さても今は昔
筑紫の国に少し変わったお侍さまが居られました。
このお侍さま、日ごと夜ごと村でとれた大根ばかり
好んで食べておられます。
他にもいくらかは食べられるのですが先ずは大根。
大根さえ食べていればいかなる病気もどこふく風、
大根さえ食べていれば厄災さえ吹き飛ばすとばかりに
来る日も来る日も二本の大根を丸ごと欠かさず食べて
おられました。
ある時ふとした隙をついて野武士に館が襲われる事が
あり、折悪しくこのお侍さまも野武士どもにとりかこ
まれ味方の兵も間に合わず絶体絶命の一大事、
ところがその時、どこから現れたのか二人の屈強な兵
が出で立ち次から次へと敵を打ち負かしこのお侍さま
は難を逃れる事が出来ました。
さて、事が過ぎた後、不思議に思ったお侍さまがその
二人の兵に感謝を述べその名を問うたところ「我々は
そなたが日々信望し食している大根の化身である」と
言い残しまたどこへともなく消え入っていきました。
いやはや何とも不思議なお話し・・
大根にまつわる神がかりな言い伝え・・
このお話しは『徒然草』の第六十八段に「大根の話」
として収められており、広まった当時の食文化にも
相応の影響を与え、この「大根の武者」のお話しも
お侍が村の名主へ、舞台が館から戦の過ぎた村へ、
そして野武士が野盗へと形を変えたバージョンなども
あるようです。
消化に良いだけでなく栄養価も高い大根。日々の食生活
に効率よく取り入れていきたいですね。