そこは深緑幽玄の世界 上色見熊野座神社 – 熊本県

およそ 神社また社の杜と呼ばれるものは 人々が住まい暮らしを営む場所と異なり、時間の流れが緩やかなように感じますね。
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それは 単に葉擦れの音しかしない静かな杜だから そう思えるのか、それとも そこだけにある特別な何かがそうさせるのか、私達に知る由もありませんが、神霊の響きあればこそとの思いに 森深き古社は今日も人々の憧れと崇敬を集め続けます。

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九州のほぼ中央に勇姿を仰ぐ “阿蘇山” そして その裾野に坐す「上色見熊野座神社」(かみしきみくまのいますじんじゃ)
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その御祭神に 伊邪那岐命、伊邪那美命、そして石君大将軍(いわぎみたいしょうぐん)を奉ります。
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石君大将軍 は 健磐龍命(たけいわたつのみこと)の御霊ともいわれていますが、健磐龍命 とは 神八井耳命(かむやいみみのみこと)の御子、神八井耳命は神武天皇の御子であり、実弟 神渟名川耳尊(後の綏靖天皇 / 第二代天皇)に皇位を譲り 朝廷の確立と畿外の平定・守護にあたられたと伝わります。
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つまり 神武天皇の孫となる 健磐龍命 はその流れの中で熊本・阿蘇の地に遣わされ、後に続く阿蘇国造(阿蘇地の長官)の祖となったのだそうです。
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別名「火の国」の異名をもつ熊本県、もちろん活火山である阿蘇山にその由来を辿りますが、健磐龍命 も国造の祖としての事績とともに火の山を司る神格をも帯び「石君大将軍」として祀られるに至ったのでしょう。
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「熊本」の命名は戦国時代の武将 “加藤清正” によるものという伝承が残っています。
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熊本は元々「隈本」と記されており「隈」の文字には “入り組んだ地形” “奥まった場所” などの意味があり由来ゆえの地名だったのですが、同時に “おそれる” “かしこまる” という意味をも持ち合わせるため、肥後国-隈本 に入城した加藤清正が武将の城に似つかわしくないと「熊本」に改めたとされています。

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「火の国」であり「隈本」である この地に鎮まる「上色見熊野座神社」
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道沿いに仰ぐ一の鳥居で手を合わせ 本殿へと続く階段の参道を登ると程なく周り一色、鬱蒼とした深緑に包まれて正に神秘を思わせる風景、遥かに見据える拝殿口まで参道両側に居並ぶ100基もの石灯篭も相まって、人里とは異なる時の流れを感じさせるかのよう。
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立ち入る者を選ぶかのごとく立ち並ぶ杉木立はいやが上にも高く、時によって苔むす匂いのほのかな風が 260段もの参道を一歩一歩踏みしめる参拝者の頬をくすぐります。
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滲んだ汗に森の冷たさを感じながら歩を進め、疲れを覚える頃にようやく見えてくるのが 拝殿につながる奥の鳥居、苔や蔦、木の香りに包まれて登ってきた参道を振り返れば、人里から詣でた自分の道筋を返り見る神妙な気分にもなれるでしょう。
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奥の鳥居をこえて もう一息、ようやく拝殿へと辿り着きます。森の中に一基佇む閑静な社であり本殿でもあるのですが、その造りを見ていると、もしかすると この宮は伊邪那岐命、伊邪那美命、石君大将軍の三柱を祀る社であると同時に、翻って阿蘇の山域全体を神として崇め遥拝する古代信仰にも連なるのではないかと思えてなりません。

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本殿 脇から更に続く登山道を杖を頼りに登ってゆくと、やがて見えてくるのが経口縦横10m という巨大な岩穴「穿戸岩 (うげといわ)」 山体の風の通り道なのか高速で吹き抜ける風が印象的な “風穴” です。
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健磐龍命 が使役していた鬼八法師が蹴破って出来たという伝承が残っており、下で登った参道と拝殿を結ぶ直線状に位置することから、単なる景勝ではなく これも信仰の大切な対象であったのではないかと思われます。
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阿蘇山を臨む山界に佇み、世の神々を生み出した伊邪那岐命と伊邪那美命、そして隈本の神 石君大将軍 / 健磐龍命 を祀りながら阿蘇を奉ずる「上色見熊野座神社」
ここには、大きな社務所も宝物殿も沿道の茶店さえありませんが、往古からひっそりと続く自然信仰の息吹が今も息づいているのです。
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世に名だたる社の中には高名ゆえに あまりにも参拝者が増え過ぎてしまい静謐さを保ち難くなってしまったところや、「修験の山の杉並木」のように社地神域に障害を憂う社も出てきていますが、霊験あらたかといわれる場所に惹かれる人の気持ちは御し難く、幽玄の佇まいと参拝の増加の両立の難しさを物語っています。
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「上色見熊野座神社」も こうして多くの人に知られれば、いつの日か同じような憂き目に遭わないとも限りません。
人が参詣してこその神社ではあれ、そこは “特別” な地でもあります。
機会を得て参拝されることが ありましたならば、どうか 少しだけそのことを思い出して頂き謙虚な心持ちでお参り下さい。 人と自然、双方のために。

 

 

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