国の領主であった頃、ひとりの飛脚が お家に仕えていたそうです。
名を “籾蔵与次郎” 、他に比するもののない速足の持ち主で一日百里の道を走破し、あまりの俊足ぶりに狐の生まれ変わりと噂されたのだと・・。

主君が秋田藩への国替えとなった時に ともについていったとも、何処かへと消えてしまったとも話は分かれ伝えられますが、しかし 一説には その仕事ぶりから主君に重用され過ぎたために、それを妬んだ仲間によって殺されたという悲しい話も残っています。

また 異伝においては与次郎は代々 佐竹氏に仕えた狐の化身であるとも伝えられ(以上、いずれも茨城県に残る史料)これらのことから “狐” ではないにせよ、能力の高い何らかの人物が佐竹家に関わっていたことが伺い知れるのではないでしょうか。



飛脚という仕事はご存知のとおり裸体に脚絆、前掛け姿で信書や物品を走って運ぶ(現代でいう)郵送業の人ですが、あのスタイルで職業として定着したのは江戸も中期の話、それ以前までの飛脚とは主に領主に専属として仕える専門職であったようです。

インターネットで瞬時の世界の情勢を知れる現代と違い、昔は遠方との通信には数日から 状況によっては月単位での時間がかかりました。
大名や各勢力にとって お家の大事な通信や他国の動向の察知など、一時でも早くこなせることは家運に関わる最重要事項のひとつでもあったもです。

ここから考えて、当時の有能な飛脚が国を股にかけた情報収集の役割りをも担っていたことは想像に難くありません。
中編でお伝えした「与次郎狐」本編で、与次郎が幕府に疑いをかけられ 命を狙われることになったのも、常人離れした能力をもつ間者(スパイ)として脅威とされたからでしょう。

城造りの際の霊異譚や お花との情話は別にしても、佐竹氏秋田藩の創始にまつわり “狐” に昇華された ひとりの “飛脚” の存在と悲劇的な終焉が物語として残されたのかもしれません。


秋田県秋田市に鎮座する「与次郎稲荷神社」はこの与次郎狐を祀った神社です。
多くの稲荷神社において狐が神の遣い(神使)であるのに比して、この「与次郎稲荷神社」において与次郎狐は明神そのもとして祀られており、今も静かに出羽の行く末を見つめ続けているのです。

今回ご案内した「ミュージカル Run 与次郎」は、この与次郎伝承をベースとして現代的解釈の上、よりドラマティックに演出した物語として与次郎を現代に蘇らせた内容となっているようです。 ホームページから一節を借りてその内容をご紹介して「蘇る与次郎狐 出羽伝承の昔と今 – 秋田県」の締めとさせていただきます。

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今から400年以上前の事。安東家の家臣だった与次郎は主に置き去りにされ酒浸り。佐竹義宜公の側室・岩瀬姫は遠い北国に連れてこられて大不満。おかげで二人は大喧嘩を起こすが、義宜公の家臣・渋江政光から新しい国造りの壮大な構想を聞き、力を合わせるようになる。
久保田城完成祝いの余興に早駆け競争が行われ、与次郎の走りっぷりを見た義宜公の命令で、江戸と秋田を結ぶ特別な飛脚集団「狐組」が作られる。秋田の繁栄のために重大な情報を最速で運ぶのが仕事だ。しかし少しでも機密が漏れたら命はない。与次郎は妹のように大切に想うカエデを救う為に狐組に入り、人としての生き方を捨てる。与次郎の行く末を心配するカエデ。争いのない太平の世を目指す政光。愛する義宜公と離ればなれに暮らす岩瀬姫。・・・そこに江戸から不穏な影が・・・。
与次郎は秋田藩の運命と岩瀬姫の愛を飛脚箱に背負い、自分の命を懸けて走り出した!

−− ホームページより © ミュージカル「Run! 与次郎!」® 秋田まちづくり株式会社

サスペンス映画を見るような壮大さと緊張感が漂ってきますね!
ミュージカルで蘇る与次郎の生き様と緊迫の時代劇、あなたもぜひ! * 再掲載記事のため現在ミュージカルイベントは終了しています。

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