やはり神秘の山多く 出羽鳥海山の民話 ー 山形県

日本に「山」の文字がつく県は何県あるでしょう?
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答えは6つ、北から 山形県、富山県、山梨県、岡山県、山口県、和歌山県 となります。
元々、大陸棚の上に盛り上がるように地形をなす国土ですから、面積の割に山が多いのは良くも悪くも日本の特徴なのですが、それだけに古来から山にまつわる故事や伝承が残されてきました。
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山形県 の地名由来は元々「山の方(山のある方角)の意味」(地名由来辞典より)だそうで、当時の都から見て未知の部分も多かった北方の象徴的な山の姿から名付けられたのでしょうか・・
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今日は その山形県から「山」にまつわるユニークなお話をお届けします。

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山形県と秋田県の県境を跨ぐように立する鳥海山(ちょうかいさん)、富士を思わせるような美しい山容から「出羽富士」(秋田側からは秋田富士、山形側からは庄内富士)と呼ばれ郷土の人々の誇りと安らぎの山となっています。
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その名の由来は、平安時代 この地を治めていた豪族の名によるもの、また 古く鳥見(とりみ)の山と呼ばれていたものが訛って鳥海(とりみ)山となったなど諸説ありますが、その頂から見渡す出羽国と日本海の絶景は正に “鳥瞰”(ちょうかん)の見晴らしですね。

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「山」にまつわる民話で比較的よく聞かれるのが その高さ「山の背くらべ」のお話。
どちらの方がより高いかで競い合い 二つの山の頂に樋(とい)を渡してどちら側に水が流れるかなど機知に富んだものが見られます。
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この 鳥海山もそんなお話のひとつ・・

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出羽の国々 碧く広がる西海を臨みながら ある日鳥海山は考えた
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「今日も良い日和だ 国の端々までよう見渡せる」
「されど 見渡すかぎり わしより高い山はないようじゃのう」
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はじめは ほんの些細なひとりごと
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しかし それを聞いていた周りの小山がざわざわとささやいた
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「ほんに鳥海山は高い山じゃ みちのく一の高い山 いや もしかすると日の本一かもしれん・・」
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そのざわめきを聞いた鳥海山は嬉しゅうなってしもうた
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「確かに見渡すかぎり わしより高い山はおらん そうとも わしこそ日の本一高い山なのじゃ」
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鼻高々 いよいよ胸を張っていや高くそこにそびえていたそうな

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ある時 そんな鳥海山の麓をひとりの旅人が通りかかった
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昼下がり 腹も減ってきたので道端の石に腰かけ弁当を広げた
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目の前には大きな裾野を広げて鳥海山が天を突いている
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「こりゃあ 立派な山じゃのう 噂には聞いていたが高いだけじゃのうて美しくもある」
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それを聞いた鳥海山はますます嬉しゅうなった
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「そうじゃろう そうじゃろう やはり わしこそが日の本一の山なんじゃ」
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高ぶる鳥海山じゃったが 旅人の次の言葉がまずかった
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「しかし 高さでいうなら富士山の方が少し高いのかのう・・」
「そうじゃ 肩にかかる雪がもっと深かったから富士山の方が高い この山はその次になるか・・」

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これを聞いた鳥海山はわなわなと震え出したのだと
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「そんなばかな・・わしより富士の方が高いなどあるものか 第一そのような山は見えんではないか・・」
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自分が一番と思っていただけに 旅人の言葉にいたたまれぬ思い・・
その上 周りの小山たちが またひそひそとささやきはじめたではないか
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「へぇ・・ 富士山の方が日の本一なんだ・・」
「なんだ 鳥海山は一番じゃなかったんだ・・」
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小山たちの心ないひそひそ話しに 悔しいやら恥ずかしいやら
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「そんなはずはない! わしが一番高い山なんじゃぁ!」
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ぶるぶる震える鳥海山は怒り心頭 山の頂から火を吹き出し ついにその頭を吹き飛ばしてしまった
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ぼぉんと吹き飛んだ山の頭は 麓の里を越え 海辺の村を越え 沖合いの海に凄い波しぶきを上げながら飛び込んだのだそうな

 

飛島観光パンフレット より

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やがて 山の火も鎮まり 波間からニョキっと突き出した山の頭
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時が移りおだやかになった今も「飛島」と呼ばれ静かに佇んでおる
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確かに 鳥海山は富士山に比べるとその高さには及びませんが、その姿は富士とはまた違った美しさを湛えており、海辺の地まで片袖を伸ばした山容は見る場所により様々な景観を生み出し “出羽富士” の名に恥じない名山と言えるでしょう。
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そもそも、高かろうが低かろうが全ての “山” にはそれぞれの良さ、美しさがあるはずなのですが、そこは “お話” の向こうにある “人の性(さが)” 、”高いもの” “大きなもの” “早いもの” などに憧れをもつ、業のなせるわざといったところでしょうか・・
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なおさら、周囲の口性のない無責任な言葉に振り回されないようにという教訓でしょうね。

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「飛島」は 鳥海山を向こうに “羽後三埼” の沖合30km余りに位置する有人の島です。
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お話のように 本当に鳥海山から飛んできたものではないと思われますが、古来より当地では鳥海山の噴火により飛んだ山体で出来たという伝承が今も生きています。
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それを裏付けるかのごとく、鳥海山を御神体とし山頂の本社、麓の吹浦、蕨岡の二社からなる「鳥海山大物忌神社」の御祭神が “大物忌大神” であり、これに呼応するかのように「飛島」に「小物忌神社(おものいみじんじゃ)」が祀られているのだそうです。
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大物忌神社、鳥海山の縁起については諸説が立っており定説を得ませんが、往古奈良時代において山はまだ活発に活動していたようであり、当時 対蝦夷の制圧に苦慮していた朝廷はその関連性を神義に伺い、当時から山に大きな神秘を抱いていたと言われます。

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朝廷の治める機内から いや遠い東北の地、昨年 初春にお届けした「八乙女に導かれし皇子 そして修験の頂」の 出羽三山と蜂子皇子(はちこのみこ)による 出羽国修験道の開闢伝承も然り、出羽国-山形県にはまだまだ神妙の世界が息づいているようです。
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