修験の山の杉並木、時を紡ぐ人の道 – 前

『 天岩戸伝説 』

須佐之男命(スサノオ)の粗暴な振る舞いに怒った天照大神(アマテラスオオミカミ)が岩屋に隠れたことで 闇と禍(まが)が世を覆ってしまったため、他の神々が知恵を出し合い天照大神を岩屋から引き出す 神話上 重要な伝承ですね。

岩戸神楽ノ起顕(三代豊国)

事の顛末は 皆様よくご存知のことと思われますので そちらにお譲りしますが、この大神引き出しの時、天手力男神(タヂカラオ)が 二度とこのような事が起こらないようにとでも念じたのか、エイッとばかりに巨大な “岩戸” を投げ飛ばしました。
空を舞い地上に落ち着いた “岩戸” が信州修験の聖地 “戸隠山(とがくしやま)” なのだそうです。

この戸隠山に五つの社をもって鎮座するのが『 戸隠神社 』
宝光社、火之御子社、中社、奥社、そして、九頭龍社の五社から成る戸隠の宮の創建は平安時代前期といわれていますが、一説に その創始は有史以前ではないかとも・・。

各社 それぞれの御祭神を頂いています。麓に近い順に辿ってみましょう。

「宝光社」には 天表春命(あめのうわはるのみこと)が祀られています。天表春命は中社祭神・思兼命の御子神であり、国開きの神であると同時に、学問や技芸 また裁縫などの神ともいわれ、とりわけ女性や子供の守護ご利益に霊験あらたかな神とされています。

「火之御子社」は天鈿女命(あめのうずめのみこと)をはじめとする四柱、この社は神仏習合の時代にも神社としての色彩が強かったそうで、天鈿女命に習うがごとく由緒ある太々神楽などを現代に伝えており舞楽・芸能とともに縁結びにもご神徳高きとか。

「中社」の御祭神は天八意思兼命(あめのやごころおもいかねのみこと)通じて「オモイカネ」としてよく知られていますね、天照大神が岩戸隠れの折にその解決に知恵を出された考察・判断・統率に秀でた知恵の神様として有名です。

「奥社」 戸隠神社 五社で最も山手、戸隠山の中腹に座する戸隠神社の本社でもあります。御祭神は戸隠伝説の創起・天手力雄命(あめのたぢからおのみこと)、神族随一の剛力の持ち主であり”岩戸隠れ” における活躍の他、”天孫降臨” の際にも随伴されました。

画像©戸隠神社

そして「九頭龍社」 奥社と同じ境内に立する、ある意味戸隠神社の創起・原初に関わる社なのかもしれません。御祭神は 九頭龍大神(くずりゅうのおおかみ)、神道の創始の姿、自然崇拝に結ぶ神であり、縁起によれば “学問” という名の行者が法華経の霊力をもって “九つの頭を持つ龍” をこの地の岩屋に封印し、封じられた龍は後に善神となりこの地に恵みをもたらしたという伝承が残っています。

 

戸隠神社が世に知られる頃、平安時代も後半には既に密教の教えが混淆した山岳修験道が確立・定着していました。その後 室町時代に形成されたといわれる上記 天岩戸伝説との結び付きを含め、時代の移り変わりに影響を受けながらも明治時代に至るまで比叡山、高野山と並び “三千坊三山” の一角として多くの修験者や参拝者で賑わう聖地として崇敬を集めたのです。

明治以降、神仏分離令により神社としての性格を強めるなど 時代時代で変遷のつづら折りを見せてきた同社ですが、そもそもの原初における姿は自然崇拝(主に山と水への畏敬)を起源としていたことは想像に難くありません。

この「九頭龍社」そして「奥社」に通ずる随神門からの参道の内 500mに渡って続く巨木の杉並木は幽玄の神秘を感じさせる佇まいで 参拝者・観光客にも人気のスポットとなっています。 日頃 目にすることのない、肌で感じることもない、幻想的な佇まいは訪れる参拝客を魅了して止みません。

樹齢400年以上ともいわれる杉の巨木、他のいかなる生物よりも永く生き、およそ安土桃山時代の終焉の頃から日ノ本の歴史を見つめ続けてきたことになりますね。

しかし最近、この杉木立が衰退の危機に晒されているといわれているそうです。

温暖化にともなう環境変化によるところも大きいようですが、同時に近年 倍増した参拝者の踏圧(参道やその周辺を踏み歩く圧力)による、根張りの阻害・縮小が指摘されており、戸隠神社でも有志による「戸隠奥社の杜と杉並木を守る会」を結成、地道な調査、科学的な検証を交え、自然そして歴史の遺産でもある杉並木の道を未来につなげる施策を進めているそうです。



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自然の神霊 宿る山、数多の修験者・崇敬者の崇敬を集めて止まない信濃の奥深き地においてさえ、数百の時を越えて生きてきた樹木に危機が訪れている事実は私達に何を物語っているのでしょう。
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後編、森林・自然と私達のあるべき姿を考えながらコラム的内容で続けさせていただきます。

『戸隠神社』 公式サイト

過去の信仰・神社・仏閣記事一覧

Amazon:『天岩戸神話を歩く: 高千穂から戸隠へ』

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