明治5年(1872年)、お侍の世が終わり、時代は急激な近代化の波に覆われていた頃、目まぐるしく移り変わってゆく社会の仕組みや価値観の中で、人々は落ち着かない日々を過ごしていました。
特に同5年11月9日に発布、12月3日を境として行われたグレゴリオ暦(太陽暦)への改暦(同日をもって翌6年1月1日とする)は、国民の生活基盤の根幹に関わるものであっただけに、当時の混乱は想像を超えるものであったかもしれません。
1000年以上にわたって使われてきた “太陽太陰暦” を打ち捨て、世界基準となりつつあった “グレゴリオ暦 / 太陽暦” を拙速に導入したため、社会の隅々に多くの歪みと動揺を生み出しましたが、それでも、人々はやがてそれを暮らしの尺度として受容していったのです。
“おもしろき” ことも、そうでないことも、燃え盛る坩堝のごとく渦巻いていた明治時代。その改暦が行われる二ヶ月ほど前、まさに 本日この記事の今から丁度150年前、9月12日(旧暦)(新暦では10月14日)、改暦とはまた異なる “大転換” が 東京・新橋と横浜の間に開花しました。
よく知られる “日本初の鉄道” が運行開始されたのです。
それまで “内燃機関(エンジン動力)” を用いた乗り物には “蒸気船” があったものの、大半は国家もしくは それに準ずる管理下、海外渡航でもしない限り乗る機会のないものであり、一般的な国民には縁遠いものでした。
人々は “旧暦” と同じく千年それ以上の間、自らの足か籠、馬や牛に頼った移動手段のみで往来を行ってきたのですが、この日をもって機械動力を用いた移動方法 / 交通機関を手に入れたのです。
官営(公営)であった初の蒸気鉄道は、物珍しさも手伝って当時 爆発的な人気を得たようです。 それまで唯一の動力機関であった蒸気船になぞらえて「陸蒸気」の言葉が広まったのも当時の人気を伝えていますね。
上等・中等・下等と三階層に分けられた乗車運賃は上から1円12銭5厘、75銭、37銭5厘(現在の価値でそれぞれ1万5,000円、1万円、5,000円程度)と、当時の生活水準も重ねると、かなり高額であったにもかかわらず 想定を上回る利用率であり、開業の翌年には大きな利益を生み出しました。
これによって 鉄道の高収益化が現実のものとして見込まれるようになり、以降、京阪神間を皮切りに、全国に鉄道路線が拡大してゆくこととなります。 官営のみならず莫大な資金を投じての私営鉄道も各地で計画され、本年2〜3月にお送りした「三つの時のキーワードから見る長浜の小史」のような事績にもつながったのです。
因みに “鉄道の開通” = “長距離間の移動” ということになると、必ずといっていいほど取り沙汰される話題に「駅弁」がありますが、これの初出については諸説あり未だ定説を見ていません。 一応、有力な話として、明治18年(1885年)営業を開始した上野~宇都宮間、旅籠商・白木屋嘉平による “握り飯二つとタクアンのセット” であったといわれています。
そして駅弁ではありませんが、それより早く・・どころか、上の日本初の鉄道開業よりも早くから駅構内で売られていたのが「新聞」であったそうです。
開業よりも早く・・というのは、実は新橋〜横浜間、9月12日の3ヶ月程前から試験的な仮営業(運行)を行っており、既にそれなりのお客をこなしていて、そこに着目した人による構内販売がされていたのだとか・・。 正式な開業時には横浜駅に売店も設置されていたようで、商魂たくましい というか、それだけ当初から鉄道と国民の関わり、そして未来に向けての発展に熱がこもっていたのでしょう。
以来 150年、日常や行楽の足として、物資の大量輸送手段として、そして時に戦争に関わる重要機関として、晴れる日も雨や吹雪に打たれる日も、鉄道は人々の願いと希望を乗せて走り続けてきたのです。
鉄道開業150年 を記念して 今年 JR各社(旅客鉄道各社)は、様々なイベントやキャンペーンを展開しています。
コンテンツ詳細はあまりに多岐に渡るので、下記リンク先に委ねますが、補助的であり、且つまた中心的なハイライトのひとつとして行われる “デジタル・スタンプ”「STATION STAMP」の頒布が楽しげで魅力的に思えます。
かつて用いられたゴム判スタンプによる情緒は若干失われますが、近年では60〜70歳代の方でもスマホ持ちの方は多いので、アプリのインストールのみ ご家族や知人から助力を頂いて、後は各駅の駅員さんなどに聞けば、じきにスムーズに進められるでしょう。
対象駅の内 18の駅においては、ここだけで聴ける音声コンテンツも併用されているそうです。 JR による案内コピーを引用させていただきましょう。
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全国のJRの対象の駅を訪れて150年を記念したデ ジタル版スタンプを集めて楽しもう。鉄道の歴史を感 じることができるJR各社の駅舎や、魅力的な観光地な どをモチーフにした各沿線の魅力あふれるスタンプが 手に入ります。獲得数に合わせて素敵な特典もご用意しております。
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150年の歳月をひたむきに走り続けてきた日本の鉄道、社会構造の変化に伴い現在では地方において、経営の危機に晒されているところも少なくない現状ですが、鉄道路線がいつの日も人々の暮らしに寄り添ってきたのは紛れもない事実です。
そして、”持続可能な社会” の実現が叫ばれる中、鉄道が担ってゆく未来もいよいよ その重要性を増してゆくように思えます。
今年は日本において、その節目となる年なのかもしれません。
しかし、そこに立ち会う私たちが難しいことを考える必要はないでしょう。
ただ、150年という記念すべき年に巡り会えたことに喜びを感じ、忘れられないような素敵な想い出を、そこに刻めば良いのだと思います。 鉄道にとってもそれが一番嬉しい関わり方なのでしょうから・・。