役行者と空飛ぶ鐘 - 静岡県

私が「役行者」の名を初めて知ったのは まだ子供の頃、NHKの人形劇であったような気がします。 番組名は「新八犬伝」今更ながらに調べてみると何と全464話も続いたのですね。難儀なことにその内容のほとんどは忘れてしまいましたが、役行者は物語の重要な局面で登場しては超常の力を示していたような記憶があります。
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子供の頃は「役行者」を何か偉いお坊さんのようなもの・・のように解釈していたのですが・・(汗
ご承知のごとく「役行者」は昨年 – 勇壮 法行 伊崎の棹飛び行事 – でもご紹介したように、修験道の開祖であり全国を行脚しては各地に逸話を残す伝説の行者です。
もちろん仏法僧侶の一環ではあるものの、寺院に務めて仏に奉仕しながら付近住民と功徳を積んでゆくお坊様とは若干フィールドを異にすると言ったところでしょうかね・・
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そして、ここ遠江(静岡県)の地にも「役行者」にまつわるお話しが残っています。

 

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さても今は昔 原田の郷の長福寺
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それまで務めておられたお師さんが遷化されて
かわりの新しいお師さんが来られてどれほど経った頃か
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ある日 ひとりの老爺が寺を訪ねてこられてな
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それはもう みすぼらしい出で立ちで満足に食うものも食うておらんのか
腕も足も棒っキレのようにやせ衰えて見えたが、不思議と顔色はよろしく その声も澄んで力もこもっておったというな
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「誠にあいすまぬが・・」 老爺は申し出た
「大和国は大峯まで参ろうと行脚の途中 路銀が尽きてしもうた」
「いくらか恵んで下さらぬか・・」
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お師さん、その時 客人を迎えて大好きな囲碁を差しておったのだが・・
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「カネか・・ ここは見ての通り貧乏寺、カネと名の付くものはホレ、そこな鐘楼の鐘くらいなものじゃ、それで良ければ持ってゆけ」
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このお師さん、人は悪うないのだが少々粗忽なところがあって時折物言いが宜しくない
それとも大好きな囲碁の邪魔をされたとでも思うたのかの・・
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ところが 思いも寄らぬ返事が返ってきた
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「そうか・・  それではもらってゆくぞ」
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何を言うとるのか? と訝しがって振り向いたお師さんと客人、
そこに とんでもないものを見たわ
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五十人かかってもビクともしなさそうな鐘を老爺、たったひとりで軽々と楼から外し その細い肩にからげているではないか・・
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「・・・」
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あまりの事に声も出せんと それでも口はポッカリ開いたまま・・
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そのうち 一陣の風が舞ったかと思うと見るまに渦を巻き ブォンブォンと鐘を響かせながら鐘と老爺は浮き上がり やがて空高く飛び去ってしもうた・・
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ハッと気が付いた時は既に鐘楼はただの雨宿り場と化しておった
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あわてて後を追うたが鐘と老爺は空の彼方、はるか西の山の方へ消えていった・・・


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その日の晩のこと、遠江から五十里はあろうかという大和国大峯の郷に強い風が吹いた
まるで嵐の如く この季節に如何なることかと郷の者たちも恐れ 家から出んかった
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翌朝、風も治まりお天道様も顔を出され、皆、昨夜の風はあれは何じゃったのかと口々に話しておったが、その時、ひとりの村人が血相変えて叫んだそうな
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「おい! ありゃぁ何じゃ!?」
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指差す方を見ると 山の頂、絶壁の岩の上に何か大きなものが引っ掛かっておる
何じゃ何じゃと皆で見に行ってみると 何とお寺の大きな鐘ではないか・・
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こんなもん何処から飛んできたんじゃ? どうやって飛んできたんじゃ?
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皆であれこれ話しておったが埒が開かん
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そのうち ただひとり字を読めるもんが鐘に刻まれた銘を見つけたんだと
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【遠江国佐野郡原田郷 長福寺鐘天慶七年六月二日】
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そう書かれておったそうな・・・

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現在の静岡県掛川市本郷の長福寺に残る、そして役行者にかかる伝説でした。
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昔話によくあるとおり、このお話しにも少し異なるバリエーションがありまして、
それによると登場するのは老爺ではなく寺に関わる行者、前任の住職は面倒見よろしく大峯参りを援助されていたので、新任の住職にもこれをお願いすると上記のように素気なく断られ・・
すると翌朝には鐘も行者も消えていた、住職、これは天罰かと恥じ自ら大峯山に詫びに参ると岩の上に錫杖と鐘が有ったのだそうです。

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役行者は実名 役小角(えん の おづの /おづぬ)飛鳥時代の呪術者とされています。
葛城山、大峯山、熊野山、六甲山など名だたる山系で修行を積み、古来より受け継がれた山岳信仰と 密教明王のひとつである孔雀明王の秘法をもって、数々の呪法と修験の法を築き上げ、修験道の開祖と仰がれています。
その思想から後に隆盛する神仏習合の先駆けとも言えるのかも知れません。
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静岡県掛川市の本郷にある長福寺は神亀3年 行基上人により開かれた由緒ある寺院
境内には大峯山より勧請した役行者尊を祀る御堂などがあり毎年 祭典も執り行なわれているそうです。
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そして、最後になりますが、今日のお話にある釣鐘は奈良県の修験道場 大峰山寺に国の重要文化財として今も安置されているとのこと。
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もしかして本当に飛んで行ったんですかね・・・

 

 

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