鬼見て泣いて大きうなる神楽の里 – 広島県

何か “鬼” のネタが続きますね・・w。 いい歳ですが、いまだに漫画を読みます。
最近『カグラ舞う!』という作品を読む機会に恵まれました。派手な展開のお話ではなく、一般高校生の日常を描いた牧歌的な内容ですが、”恵まれた” という表現を使いたくなるほど、新しい知見に触れた気がします。

基本的に4コマの漫画ですが、全話を通してひとつの物語が構成されています。全3巻、東京育ちの女子高生が親の仕事の都合で、故郷 広島県(北部地域)の町に引っ越してきたところから話は始まります。

© 佐藤両々 / 少年画報社

洗練された都会の暮しから一転、田舎の暮らしに戸惑う主人公、そこに追い打ちをかけるように入ってきたのが地元の異常な “神楽愛”。 舞の美しさ・神秘さに惹かれながらも、その世界に自分が関わることは躊躇していたのですが・・というお話。

神楽・伝統芸能といえば年配者にかかるもの、という一般的なイメージと異なり、幼少の頃から面や舞が身近にあって、青年期・中年期・人生を通して生活の隣に神楽が息づいている・・。 そんな町の気風に包まれながらの青春ラプソディであり、物語の楽しさとともに実情に基づいた作話であることに驚いたものです。

 

後に生まれる数多の芸能の礎ともいわれるほど その歴史は古く、神楽は神と人をつなぎ、また人と人を紡ぐ喜びでもありました。

元来 神事である神楽は全国各地で受け継がれてきましたが、特に中国地方においては現在もなお 日々の暮しに近い存在として生き続け、その祭事・イベント・神楽団の数も抜きん出ているのだそうです。

中国地方で神楽が盛んであるのは、ひとつには古代 出雲国文化の影響が今日にまで その光を射しかけているのかもしれません。 お膝元ともいえる “出雲神楽” “石見神楽”、岡山県に残る “備中神楽”、そして “広島神楽” とその北部を中心とする “芸北神楽” などが代表的な存在と言えましょう。

本日のご案内である広島県の神楽は、往古 “石見神事” で舞われていた大元流を基に “出雲神楽” や、九州〜山口の “岩戸神楽” の影響を取り入れて、演出性高く誰もが楽しめる・・言うなれば神事と民俗芸能をつなぐ、絶妙な構成が特徴となっています。

 

『カグラ舞う!』の中で主人公である “カグラ / 神楽(名前・女性)” は地元の高校に通うことになりますが、神楽の風土に馴染んだクラスメイトたちからは “(名が)神楽なのに舞わんの?” と茶化され、親戚でもある同校の神楽部員からは入部を迫られます。

人前に立つことが苦手で、カグラという自分の名前さえ さして好きでなかった主人公ですが、半ば強引に引入れられた神楽部で経験してゆく “神と人との関わり” そして “人と人とのつながり” 。 楽譜も無ければ台本さえ無く、神楽が往古から口伝で続けられる “伝言ゲーム” であることを知ったときの驚き。 そして、初めて立った舞台で経験する緊張感とカタルシス。

以前の暮しでは考えられなかったような新たな体験を重ねて成長を続け、やがて地元に馴染み自分の名前も好きになってゆく・・。カグラの日記漫画のような内容ですが、ほんわかとしたコマ運びのテンポと、合理的な現代においてなお生き続ける神話のDNAが読んでいて楽しい作品でした。

 

上述のように、神楽は “神と人をつなぎ” “神に楽しんでもらうもの” であり、同時に “人々が楽しむもの” でもあります。 諸説・諸流ありますが元来、記紀に載る “天の岩戸伝説” において “天宇受賣命(アメノウズメ)” が舞った “天照大御神 再光” の舞が、神楽の起源だともいわれています。

神楽の語源自体も神の坐す場所 “神座(かむくら)” であり、いわゆる “神降ろし” について巫女が舞う歌舞であって “神界と俗界をつなぐ” 大きな祭事でありました。 招魂の習いであるとともに、後の民俗芸能につながる “宴” の場でもあったのです。

現在も宮中において執り行われる神楽は “御神楽(みかぐら)” といい、それこそ神事における最重要な祭事のひとつですが、市井の神社やそれを中心とした民間で行われる神楽は “里神楽” といって、”祭り” とともに人々の楽しみと喜びを招く側面が強いです。

“広島里神楽のメッカ” ともいえる芸北にあっては、上記のように暮しのはじめから神楽が身近にあるため、小中高校と若い世代にも神楽に馴染みのある人が少なくありません。本日のお題のごとく “鬼の面を見て泣いた子どもが神楽に馴染みながら育つ” のが地元の常なのです。

それを如実に物語るのが『神楽甲子園』の存在でしょうか。

広島県 安芸高田市には「神楽ドーム」と呼ばれる施設があり、毎年夏期に全国の高校神楽部の若人が その演舞を競います。 コロナ禍の中ではありましたが 11回目を数える『神楽甲子園』、今年も7月に無事大会を完了しました。

将棋やパソコン、そしてダンス、ゲーム関連と、現代には以前では考えられなかったような新しいジャンルの “甲子園” が存在しますが、『神楽甲子園』もまた、その道が好きで情熱とひたむきな鍛錬を重ねてきた、若者たちの “ハレの舞台” なのです。

 

神楽の本番に用いられる面や衣装は、機能性に富んだ現代の衣服と異なり非常に扱い辛いものなのだそうです。 表から見える豪華絢爛の美しさと対照的に、その重量が10kgを超えるものはザラ。重いものでは30kgに達するものもあるそうで、流麗とした舞からは想像出来ないほどの重労働なのだとか・・。

生地の性質や重ね着をすることから通気性も決して良いとはいえず、夏場における舞やその練習は、疲労も含めて発汗・脱水症状など注意を要する作業なのだそうです。

また神楽は舞手(舞う人)だけで行われるわけではありません。
脇に座して 物語を叙情豊かに演出する “奏楽(音楽担当の人)” も欠かせない役どころです。 太鼓、笛、鐘、チャンチキなど、こちらも一切 楽譜などを用いず、全て口伝と見様見真似で習得し本番に臨むといいますから大変ですね。 特に太鼓は他の演奏や演舞のタイミングを図る楽器だそうで責任重大です。オーケストラにおけるコンサートマスターのようなものでしょうか。

舞、奏楽、口上 全てが有機的に噛み合い奏功してはじめて、神と人に届く神楽が生まれるのですね・・。

 

ご案内してきましたが、このように広島県 / 芸北をはじめとして、中国地方の各地では神楽に連なる祭事やイベントも少なくなく、また現在ではインターネットでその映像を見ることも簡単に出来るようになりました。

千年を超えて現代に伝えられ、神々と人との交わりを紡ぐ「神楽」とその物語。
もし、ご興味をお持ちになられましたら、とりあえずインターネットで検索してみてください。そこには これまで知らずにいた新しい世界が開けているかもしれません・・。

また、私が読んだ『カグラ舞う!』(佐藤両々 著)もライトな内容ながら割とお薦めです。”カグラ” のその後がどのようなエンディングを迎えるのか、貴方の目で確かめてみてくださいね。
※ 永久保貴一氏による『カルラ舞う!』とは、名前が似ていますが全く異なる作品です。ご注意ください。

『神楽門前湯治村』 神楽を堪能できる行楽温泉施設 サイト

『The Kagura Japan』 海外向け 広島神楽紹介サイト

 

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