先週に引き続き、今回も土の香り懐かしき郷土の民話からお送りします。
新潟県、古代 “越国(こしのくに)” の一国であり、奈良時代の律令制発効に伴い、最も北部であった地方が「越後国」となりました。越州(えっしゅう)という呼び名も一部では使われます。
戦国の世に至って、”軍神・上杉謙信” が登場。未だ群雄割拠であった領内をまとめ上げ安定をもたらすと同時に、室町幕府より信任された関東管領職をもって、北関東一円から北陸地域に至るまで覇を奮ったのは、皆様のよく知られるところです。
先週、和歌山編では徳川吉宗 役 “松平健” さんに触れましたが、上杉謙信 役としては、大河ドラマに登場した “Gackt” さんが、いい感じでしょうか・・中々にキマってますね!
いたずらに領土拡大を目指すのではなく、”義” を至上の行動原理に据えていたといわれる “上杉謙信” ・・。 あまりのカリスマ性故に その死後、家内は後継問題に揺れ、また関ヶ原合戦において西軍に組みしたため、謙信在世の頃の勢いは影を潜めましたが、江戸時代を通じて名家の誉れが失われることはありませんでした。
冬は雪に閉ざされる過酷な風土を乗り越え、やがて日本一の米どころとなる開拓と忍耐の精神は、古代からこの地で生き抜いてきた民と、謙信公に顕されるような “義” の信条の為せる技なのかもしれません。
とは申せ・・、さて、一般の民草の日々ともなれば そう真面目なことばかりも言っていられません。暮らしの端々に少々の不真面目や驚きも差し込まねば・・
本日はそんな、ちょっと変わり目なお話をお届けしたいと思います・・。
『かがしの神さん』
昔あったとな
村に九作という男がおったと ばっか(とても)真面目な男だすけ そりゃもう朝の早うから晩の遅うまで よう働いて金をば貯めとったと
そん金で田を買うて稲を植えたらば そん年は豊作とばかり喜んでおったが
秋になると どっからかスズメが ばか湧いてきて 次から次へと稲穂をついばみよる
せっかく実らせた稲穂ば どんどんどんどん食い荒らされるはたまらねぇと
九作 スズメどもを追い回し追い回し追い払おうとするが ばか数あるスズメ相手ではどうにもならね
ほとほと困り果てて 年寄りに相談したならば
「そんげな時ゃ かがし様をば立てなせ」
「そんで かがし様に “正月にゃご馳走作って祀るすけ どうかスズメ追っ払ってくんなせ” と頼んだらえぇ」
と教えてもろうた
なるほど とばかりに ワラを紡いで かがし様を三体ばかりこしらえ 田に立てて ようようお頼みしたんだと
すっと かがし様 次の日の朝から・・
「粟鳥も立て 米鳥も立て 皆たて ホ~イャホ~イ ♪」 とスズメを追い払うてくれたのやと
田の中でずうっと追うてくれるんで スズメも中々寄り付き難うなる
九作はたいそう喜び あんぼ(饅頭)こしらえて かがし様へ上げる
次の日にゃ また珍し美味いもん探してきて かがし様へ上げる
と百姓仕事のかたわら 殊の外かがし様を大事にしとったんだと
おかげで 七日もたった日にゃ あんげいっぺぇことおったスズメが一羽も見んようになったと
かがし様の七日は人の百日というくらい長ぇこと効き目があんで
そん年 九作の田はたいそう実りの多い年となったんだと
秋が来て やがて粉雪舞うて そして正月を迎える日となった
「かか、かか、今年は作も良うて万々歳じゃ。 かがし様のお陰で結構なあんばいの正月」
「かがし様に ごっつお(ご馳走)こさえて 酒も供えて床の間の膳を設えてくれや!」
九作は上機嫌 あいよー! とばかり かかも喜びながら床の間を拵えよった
すると そん時じゃ・・
梁の上 高窓の方から何やら笑い声のようなものが聞こえよる
“ん? 何じゃ?” 九作と かかが見ておると 何ということ高窓の向こうから
愛しげな娘が ヒョイとこちらをのぞいておるではねぇか・・
なして あんげな所にと思う間もなく その娘がスーイと高窓から降りてきてチョボっと床の間に据えた膳の前に座りおったわ そして もう一人もう一人とスーイスーイと降りてきて三人の娘御が膳の前に座りおった・・
たまげた九作 「かか こりゃいってぇ何じゃろう? かがし様に上げたお膳の前にねまっちょる」
ところが かかの方を見るとさっきまでのニコニコ顔はどこへやら
九作の方を睨みすえておるではねぇか
「父っつぁ てんぽこくでねぇ(嘘つくな) オラちいうもんがあんに あんげな若ぇ娘御 三人も囲うておったとは何ちゅう しょったれ(だらしない)じゃ!」
「ちょ! 待てかか! ありゃ かがし様かも知れねぇが」
「何が かがし様どころか! ほんに しんきやける!(頭にくる)」
九作とかかが口諍いをしている間に 一人の娘御が スーイと影のように高窓に上って そこから外に出ていってしもうた すっと もう一人の娘御も またスーイと高窓から出ていってしもうた
ようよう それに気づいた九作 三人目の娘御がスッと上がろうとしたところを せいで押さいて何とか外に出ないようにしたのだと・・
「九作! どうじゃ おまった(お前たち)も お詣りに行かんか?」
夜も明けておった 隣りの五助が九作の家を開けてみると そこには尻もちついた かかと
稗俵一俵 しっかと抱いて離さん九作があったのだと・・
おまった こりゃどうしたがんだ? と驚く五助にこれこれこういうあんばいと話す九作
五助は驚きながらも
「そりゃまあ もったいねぇことしたな せーっかく福の神さん舞い込んだのに かかが心得ちがいをせねば金俵三俵になったもんを・・」 と呆れたんだと・・
ーーー 新潟県 東頸城(ひがしくびき)
せっかく苦労して神様のねぎらいも手にしたというのに、ほんのつまらない行き違いから儲け少ない結果となった・・という、まぁ半ば笑い話でしょうかね・・w
それでも九作さん、真面目なお人ですから また福の神さんも来てくれるでしょう・・。
次回も越後国から民草の香り豊かなお話をお送りしますね・・。