愛すべき夏の豚 常滑と蚊遣豚のはじめ − 愛知県

梅雨も真っ盛り、ジメジメした日が続きますね・・

梅雨が明ければいよいよ夏本番、サマーシーズン到来といったところですが、歳のせいか それとも気象変化のせいか、近年の夏の暑さはことさらに厳しく感じます。

おまけにここ数年は 以前は秋のものであったはずの台風が6〜7月から到来するようになり各地で猛威をふるいます。 コロナウイルス問題で家に籠もりがちだった身体に熱中症にならないような体力づくりや注意点の確認(特に今年はマスク絡みで要注意)、台風被害への事前の備えなど今のうちから心配りしておく必要があるかもしれませんね。

ところで梅雨から夏の到来とともにやって来るのが「蚊」のシーズンの到来でもあります。 大きな被害こそ出ないものの、稀に “デング熱”※ などの媒介となることもあり、何より就寝時に耳元でその羽音が聞こえた日には不快で眠れたものではありません。

※デング熱 蚊を媒介として感染するインフルエンザのような症状を呈する病気で、人から人への感染はありません。 蚊によって感染してもほとんど無症状の人もあるようです。 重い症状のまま放置すると重篤化の可能性もありますが、適切な治療を施せば死に至ることは稀だと言われます。 国内では年間200〜300人ほどの症例が報告されています。

 

蚊を防ぐための対策グッズといえば最近では ワンプッシュで長時間効果のある “ミニスプレータイプ” のものも出てきていますが、それ以外の定番となると いわゆる “リキッドタイプ” 、それ以前の定番 “マットタイプ” 、そしていまだにバリバリ現役、効果もわかりやすい「蚊取り線香」ですかね。

「蚊取り線香」 今でこそ直接 “火” を扱うことの危険性や、煙に対するアレルギーなど以前に比べて使われるシーンが限られますが、昭和の時代、夏の風物詩として除虫菊の匂いとともに懐かしさを憶える方も少なくないかと思います。(あと、蚊帳があれば完璧ですねw)

明治時代、和歌山県有田郡の上山英一郎氏によって考案された蚊取り線香は、以来100年にわたって “日本の夏” を守り彩ってきました。線香の名のとおり独特の芳香は風鈴の音とともに不快な夏の夜を静めてくれましたが、ここで忘れてならないのが蚊取り線香の置き道具、今日のお題「蚊遣器(かやりき)」とりわけ「蚊遣豚」です。

 

缶入りの蚊取り線香を買うと、缶の天蓋部分が火を点けた線香をセット出来る蚊遣器になっているので、それをそのまま使うことも多いのですが、このセット蚊遣器が一般的になるまでは専用の蚊遣器や陶器・ブリキなどの器を使っていました。

その中でも、現代でも “蚊取り線香の入れ物” なイメージで通じるのが、ポッカリと大きく口を開いた “豚” の姿を模した陶器製の容器「蚊遣豚」ですね。
現物を見たことがない方でもイラストや漫画でご存知ではないでしょうか。

とぼけたような表情がかえって愛嬌な「蚊遣豚」ですが、そもそも何故 “豚”‘ がモチーフに選ばれたのでしょうか・・。

 

 

愛知県は下を向いた “カニ” の姿をしていると言われますが、その右腕? 知多半島の西岸部、中部国際空港セントレアを擁する「常滑市(とこなめし)」 一説には ここに「蚊遣豚」のルーツがあると言われています。

九枚の板を並べたような常滑市の市章は「常」の文字を図章化したものですが、この「常」は「床」すなわち古来「地面」を指していたものであり、「滑」と合わせて「滑らかな土壌の土地」を表していたのだそうです。

これだけで勘の良い方にはお気づきのように、常滑市は焼き物(陶器)の要である高質な土(粘土)が豊富な土地柄であり、その物産である「常滑焼」は平安時代に端緒を持ち、瀬戸、信楽、越前、丹波、備前 と並ぶ 日本六古窯のひとつとされています。

町の其処ここには窯業・陶器に関わる面影が見られ、昭和初期に最も窯業で賑わった地域を主体に観光ロード「やきもの散歩道」も整備されており、巨大な招き猫「とこにゃん」も観光客をお迎えしています。

 

常滑市の重要な産業として発展した窯業は、現在、世界最大のタイル製造メーカーであり国内のサニタリー陶器をTOTOと二分するINAXの本拠地ともなっていますが・・

大正〜昭和所期、国が近代的な水道インフラを構築してゆく中で これを支える “土管” の製造が盛んになったのですが、ある夏の日、(一節には養豚場にて)蚊除けのため土管の中に蚊取り線香を置いて焚いていたものの、管の口径が大きいためか上手く煙が流れず、それならばと少しづつ口径を狭めてゆき そこに意匠が加わって、後の「蚊遣豚」の原型となったのだそうです。

前後で口径の違う筒型の「蚊遣豚」は部屋の温度差による気流が通りやすく、機能的にも有効なスタイルとも言われ、愛嬌のある姿は好評を得てやがて全国的なものとなっていったのでした。

夏の風物詩として普及していった「蚊遣豚」は常滑市やその対岸地 四日市市を一体した周辺の特産物とされ、同地域は「蚊遣豚発祥の地」を謳い 平成12年からは「アートな蚊遣り豚展」も開催されており、上で書きました和歌山県発祥の蚊取り線香製造の雄「金鳥 / 大日本除虫菊株式会社」も協賛しています。

昭和の家庭の小道具であった「蚊遣豚」は一時期 その姿を見なくなりましたが、最近では その愛らしい姿が見直されてきたのか、インターネットを中心に様々な商品が並び 蚊取り線香への再認識をも促していますね。

 

「蚊遣豚」の発祥の一説をお届けしましたが、他にも江戸時代の “徳利(とっくり)” が元になっている説などもあり定説を得ませんが、他方 元々は「豚」ではなく “摩利支天(まりしてん / 仏教の守護神)” の眷属であり厄除けの神使でもあった「猪」から由来しているのではという話もあります。

謎を拭いきれない「蚊遣豚」の “始め” ですが、豚さん本人はそんなことどこ吹く風な表情、今日も香気に満ちた煙で 人々を蚊の害から守ってくれているのです。

ところで「蚊遣豚」の前面の穴って、やはり “口” なんでしょうか? それとも”鼻” なんでしょうかね? 最後にそれだけ疑問に思ってしまいましたw

 

「常滑 やきもの散歩道」一般社団法人 とこなめ観光協会 サイト

 

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