プロレスの栄光は潰えず 今板橋に咆哮する – 東京都

セ・リーグでは巨人の優勝が決まり、この記事が掲載される頃にはパ・リーグでも ほぼクライマックスシリーズが終わり、日本シリーズに向けて動きだす頃でしょうか。

近年ではサッカーにはじまり様々なスポーツやパラスポーツに注目が注がれ、また以前には無かったような新しくユニークなスポーツや競技も 次々と頭角を現してきたため、プロ野球に対する人気や注目度も以前に比べると落ち着いてきたように感じられますが、それでも日本人にとっての野球は観戦スポーツの花形なのでしょう。

昭和の時代においては子供から大人、高齢者にあっても相撲と人気を二分するスポーツの王道でありましたし、分割した期間開催の相撲に比べ 半年間に渡ってリーグ戦を戦い抜き勝者を決める野球はドラマチックなシーンを生みやすく、その試合テンポも含めて日本人にあっているのかもしれませんね。

 

さて、同じように昭和の中頃にあって日本中の話題をさらったものの、昭和の後半から平成にかけて やや人気が衰え、マイナー・・というか 多少 固定ファン向けのものとなり、そして 最近また話題に取り上げられることが多いスポーツに『プロレス』があります。

「ジャイアント馬場」や「アントニオ猪木」「ザ・デストロイヤー」や「テリー・ファンク」の試合を憶えておられる方は おそらく50代後半以上の方でしょうか、「力道山」になると 私でもリアルにその試合を見たことはありませんが・・。

”これ(試合中継)が始まると風呂屋(銭湯)がガラ空きになる”* とまで言われた力道山人気を基点にプロレスは隆盛の道を辿り、多くのスターレスラーを輩出してゆきます。

先述のプロレスラー達が活躍したのも昭和の30年代後半から50年代にかけての事、「タイガーマスク」や後の「キン肉マン」の漫画にもつながり当時の子供達をも魅了しました。

*当時は自宅に浴室を持つ家は少なく一般に銭湯利用が主でした。また このフレーズはラジオ / テレビドラマ・映画「君の名は」でも使われました。

 

連日テレビでも取り上げられ 数十万とも数百万とも言われたファンの多さと、それに支えられたプロレス興行ですが、昭和も終盤に差し掛かる頃にはその人気にも翳りが見え始めます。

サッカーJリーグの誕生には今しばらくの時があり、プロ野球もまだまだ国民的スポーツの地位を確保していた時代に、プロレスは緩やかな下降線を描くようにテレビの晴れ舞台から姿を消し、試合数そのものも減少してゆきました。

「女子プロレス」など一時的に人気を博したものもありますが、プロレスそのものの凋落を覆すまでには至りませんでした。

何故 プロレス人気は衰退していったのか? その理由は様々で明確な答えを持ちませんが、ひとつには力道山や馬場、猪木を超えるようなビッグスターが育ちきれなかったこともあるでしょうか・・ 力も有り技も有る逸材は何人もいましたが隆盛期の国民的人気を保持する巨星とまではいきませんでした。

プロ野球においても 王・長嶋 や 金田、江夏、星野仙一らが活躍していた時代が人気のピークであったように思います。

人々は勝敗を決するスポーツ競技に劇的なドラマを想定し、そこにスタープレイヤーを求めます。 スターの輝きがおぼろになったリングに興奮を見いだせなかったのかもしれません。

しかし、逆に言えば観客である人々そのものが圧倒的なスターを求めなくなり始めた時代とも言え、こればかりは時代の流れ・趨勢と言わざるを得ないのでしょうね・・。

 

もうひとつ、プロレスが人気の当初から言われていたことに、プロレスは “ショー” であり、純然たるスポーツとは言えないという問題でした。

確かに他のスポーツと異なりプロレスは、時にルール違反のラフプレイが作為的に行われていたり、前提的に “ベビーフェイス・善役” ”ヒール・悪役” が存在するなど、フェアプレイを旨とするスポーツにあって異端の側面を持っていました。

それが ピュアスポーツではなく、ひとつの “興行” として認識された所以でもありますが、”興行” と言うなら大相撲もプロ野球もプロスポーツは全て “興行” であるのも事実ですし、作為的要素が強いとはいえ、この ”演出的” ドラマこそが(力道山以来)プロレスの人気を支えていた本懐でもありましょう。

その後、スポーツ性を全面に押し出して人気を博した「K-1」などの総合格闘技が一時的に隆盛したものの、現在では今ひとつ精彩に欠けるのも これを考えさせる因と言えましょうか。

 

近年、こうしたプロレスの存在に再び光が当てられつつあるようです。

往時の絶大な人気までとはいかないものの「プロレス」の存在と熱狂こそを愛しその復興を夢見る人達によって、先ずはメインストリームを離れた全国各地で様々な形で新たな産声を上げてきました。

今までなら少しイメージの湧きにくかった沖縄県を地盤として立ち上げられ、新たなファン層を獲得しながら人気を博している「琉球ドラゴンプロレスリング」

「Universal Dream Of NEXT プロレス」~略すとたまたまUDONプロレスになりました~
本当かよ!? もうお分かりの香川県プロレスリング団体、

イナバナ.コムでも記事に取り上げる候補になっていた「ローカル線プロレス」などは 運行中の列車内で試合を繰り広げるユニークかつ斬新な取り組みです。

いずれも共通しているのは確固たるスポーツ性や格闘技としての真剣さを保持しながらも、何より選手、運営、そして観客が一体となって楽しめる空間づくり・・

過去に言われた “ショー” であるとか “興行” であるとかの話など何処の空、好きな者が情熱と技でプレイし、好きな者が熱狂をもって応援する、プロレスが持っていた “魅せる”という 本来の姿をストレートに再現したものが多く、中にはコメディなものまで。

”モノからコトへ” “形から体験へ” と言われる現代、スポーツ観戦の嗜好性も多岐にわたってゆく中、ある意味 ようやくプロレスもその本懐に沿って見直されてきたのかもしれませんね。

 

そして、もう一意は 多くのプロレス団体が規模が限られており、メインストリームを外れていることによって、地方を活躍の舞台としていることが多く、結果的に地方の復興や再生に一役買っていることが挙げられます。

今年はコロナウイルス問題の影響も大きく、興行的にもまだまだ順風満帆とはいかない団体が殆どですが、ファン層は着実に拡大傾向にあり、選手・観客の熱意共々末永く発展していってもらいたいものですね。

 

© いたばしプロレスリング

東京 板橋区を拠点に精力的な活動を続けている『いたばしプロレスリング』も そんな団体のひとつ、2014年に数人の規模で発足した団体も今や所属・関連レスラー 十数名を数えるまでになり、その活動は多彩なメディアでも取り上げられるようになりました。

その モットーが「地元板橋に元気と笑顔を!」、関連して子供向けに発行された絵本の題名が「げんきとえがおとフライングボディアタック」ということからも解るように地域の活力復興に力を入れている模様で、イベント売上金の一部を各回 板橋区へ産業・観光振興のためにと寄付をもされています。

現在では情勢に対応する形で コロナ対策を施した上でマッチイベントを行っており、大声を上げての声援が出来ないなど残念な部分もありますが、それでも結構な盛況ぶり、12月の板橋グリーンホール大会もSOLD OUT間近です。

YouTube「いたプロチャンネル」の動画を見てみても、限定された規模の中にありながら 観客と渾然一体となった白熱ぶりは見事であると同時に、遠い時代の庶民的な情景を見るようでもあります。

「プロレスの栄光は潰えず」その闘志と熱狂、歓楽を末永く伝えていってほしいものですね。

 

『いたばしプロレスリング』 公式サイト

『いたプロ チャンネル』 YouTubeチャンネル

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