一週間前に “小雪(しょうせつ)” を数え、季節もいよいよ冬の装いを深めてきました。今のところ北海道の一部を除いて さほどの降雪は見られていませんが、来週には “大雪(たいせつ)”。そろそろ冬支度も考えなければならない時期のようですね。
“朝霧” という言葉は秋の季語だそうです。地表付近の放射冷却と地形によるところが大きいため、特に晩秋から冬の始まりにかけて発生することが多く、山々に囲まれた盆地に現れた朝霧は時に濃霧となって、山間の地域を真白な海に埋め尽くしてしまいます。
都会でも濃霧は稀に見られますが、そこは動き続けることが必然でもある街中、一見、異界のようにも見える景観を楽しんでいる隙などあまりありません。基本的に短時間で失せてしまうものとはいえ、通勤・通学でのトラブルが無いことを祈る方が先決です(^_^;)
朝霧を歳時記的な現象、異様・荘厳な景色として味わうためには時間的な余裕、そして望景のための条件が必要となります。 要するに旅行などで “早朝に” “ある程度の高さ” の場所にいないと、中々その全景を目にすることが難しいのです。 山間の盆地といっても平地で眺めたら “ただの霧” になってしまいますから・・。
中世、戦に明け暮れた時代。 “城” は武士にとって活動の中心であり、また精神的な拠り所であり、そして実際の戦闘における戦略拠点でありました。 時代が下がって城に求められる機能や存在意義が変わり、多く “平城(ひらじろ)” となりましたが、群雄割拠、攻めては攻められる戦国の最中は “山城(やまじろ)” が多用されたのです。
戦のない平和な世が続いて山城の大半は失われ、石垣など僅かな遺跡を遺すのみとなりましたが、現在もその遺構を残す一部の山城の中には “天空の城” として名を馳せるものがあることはご存知のとおり。 近年では兵庫県朝来市の “竹田城跡” が話題ですね。
似たような山城は “竹田城跡” 以外にも、島根県 “津和野城跡”、福井県 “越前大野城”、岐阜県 “郡上八幡城” など数城が著名ですが、これらが “天空の城” として注目されるのは、単に山の上に立地しているだけでなく、上述の “朝霧” が大きな役割を果たしています。
埋め尽くす幽玄の霧によって付近の山々の頭が島のようにも見える不思議な光景、静寂の中に浮かび上がる茫漠とした佇まいは、城や山頂が濃霧に抱かれてはじめて神秘の様相を呈すのです。 ”天空の城” と呼ばれるものに兵庫や岡山、島根県など中国地方のものが多いのは、朝霧の発生条件に見合った地勢・気候によるものなのかもしれません。
兵庫県の西端、岡山県美作と境を接する “佐用町”、ほぼ中央を南北に流れる佐用川に沿って町が開けるものの、町内の90%以上が山林という典型的な山間自治体です。
周囲を山で囲まれ在所が真ん中の盆地状態、そこに川が滔々と流れる・・となれば霧発生の好適条件。 秋の終わりから冬にかけて「佐用の朝霧」と口端に掛かるほど、度々発生し、印象的な風景が作り出される土地柄なのだそうです。
その佐用町の街地からやや北に上がった場所 “平福” に『利神城(りかんじょう)』はありました。 現在、本丸などの城郭は残っておらず、その石垣や土塁などが在りし日の影を伝える『利神城跡』となっています。 創始は南北朝時代といいますから900年近くも前の話、播磨国を治めた赤松氏一族による築城と伝わります。
その後、戦国時代の熾烈な攻防によって城は一度落とされますが、関ヶ原の戦いの後 “池田輝政” が当地に入府すると、その甥 “池田由之” が「利神城」を任され大改修を行いました。 当時は回廊でつながれて三重の天守をもつ立派な城であり、城下町も整備されたのだとか・・。
雲海を従えてそびえる「利神城」の威容は “雲突城” の異名を誇ったそうです。
〜夏草や兵どもが夢の跡(なつくさや つわものどもが ゆめのあと)〜 とは 松尾芭蕉による俳句。 かつて戦場でありながら今は草に覆われる荒地や、石垣のみ遺された城跡を見るにつけ思い起こされる名句であります。
この「利神城」も 寛永8年(1631年)廃城となるまで、幾多の星霜と人の葛藤を見守り続けてきたのでしょう。
佐用町では この「利神城」を昭和58年に町の文化財として指定し、次の段階として国史跡への認定を受けるべく施策を推進しています。 しかし、整備に要する資金難などの問題もあり一朝一夕に進んでいないのが現状だそうで・・。
従って現在、一部の木々伐採や調査を施しながらも、石垣など崩落の危険性も考慮した上で、自由な登坂・登城も原則禁止なのだとか。
しかし、それだけではあまりに寂しく、また歴史的な価値・将来の観光資源としての認知を広げなければなりません。 一応の対策工事が完了したこともあり、佐用町では、期間限定で安全登城ガイド付きの『利神城ガイドツアー』を開催しています。
現在は来年2月・3月・4月のツアー参加人員を募集中です。
かつて叔父・池田輝政さえも驚かせた大廈はもう時の彼方ですが、そこに眠る “兵どもの夢” は今も息づいているかもしれません。 在りし日の “雲突城” の面影に臨む貴重な機会です。
因みに、この利神城から程近い場所に『宮本武蔵 初決闘の地』という場所もあるそうです。 武蔵 13歳の折、地元剣豪に挑み勝利を得た伝承の残る地、『利神城・雲突城』と合わせて歴史ロマンの一遍です・・。
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