大正の残り香 夢二に逢える美術館 – 東京都

「激動の昭和」という言葉があります。
太平洋戦争での敗戦によって灰燼に等しいほど打ちのめされた日本、そこから立ち上がり、世界が驚嘆する短い年月で国勢を立て直し、文化・経済を向上させてゆき、ついには最高水準の技術大国にまで辿り着いた昭和の時代。

その中で織りなされた人々の生き様と数多の成果・事象、そして事件、世界中を覆った暴乱の時から栄華の瞬間まで ”昭和” はまさに激動の坩堝の時代でありました。

同様に、”明治” の世も激動の言葉に相応しい時代と言えるでしょう。
260年に渡る中世の平穏が破られ 国を分けて繰り広げられた内戦、国家の行く末を決定づけた大転換の時でも有り、その後、社会は司法・行政のみならず 一般民衆の日々の生活に至るまで、根本的変革の洗礼を受けた波乱の時代です。

 

そして「大正」、明治と昭和に挟まれ わずか15年という短い期間にあり、長い治世であった前後の時代から見ると、さながら小さく思われるスケールサイズではありますが、その存在意義は、まさしく近代国家へ向けて猛進してきた ”明治” と “世界の中の日本” が具現化されてゆく ”昭和” の橋渡しとなりながらも、新興文化の隆盛に沸くと同時に、動乱にまみれてゆく世界への ターニングポイントともなった稀有な時代でも有りました。

 

 

急激な価値観と生活の変化の荒波を越え、近代国家の仲間入りを果たした日本、”日清” ”日露” の両戦争を勝利で終え国威も揚々の中、人々は束の間の安寧と、既に広がっていた新時代の文化・思想の波に洗われていました。

工業化の発展にともない近代的な生活スタイルが地方都市にまで波及し、それとともに旧来からの社会制度に対する考え方にも変化を来たし、それまで存在し得なかった思想や感性が表出されるようになり、後に「大正デモクラシー」と呼ばれる ”民本主義(人民のための政治体制と行動)” にも繋がりました。

モボ・モガ(モダンボーイ・モダンガール)などに代表される新興気風など、時代は大勢として新文化勃興による躍動的・進歩的な風の中にありましたが、同時に世界的な厄禍であった第一次世界大戦の最中でも有り、世に反し世の流れを離れるかのように「耽美主義」や「厭世主義(ペシミズム)」の萌芽を見たのもこの時代と言えましょうか。

 

竹久夢二 ”大正の浮世絵師” とも呼ばれながらも 旧来日本画の枠を超え、様々な新風の技法を取り入れながら 浮世絵師の名に恥じぬ甘美な美人画を創出した画家であり、詩人でもありました。

よく知られるように彼は ”恋多き” 者であり、多くの恋愛遍歴を持ちながら、揺蕩う想いを抒情的な作風に結実させました。 世の喧騒とは無縁のごとく静かに佇み、時に夢見、時に愁うる華奢な少女や女性の姿は、ある意味 強靭さをもって進んできた世相とは相容れないものながら、その清楚で耽美な美しさは世間の大きな反響を得たのです。

その作品は一介の芸術作品にとどまることなく、多くの装丁や挿絵、広告図版の画題として大衆の目に触れ広く受け入れられてゆき、それは今日に続くグラフィックデザインの礎ともなりました。 同時代に活躍したチェコ出身の画家 “アルフォンス・ミュシャ” とともに国内外を問わず 大衆に届き愛される画家となったのです。

伝統や格式的な思想・作風を重きとする画壇からは絵画の一風としてさえ認められませんでしたが、その見識が妥当であったかどうかは現在の評価を見ても明らかでしょう。

 

大正時代にあっては49歳という平均的な寿命で逝去した竹久夢二、人生50年を想いの丈に乗せて走り抜けた生き様は、彼が見つめ続けた普遍 それとも移ろう “愛と美しさ” への憧れとともに、後に世を覆う非業の大戦にも焼き尽くされることなく、時代を超えて現代の私達に届けられているのです。

東京都文京区弥生にある『竹久夢二美術館』は、1984年に開館した『弥生美術館』に隣接して1990年に開設された私立美術館です。

弁護士であり篤志家であった鹿野琢見(かの たくみ)によって創設され、初期には竹久夢二の子息が館長を務められていたことでも知られています。

『竹久夢二美術館』には夢二の作品3300点が収蔵され季節によって期間限定で企画展が開かれ、『弥生美術館』の方には夢二の作品とともに、これも大正・昭和と一世を風靡した “高畠華宵” の作品群が数多く所蔵されています。

 

現在はコロナウイルス感染症抑制のため、完全予約制の観覧となっていますが「夢二×文学「絵で詩をかいてみた」 ― 竹久夢二の抒情画・著作・装幀―」展も開催中です。

現代では忘れ去られつつある 大正ロマンの息吹、通奏低音のごとく密かな緊張感の残る時代の中で、束の間の静寂に百花繚乱に華開いた人々の想い、百年の時を超えて私達に届く美の一端を感じさせてくれる機会かもしれませんね。

画像:Wikipediaより

 

『弥生美術館・竹久夢二美術館』 公式サイト (入館予約制)

展覧会 「夢二×文学「絵で詩をかいてみた」 ― 竹久夢二の抒情画・著作・装幀―」 PDF

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