伯耆国大原 大ムカデを退ける大神の伝承 - 鳥取県

鳥取県は律令制の時代、東側が因幡国(いなばのくに)そして西側が伯耆国(ほうきのくに)となっていました。因幡国に残る民話・・というより神話としては「因幡の白兎」伝説が有名ですね。

出雲の神話ともいえる大国主命(オオクニヌシ)伝説で なぜ出雲(島根県)ではなく お隣の因幡(鳥取県)のお話なのかというと、因幡国の比売神(姫神)であった八上比賣(やがみひめ)に大国主命の兄神たちが求婚のために訪れ それに同行していた大国主命が怪我を追った白兎を救うという説話から来ています。

因みに正確には”白兎” ではなく”素兎”(白い兎ではなく裸にされた兎)だそうですが・・

大国主命やその祖神である素戔嗚命(スサノオ)そして”兎” の真義や 神話の向こう側に隠された実存に関しては、研究者や古代歴史マニアによって諸説紛々ですが、それはそれとして一旦置いといて・・

今日は 出雲国と因幡国に挟まれた伯耆国に残るお話です。

 
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さても今は昔

天を頂く大山の麓 八郷の里には人が田畑を耕し平和に暮らしておった

また この地には古より大蛇が息づいておったが里人たちを脅かすこともなく
むしろ里の営みを見守る地主神として崇められておった

 
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安寧のうちに続くと思われた里の暮らしじゃったが ある頃から大山の北嶺に一匹の大ムカデが湧いたかと思うとガザガザ草木をなぎ倒しながら山を降り 人里に達すれば田畑を荒らす 人を襲う 牛馬を食らうとしたい放題の悪さを始めたそうな

これには里人もほとほと困り果ててしまい まして我が地の安らぎを穢された地主の大蛇も怒り心頭で大ムカデを懲らしめようと果敢に挑んだ

ところが 大ムカデ 手足の数で勝ったか悪鬼の霊力でも宿しておるのか 挑んだ大蛇を払うてしもうた
大怪我を負い里を守れなかった失意のうちに大蛇はすごすご穴ぐらへ戻るよりほかなかったのだと

 
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このままでは里も地主も滅んでしまう 死に絶えた地となってしまう
誰もがそう思うた時 大山の向こうから ひとりの大神が姿を見せた

またもや恐ろしい神様が現れたかと皆すくみあがった時 その神は言われた

” 我が住まう地として大山の裾野に広がる深き森を開きたい ”
” 見れば民は唐山の大ムカデに苦しめられておる様子
我がこれを払うが故 その後は我が地を開くに手を貸してもらいたい ”

大山の麓には広大な樹海が広がっておった
神様の頼みとはいえ これを人手で開くのは容易なことではない
しかし 今はそのようなことも言っておられん
どうか大ムカデを退治してくだされとお願いした

 
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大神は大股で山々を越えやがて大ムカデのおる唐山へ着いた
その時 大ムカデは辺りに響き渡るような いびきをかいて寝ておったのだと

これ幸いと大弓に大木のような矢を番えた神様は大ムカデの眉間めがけて一矢を放った

脳天を射抜かれた大ムカデは断末魔の叫びを上げながら谷底へと落ちていったそうな

 
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以来 大ムカデが姿を現せることはなくなり里の暮らしへも平和が戻ったのだのだと

里人は皆喜び 大山の樹海は全てお納め下されと大神にひれ伏した

しかし 大神は ” 我が住まえる広さがあれば それでよい ” と申され地を耕し始められた
里人たちも明日からは神様の地開きを手伝おうと話し合ったのだそうな

 
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ところが ある日の朝 大神が起きてみると辺り一面きれいに開けておるではないか

地を埋め尽くしていた森はすっぱり取り払われ どこからか美しい水も引かれておる

これはどうしたことかと大神も里人たちも驚き水の流れを遡ってみると
森の奥深く 静かな泉の畔で地主の大蛇が息絶えておった

大ムカデを退治しこの地に平安を取り戻してくれた大神への礼として 一夜にして森を開き泉から水を引いた後 力尽きて倒れたのだろう

 

大神は ”大躰様(だいたいさま)” とも呼ばれ 里の口 番原神社(現在の植松神社)に祀られておる

大躰の名を表すような背の高き社殿に 大神の助けを成した大蛇の彫り物も残されているそうな
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以上が、鳥取県伯耆町 大原の地に残る伝承ですが、この 神力を持つ者が大ムカデと戦いこれを退けるというお話は、鳥取県のみならず 日本海沿岸部を中心に各地に残っています。

石川県には 大嵐で孤島に流された七人の漁師が、島の巨神(蛇神)に協力して海を渡り襲い来る大ムカデを退ける「大蛇と大ムカデ」という話が伝わっておりこれは ”まんが日本昔ばなし” でも取り上げられました。

滋賀県には伝承で名高い ”俵藤太(藤原 秀郷 ふじわら の ひでさと)” が蛇神に請われて大ムカデを退治する話も残っています。

 
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日本海沿岸部は古来より大陸や朝鮮半島との関わりが深いため、良きにつけ悪しきにつけ様々な影響を受けてきました。 朝鮮半島そのものの民話にも大ムカデの登場する話が残されています。

民話・伝承とは人づてに時代を越えて残り伝わるものですが、そこには生きる上での多くの大切な含蓄とともに、その時代ごとの出来事や天変地異、民の暮らしの有り様までも彷彿としながら数百年の時を越えて現代に現してくれるのです。

 
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