個人的な好み濃厚で恐縮です。2019年千葉県の記事でも取り上げましたが、日本画・版画家、”川瀬巴水” 展覧会のご案内を、今度は鹿児島県から させて頂きたいと思います。
“川瀬巴水” (かわせはすい・本名:文治郎)は、主に大正から昭和にかけて活躍しました。かつて衰退の危機に晒されていた浮世絵版画に新風を吹き込み “新版画” という様式を確立、新しい時代の日本画復興の一雄として、海外にも広くその名を知られています。
明治16年 、東京 現在の新橋に糸屋(組紐)職人の子として生まれながらも、幼い頃より絵に親しみを持ち、早いうちから画家への憧れをつのらせていたようです。
14歳の時から絵師に師事し 基礎画力の精進を積んでいきますが、その姿に頭を痛めていたのが文治郎の両親、組紐を作るための美感育成にもなるかと通わせていたものの、このままでは本当に絵師の道に進んでしまう。
長男である文治郎には家業を継いでもらわなければと強く説得を続け、ついに文治郎は一旦 筆を置き 組紐の仕事に就いています・・。
されど、親の願いが通らぬのはいつの時代も同じこと、親に習い組紐の仕事を続けていても、いつも頭の中は絵のことで一杯であったようで、本業であるべき仕事に中々身が入りません。 ついに25歳の時、妹夫婦に家督を譲って画家の道へと復帰を果たしてしまったようです。
とはいえ、数年のブランクは絵の世界においてはマイナスであったようで、25歳からの再入門・再出発は、画の道を歩む者にとって少々 出遅れの感がありました。 門を叩いた絵師・鏑木清方(美人画で有名)からは、長期の下積みを必要としない西洋画の道を薦められたほどだったといいます。
薦めに従い 西洋画の筆を取ってみるものの、やはり馴染めず、結局は日本画へ進む決意を固めるための幕間となったようで・・、27歳にして再び 鏑木清方に入門を願い許されます。 2年間の修行期間を一散に駆け抜け、ここで “巴水” という画号を与えられ、晴れて日本画家としての一歩を踏み出しました。
2年間というのは、かなり短い修行期間であり、これは文治郎の出世に配慮した清方の気遣いであったのかもしれませんが、それをして充分に画力を発揮できる才能を、師匠は見抜いていたのでしょうか。
一画人となった巴水は、精力的に作品を描き上げ幾多の展覧会に出展、ひとつずつ地歩を築いていきます。 受賞も重ね 商業的な仕事も来るようになり、30歳手前という決して早くないスタートながら、まずは順調な滑り出しといえるでしょうか。
しかし、画業を積み上げ、生活も安定してくるのと裏腹に、彼はどことなく物足りなさも感じていたのかもしれません。 本当に自分の描きたいもの、描くべきものを求めはじめていたのでしょうか・・。
大正7年、それは突然にやって来たようです。 同門の伊東深水が発表した木版画 “近江八景” に 甚く感銘を受けた巴水は、自らが歩む道を木版による風景画に見い出し、技法と画風の確立に勢力を傾けてゆくようになっていきます。
少年時代の想い出深き 栃木県那須塩原を舞台に描いた木版画、”塩原” 三作は当初から好評を得、その後の巴水の新たな出発点となりました。
以降、巴水は風景木版画を画業の中心に据えていきますが、その中で醸成されてゆく彼の画風はまさに、”清涼感” と “詩情” を存分に湛えたものといえるでしょう。
巴水は実際に全国各地に足を運び、その地の趣きを肌で感じ取り作品に仕上げました。
刷り上げた風景画から、そこはかとない郷愁が浮かび上がってくるのは、彼をして旅の空に抱く希望と、泰然としながらも いつかは失われる景色の切なさ故かもしれません・・。 巴水が “旅情詩人” と呼ばれる所以でもあります。
雨、雪、風、そして陽射しといった季節の素材を取り入れながら、その地で生きる人々の息遣いを慎ましやかに伝えてくる画風は、幼い頃から愛した浮世絵に範を求めたものであり、冒頭でも触れた浮世絵版画の復興にも結びつきました。
画壇論争、関東大震災による作品焼失、そして大戦と、決して順風なだけの画人人生ではありませんでしたが、巴水は自らの求めるところに真摯に努め、旅と、そこから生まれる叙情とともに生きた “ひとりの人間” でもあったのです。
浮世絵というキーワードが何か古臭さを感じさせるかもしれませんが、実際は今、貴方がご覧になっているとおり、そこに時代の新旧を思い煩わせるようなものは欠片もありません。 秀逸な作品は時間を超越しているのでしょう。
かのスティーブ・ジョブスをはじめとして、日本よりも海外で人気が高いとされる「川瀬巴水」の風景木版画・・。 せっかく これだけの先人とその作品を持ちながら “知らなかった” では、残念過ぎますよね・・?
ここに ご案内する “鹿児島市立美術館”「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」を はじめとして、川瀬巴水に触れる機会は時折設けられます。
今の日本からは遠く失われつつある・・、それでいて時に色褪せることなき日本の原風景と、そこに息づく旅情に心奪われたならば「川瀬巴水」の名を思い出してみてください。
それは きっと貴方自身を知る旅でもあると思うのです・・。
日 程 : 2022年9月30日(金)~11月6日(日)
場 所 : 鹿児島市立美術館 〒892-0853 鹿児島市城山町4番36号
利用案内 : コチラから
問い合わせ : TEL:099-224-3400 FAX:099-224-3409
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