報恩と相克 阿波の狸伝承と金鳥神社(前)ー 徳島県

〜 狸 と言えば古来キツネと並んで人を化かすもの 〜 という書き出しで今年のお正月にお届けした「愛着と崇敬の狸 狸王国 太三郎の伝承 – 香川県」
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四国における狸の存在意義の深さと愛され敬われる徳の高さをご紹介しましたが、その折 文末でお伝えしたように、四国、狸伝承の二回目をお届けする機会が巡ってまいりました。

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阿波国(徳島県)において有名な狸の筆頭株と言えばやはり”小松島金鳥” ということになるでしょう。
俗に ”阿波狸合戦” と呼ばれる 現在の徳島県小松島市日開野町(ひがいのちょう)で行われた狸たちによる大戦争を描いた奇譚で、その主役となったのが “小松島金鳥” そして敵役の ”津田六右衛門” でした。
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目前の官位を失い 腹心の仲間を亡くしながらも義理人情を貫いた”小松島金鳥” の侠気は、主に明治時代から昭和初期にかけて講談や読み物 そして映画にもなり人々の共感を呼びました。
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よく知られたお話なので ご存知の方も多いかと思われますが、とりあえず内容をば・・

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天保年間、日開野の染物屋 大和屋を営む茂右衛門は町内でも人徳厚き人柄として知られていましたが、ある日 店の蔵のたもとに一尺程の穴が空いているのを見つけます。
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思案しましたところ どうやら狸が掘って住み着いたものと見られ、家中の者に話をしますと”松木を焚いて燻り出せばどうか” ”穴の上から煮え湯を注ぐのが良い” など物騒な意見ばかり・・
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心優しき茂右衛門は いかにもそれには忍びない、人といえ狐狸といえ こちらから仇なせば仇で帰ってくるが 徳で施せば徳で帰ってくるものと、妻に命じその穴の側に日毎握り飯を置いてやるようにします。

 


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すると その頃から大和屋の幸先は以前にも増して良くなり繁盛隆盛を極めたのでした。
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やはり これは狸の報徳によるものかと祠などを奉り前にも増して日々のお供えなどを奉じておりますと
ある日、店の者で亀吉という名の若い奉公人が もの憑きとなりまして、それまでの朴訥な性分から打って変わりハキハキと喋り動くようになってしまいます。
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皆が驚き心配する中、主人 茂右衛門の前に進み出た亀吉が口を開くと
「 私はこの小松島界隈を仕切る”金長” という名の狸であります。今はこの亀吉殿のお体を借りてお話し申します。 昨年の秋、この地一帯豪雨に見舞われたことはご存知の通り、我ら一党は住処を失いやむを得ず無断でそちら様の蔵の脇に穴を掘り仮の住まいと致しました。
然るに、あなたは私が家の蔵に根付いたにも関わらず追い出すこともせず、日々の供物を奉じて頂くなど大変に感謝しています 」と、感謝の言葉。
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続けて言うには「 その恩に報いるべく御家の守護と繁栄に助力してまいりましたが、私は未だ無冠の身、よってこれより四国狸の大御所 津田の六右衛門殿のもとへ参り修行を積んだ上 正一位の官位を授かり明神となった上、この地に戻り 小松島と御家のさらなる繁栄に尽くしたいと思っております 」と申される。
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茂右衛門は このことに驚いたものの「 狸の界隈の事は解らぬまでも そういうことでしたら行って修行に励んで下され 」と快く金鳥を送り出したのでした。

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さて、小松島を発った金鳥は勝浦川を越え津田山の穴観音城を目指します。
津田の六右衛門は四国最大の権勢を誇り多くの配下を従える狸界の大御所ともいえる狸、
自ら正一位の官位を持ち霊験この上なく、当時の狸界で知らぬ者は無しとまで言われていた妖狸であったそうです。
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やがて穴観音城に到着、謁見を求める金鳥に一息唸る六右衛門、何故なら まだ若いとはいえ小松島において多数の狸たちをまとめ上げ、その人望(狸望?)に定評のある金鳥の名は六右衛門の耳にも届いていたからです。
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配下居並ぶ広間に通された金鳥、しかし 大舞台に気圧されることなく発止として振る舞い、そして礼を尽くすその姿に六右衛門も感服、すぐさま入門を許されたのでした。

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六右衛門の目利きどおり 時置かずして金鳥はその器量を発揮しました。
狸の世界における器量とは何はともあれ先ずは妖かす術、要は化ける能力なのですが、元々からその能力が高かった上に、日々 苦労を厭わず研鑽を重ねる金鳥ですから瞬く間に並居る先輩狸たちに追いつきやがては追い越してしまいます。
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知識の豊富さも妖狸にとっては不可欠なもの、勉学の修行にも打ち込んだ金鳥は末には六右衛門も舌を巻くほどの知識を習得してゆきます。
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若く逞しく術の能力も知識も高く、そして礼節をわきまえる金鳥の侠気に惚れ込んだ六右衛門はやがて愛娘 ”小芝” の婿に迎え、自分の跡目を継がせる事を考えるようになっていったのでした。

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小松島市街 やや右下 茶色のグラウンドの向こうの森に金鳥神社がある

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さてさて、少なくともここまでは順風満帆の流れ、今で言うならエリートコースまっしぐらといった感じですが、難儀なるかな思うに任せないのが人の世の常、もとい狸の世の常にも当てはまるのかもしれません。
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一心が一心なるが故に やがて金鳥の思いと六右衛門の思いにずれが生じてきてしまいます。

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