紙から銀行まで-昭和の騒動が問いかけるもの

こちらは昨年(2019年)8月にポストした記事の再掲載になります。ご了承下さい。
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「新型コロナウイルス」の蔓延事象にともない不安に揺れ動く世相、拙い内容の当記事がこの問題に何の効力をも持たないことはわかっていますが、せめて 気持ちの持ちようの糸口を見つけるほんの一助にでもなればと・・
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今回のウイルス問題において思い知らされたのは、病害の恐ろしさもさることながら、目に見えない、明確な対処や道筋がわからない危機に対して、人がこれほどにまで脆いものだということではないでしょうか。
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ひとつの事象に対して その捉え方、判断、行動というものが人それぞれ百人百様というのは当然のことではありますが、望む結果「早期にこの病害が治まること」「通常平穏な暮らしに戻ること」は同じはずです。
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そのためには、横溢する情報の中から少しでも普遍的、中立的と思えるものを熟考・取り捨て選択した上で、個人ではなく社会全体で安全と思われる行動をなるべく維持すべきでしょう。
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ひとりひとり で出来ることには自ずと限界がありますが、混乱を起こすのもひとりひとりの失考の結果なら、改善に向かうのも ひとりひとりの分別の結果なのだと思うのです。
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犠牲になられた方々の冥福を祈るとともに、一日も早い蔓延収束を願いつつ、今回の事象による経験が人々の知見となり将来への貴重な財産へとなりますように・・

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1973年(昭和48年)2つの”騒動” が起こりました。
“騒動” であり 俗に言う犯罪性のある”事件” ではありません。
しかし、考え方によっては”事件” よりはるかに危険で震撼すべき内容をはらんでいます。

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1973年10月 政府より「紙の節約」の呼びかけが行われました。
この背景には第4次中東戦争に連なる いわゆる”オイルショック” があり、原油価格が急激に(約70%)高騰、既にエネルギー基幹、石油製品ともに輸入に依存していた日本において”物不足” への社会不安が影を落としていたことが上げられます。
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とは言え、紙製品の生産不調がおきていたのは あくまで一時的なもので事実上 供給に関してそれほど問題はなかったのです。
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しかし、折からの”物不足ムード” に加え政府からの呼びかけ、そしてテレビ番組における中曽根康弘通産大臣(当時)の談話に不安を抱いた主婦層が、翌11月1日に大阪千里のスーパーで行われたトイレットペーパー安売りに殺到、用意されていた一週間分の在庫が瞬く間に売り切れる事態となってしまいました。
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さらにテレビ・新聞が “この現象を” 大きく取り上げ報道したことにより、視聴者は現象そのものではなく “紙が無くなる” という不安に駆り立てられ、以後、スーパー・小売店分かたず製品が並ぶと同時に売り切れ、時に買い占めるという状況に至ってしまいます。
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政府は買い占め自粛を呼びかけましたが、これがかえって物不足への不安を煽る悪循環に陥ってしまい、挙げ句 “砂糖” “洗剤” などにも飛び火し、業者の便乗値上げもあいまって狂乱物価と言われる状態となり 事態は混迷を深めてゆきます。

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結果的に国民生活安定緊急措置法の施行、標準価格の設定など物価統制に準ずる施策を施したことで翌年春にようやく事態は収束・・
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団地住まいの夫婦が借金をしてまで部屋一杯山積みにトイレットペーパーを買い込み、転売を見込んでいたものの憐れな結果になった話は当時の語り草となりました。

 

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後に「トイレットペーパー騒動」と呼ばれるこの騒ぎの最中、愛知県豊川市(現)で昭和の歴史に残るもうひとつの騒動が起こりました。
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「豊川信用金庫取り付け騒動」(別名 : 豊川信用金庫事件)
当時の宝飯郡小坂井町を中心に突如起こった「豊川信用金庫が倒産するかも」という噂がひとり歩きし、信用金庫に口座を持つ市民が預金の引出しを求め窓口に殺到、1日で約5000万円(当時)が引出される結果となったのです。
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経営状態には全く問題は無かったため 信用金庫側はこれを顧客や市民に向けて説明しましたが、一度 疑心に陥った人々には通じず、それどころか「資産整理を進めている」「職員が大金を持って逃げた」「理事長が自殺した」など根拠のないデマが頻発、状況はますます悪化。
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重く見た日本銀行、全国信用金庫連合会などの後ろ盾と公式発表、保有現金の提示などにより事態は収束に向かいましたが・・

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この騒ぎも元は、当時 豊川信用金庫に就職が決まっていた女子学生に 友人が言った「信用金庫は(銀行強盗などが来るから)危ないわよ」という冗談が、人伝に伝わる度に曲解されたことが原因とされています。
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「信用金庫が危ない」→「豊川信用金庫が倒産する」と伝わり、その噂を聞いていた人が、たまたま仕事のための大きな資金を下ろしていた人を見てまた誤解し、また噂を広めるといった悪循環が重なったことで、瞬く間に町は金融不安の渦中となってしまいました。
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結果的に豊川信用金庫は取り付け騒ぎによる倒産を免れ 現在も元気に営業を続けられていますが、このような取り付け騒ぎは昭和に限らず 平成に入ってからも時折見られ、その多くは金融機関の破綻につながっています。

 

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これらの案件に共通して見られるのが「集団心理(群集心理)」
非常に危険な側面を持っています。
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何より問題なのが正常な判断能力が著しく低下、また 道徳性が失われることです。
これは思考の浅い人に限らず 普段から思慮深い分別のある人であっても変わることなく集団の動向に引きずられてしまうということ。
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個人的な問題の中では事の真偽を疑い前後関係に思いを巡らすことが出来ても、集団の中にあっては得てして時間的な逼迫を感じてしまい、結果的に極めて短絡的な判断しか出来なくなってしまいます。
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集団の中での自分の優位性を確保することだけが目的になってしまい、驚くべきことに自分にとって有利な情報よりも不利な情報を選択しやすくなると言われています。
それはいち早く不利な状況を把握して それを回避しようとする心理の現れなのかもしれません。
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情報の真偽が判別出来なくなり騒動の多くは残念な結果を招くことが少なくありません。
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それが大きな震災や火事など非常事態に関わる事、また 国の行く末に関わる動勢であった場合、悲惨な結末が待っていることは想像に難くないのではないでしょうか。

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一度 巻き込まれてしまうと不安の渦から抜け出すことが容易ではない集団心理
そして、その有効な対策も見出されてはいません。
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ひとつだけ、その対処として言うならば ”出来る限り早い段階で一旦立ち止まって考えること” 。
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文字で書き、口で言うだけならばたやすく、実行には難しいものではありますが、そのためには、日頃から多様な知識を習得しておくことと同時に、出来るだけ物事の本質とその流れを見極める目を持つように、日頃から心掛けておくことが大事なのではないでしょうか。
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歴史は繰り返されると言いますが、繰り返されるべきではない歴史も沢山あるのでしょうから。

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未だ、マスクや消毒液の供給が追いついていませんが、創意工夫でしのげるものもあります。 多くの方々が始めておられるように布を使った手縫いのマスクもそうですし、北九州市が公開している「ハンカチを使った簡易布マスク」なら裁縫道具も必要なく、一人暮らしの男性でも容易に作れるでしょう。 私も作ってみましたが思った以上に”マスク”でしたw

又、アルコールの消毒剤は品切れですが「ハイター」などの次亜塩素酸ナトリウム系漂白剤や、クレゾール石鹸液を薄めて使うのも消毒には有効のようです。(どちらも50~100倍に薄めて使う *そのまま原液で使うと危険! 子供さんなど取り扱いに注意!)

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