燃える息吹と打突 宇和島の秋場所 – 愛媛県

『闘牛』という言葉から何を思い浮かべられるでしょうか?
おそらくは スペインをはじめとしたラテン系諸国で行われているマタドール(闘牛士)と牛との闘い。 もしくは牛同士が額と角を突き合わせて闘う国内の競技ではないかと思います。

国内各地のイベントや伝承を扱うイナバナ.コムですので、当然 本日の記事は後者の日本の『闘牛』を取り上げることとなるのですが、その前に前者・南欧の闘牛について少しだけ・・。

 

昭和の頃には時折りテレビなどで紹介されていた、ヨーロッパ闘牛の映像ですが、近年 あまり目にする機会がありませんよね? これはスペインをはじめ、これまで伝統的に闘牛競技を行っていた国々が、軒並みその開催を縮小または廃止の方向に進めているからなのだそうです。

理由は 一つに動物愛護の観点から廃止運動が高まったこと、もう一つが そもそも闘牛に対する国民の関心が薄れてしまったことが挙げられるのだとか・・。 スペインにおいてでさえ闘牛開催地は減少の一途を辿り、その開催数も往時の3割に満たない状況なのだそうです。

時代によって価値観も移り変わるものなので、いかなるものも栄華盛衰の理は免れず、国技とまでされた伝統の闘牛もいずれ終焉の時を迎えるのでしょうが、千年からの歴史をもつ競技がそのまま消えてゆくのを見るのは、少し寂しい気もしますね・・。

2009年、本場スペインで稀有な日本人プロ闘牛士として認められ、”ノビジェロ・コン・ピカドール” に昇格した “濃野平(のうのたいら)” さんという方がおられましたが、今はどうしておられるのでしょうか・・。

その代わり・・という感じでしょうか。現在、牛を死なせず傷も付かせず、人が素手の状態で一定時間 牛をかわし続ける「ブル・リーピング / Bull-leaping」という競技が広められているそうです。

でも、これだと今度は人間の方が危ない気がするのですが・・、どうなんですかね・・
(^_^;)。

 

と、いうことで、国内闘牛の方の話題です。別名「牛突」「牛相撲」などとも呼ばれます。

10月15日(日)、愛媛県 宇和島の “市営闘牛場” で「定期闘牛大会 秋場所」が開催されます。 ”市営闘牛場” があるというのも地域性の表れ、闘牛に縁のない土地で聞くと特別感を感じてしまいますが、当地の人からみれば慣れ親しんだ風土のひとつなのかもしれませんね。

“秋場所” の名があるように年4回 季節毎の開催、それぞれ正月場所、五月場所、お盆場所、そして秋場所だそうです。 人間の大相撲の年6場所には及びませんが、参戦する牛とその勢子(せこ)にとってはハレの大舞台、それまで築いてきた成果が問われる決戦場となるのでしょう。

“相撲” が引き合いに出されましたが、宇和島の闘牛はまさに相撲を標榜した取り組みとなっており、出場選手たる牛もその強さにより前頭から横綱まで階級分けされているそうです。総頭数は40頭にも上るのだとか。大相撲の幕内力士とほぼ同程度の数になっています。

大相撲と違うのは取組の組み合わせ、大相撲が比較的 番付にとらわれず組み合わされるのに対して、闘牛相撲では原則 同階級同士の取組しか行われないそうです。 牛同士の対決では体格差による力量が明確なため、異階級で取組させても そもそも勝負が成り立たないのだそうで・・、この辺りは相手の力を瞬時に判断してしまう動物ならではといったところでしょうか・・。

 

ゲートをくぐり闘技場(土俵)に入場してきた牛は既に興奮状態にあるため鼻息も荒く、地面に体を擦り付けたり前足を掻いて威嚇行動を顕わにしています。突き合わせで試合の火蓋が切られるまで 既に戦いが始まっているのは、人の大相撲と同じなのかもしれません。

掛け声とともに ぶつかり合う牛の体重は、大きいものなら1トンにも及ぶのだそうで、さながらブルドーザーか戦車の力比べの様相。競り合う牛たちの周りには勢子が付き添い闘いを解除するものの、かなり危険に満ちた役割といえるでしょうか・・。

猛烈な勢いで当たる頭骨の打突や鎬を削る角の音は、会場に緊張感をもたらし、初めて見る観客のみならず地元常連の人々も興奮の坩堝に包まれます。 持てる膂力だけでなく、その日まで続けられてきたコンディション調整や当日の精神状態が、勝負の行方に左右するのは人も牛も違わぬところ。開始数十秒で早々に決着してしまうこともあれば、数十分の長丁場に至ることもあるそうです・・。

 

一説に創始は鎌倉時代ともいわれる宇和島の闘牛、一見、粗暴な競技にも見える闘牛ですが、その根底には民衆と祭祀の想いが底流しているともいわれ、当然、牛の戦死を基にするものではありません。

闘牛においての勝敗は明快かつ突如として訪れ、”一方の牛が戦意喪失した時点” で決します。 負けを覚った牛は即座に角を引き敗走に向かい、勝者となった牛も深追いすることは基本的にありません。只、興奮状態が抜け切らない勝牛は執拗に追うこともあるため、それを抑え互いの牛の損傷を最低限に留めることも勢子の重要な役割となっているのです。

また、興味深いことに試合後 供与される “給金”(ファイティングマネー)は 6:4 の割合で敗者側の方が多いのだそうで、これには負け牛の治療・慰労の意味が込められているのだそうです。

場所期間以外の時の闘牛は一定のトレーニングなどを除き、基本、のんびりと過ごしていることが多いようで、次の闘いまで英気を養っているのでしょうかね・・。

 

現在、日本における「闘牛」は、この宇和島以外にも島根県(隠岐島)、新潟県、岩手県、鹿児島県の徳之島、そして沖縄県などでも行われています。 特に毎週のように大会が開催され、数千人規模収容の闘牛場がある沖縄県の闘牛は有名ですね。

普段、牛そのものさえ目にすることの少ない身に、闘牛の圧倒的な迫力やエキサイティング感は、非日常的な高揚を体感できる希少なイベントといえるでしょう。この機会に日本の「闘牛」に興味をもっていただければ幸いです。

※ 本文中、”たたかう” の漢字は本来 “戦う” を使うことが通例ですが、表象性、神事にまつわる意味合いから、敢えて “闘う” の文字を用いています。

『宇和島 定期闘牛大会 秋場所』 公式サイト

2023年10月15日(日) 宇和島市営闘牛場

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