そこに立つ「ミミチリボウジ」琉球から怖いお話(前)− 沖縄県

早いもので後半月ほどもすれば沖縄も梅雨明け、陽光あふれるサマーシーズンの到来です。

とは申せ、いまだ完全な収束を見ない新型コロナウイルス問題、レジャーのメッカ 沖縄といえどその影響を免れません。 観光地ゆえに人の出入りも多く 一時は140名余りの感染者を出した沖縄でも5月からこちらは新規感染者の発生を見ず、ほぼ沈静化した状況ですが、都心部のように感染の第二波・再拡大に対する懸念も払拭出来ないため、この夏に予定されていたイベントも軒並み ”中止” の方向のようで残念ですね。

 

今回の新型コロナウイルスでは 潜伏期間が長かったり、無症状の人も少なくなかったりと、ウイルスの振る舞いに未知の部分が多かったため、その病害もさることながら人々の間に茫漠とした恐怖心を呼び起こしてしまい、裏付けのない様々な憶測や流言飛語を招いてしまいました。 言ってみれば それだけ人は目に見えない脅威に対して恐れを抱き 心を惑わせるということでしょうか。

実害のあるコロナウイルスなどはご遠慮願うとして、やってくる夏の定番の恐怖といえば「怪談」です。 今日は琉球 / 沖縄の地から民謡にも残り語り継がれる怪談「ミミチリボウジ」のお話をお送りしましょう。

「ミミチリボウジ」 本土の言葉で表すと「耳切坊主」となります。 どことなく山口県 赤間神宮に伝わる「耳なし芳一」の伝説を思い起こさせますね。
何が怖いといって この「ミミチリボウジ」、実在であったとされる人物が元となっているところ、・・ハッキリしていることでも怖いものは怖いのでしょうかね(笑

 

先ずは伝えられる民謡(子守唄)の内容をば・・

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– 歌詞(方言)-

大村御殿の門なかい 耳切坊主が立っちょんど
幾体、幾体 立っちょが~ヤ みっ体、ゆっ体立っちょんど

ヘイヨーヘイヨー ヘイヨーヘイ
ヘイヨーヘイヨー 泣ぁかんど

大村御殿の門なかい 耳切坊主が立っちょんど
何と何と 持っちょうが~ヤ いらなん刀ん持っちょんど

泣いちょる童 耳ぐすぐす
ヘイヨーヘイヨー 泣ぁかんど

– 対訳 –

大村御殿の門の傍に 耳切坊主が立っているよ
何人、何人立ってるの? 三人、四人と立っているよ

ヘイヨーヘイヨー ヘイヨーヘイ
ヘイヨーヘイヨー 泣かないで

大村御殿の門の傍に 耳切坊主が立っているよ
何を、何を持ってるの? 鎌も刀も持っているよ

泣く子は耳をグスグスと切られるよ
ヘイヨーヘイヨー 泣かないで

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幼い子どもを寝かしつけるための ”子守唄” であり、”おとなしく寝なければ怖いことがおきるぞ!” という昔ならではの恐怖を利用した歌詞なのですが、絶妙にリアルな表現が大人でも不安感を覚えてしまうほどの内容となっていますね・・。

 

 

「大村御殿」(おおむらうどぅん)は那覇市、首里城の近く龍潭池の北にあったと言われる、琉球王家・第二尚氏の分家で王室を支えた大名格の一族であり、また その屋敷でもありました。 近代にはその地跡に一時期 博物館などが建てられ 現在は再び更地となった上で発掘調査が進められています。

この「大村御殿」を治めていた一族の初代「朝愛」は、その領地の名から “北谷(ちゃたん)王子 / 北谷朝愛” とも呼ばれ 尚貞王の摂政を長年に渡り務めるほどの人物であり国の治世を支えていましたが、この頃、首里の港、那覇は若狭の町に不穏な噂が広まっていました。

 

日ごと夕暮れになると町の女性たちがひとり、またひとりと姿を消してゆくというのです。

調べを進めるうちに この事件には若狭の “護道院” という寂れた寺に住む「黒金」という名の住職が深く関わっていることが判明しました。

近隣で「黒金座主(くるがにざぁしー)」と呼ばれるその僧侶は その肌の色が浅黒く、奇っ怪な様相が地元の民の不安を招いていたものの、陰陽道にも通ずる 三世相(さんぜそう)という術を使いこなし易を見定める力量を持っていたため、占いに頼りたい女性がよく寺に出入りしていましたが、見目の良い女性はいつしか帰らぬ人となっていました。

 

報告を受けた尚貞王は事の重大さを知り 北谷王子を呼ぶと王家の宝刀「冶金丸(ちがねまる)」を託し、事件の早期解決を命じます。

冶金丸を携えた王子は早速 若狭の護道院を訪ねると黒金座主に対面しますが、敵もさる者 王子訪問の意図を知りながらも我存ぜずの体を装い微動だにしません。

一筋縄でこの怪僧を負かすことは叶わぬと知った王子は、黒金に対し囲碁での勝負を持ちかけます。 ならば何か大事なものを賭けようという緊迫の流れの中、黒金は自らの両耳を、王子はその髷(マゲ・王子の象徴でもある)を掛けて囲碁を指すこととなりました。

 

怪しい技を持ち人を陥れる術を振るう黒金、宝刀冶金丸を傍らに成敗の意思高き王子、ふたりの囲碁勝負は前半拮抗を保っていましたが、やがて王子の指し手が優勢になってくると、反して黒金は焦りの色を見せ始めます。

このままでは負ける・・ そう悟った黒金は密かに呪文を唱え王子に術を掛けはじめます。 いつしか うつらうつらと我を失いかけた王子にその時「冶金丸」の囁きが届いたのか一瞬! その宝刀を抜き構えるや一閃にして座主の両耳を断ち落とし、さらに その胸を貫いて これが怪僧 黒金座主の断末となったのでした。

幾多の犠牲者を弔い、事件は見事落着を得、尚貞王も王子の健闘を讃えます。

ところが、安堵するのもつかの間、その後 王子一族の存亡に関わる怪異が現れはじめます。 それはいつしか件の悪事で成敗された「黒金座主」の祟りであるとされたのでした・・・。

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目に見えない不安や不満に取り込まれた思いはやがて惑いを生み出し、人の心を蝕んでゆきます。 この事件も噂となり騒ぎとなった頃には多くの惑いを生み出したのでしょう。

そして、事件の発端となった「黒金」も元々は衆生を慈しみ仏の道に導くべき僧であったはず。

歩んできた道のどこかで、不安や不満に取り込まれ惑いの魔界に堕ちてしまったのかもしれません。

さて、事の顛末やいかに・・ 以下、意外な歴史の背景も踏まえてお伝え、次回にて・・

 

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