千年の春を彩る桜と秘仏ご開帳 – 奈良県

時の流れは早いもので、今年もあっという間に春分を迎え・・。

雪も溶ける頃になると毎年 春の訪れを待って、奈良東大寺のお水取りが来るのを指折り数えるのですが、この春は3月に入ってから軒並み暖かい日が多く、桜の開花も例年より一週間程度 早咲きの場所が多いようです。

東北から北にかけては、まだ些かの期間はあるものの、西日本においては既に見頃を迎えつつある場所も少なくないようで・・。 こうして春桜の話題をお送りできるのも、状況次第では この記事辺りが打ち止めかもしれませんね・・。

 

少々、メジャーな桜の名所案内で恐縮ですが、本日は奈良県吉野町の『吉野山千本桜』、そして 金峯山寺(きんぷせんじ)で開催中の「日本最大秘仏本尊特別ご開帳」からご案内させていただきます。

ご存知のとおり奈良県・関西地区はもとより全国的に知られた吉野山の桜。 ”一目千本” の呼び声のごとく山々を埋め尽くす艶やかな桜の景観は、広大さと総計約3万本ともいわれる膨大な樹量で、他に類をみない壮麗さが見どころといえるでしょうか。

現在、桜 という言葉から思い浮かぶのは主に “ソメイヨシノ” ですが、この品種は江戸時代に混成種として新たに生まれ広まったもの。 その命名に吉野山の “ヨシノ” が用いられたことからも、古くから吉野桜が如何に知られていたかが分かります。

シロヤマザクラ(左)とソメイヨシノ(右)

他方、当の吉野桜は、山間であり極めて長い歴史を刻む地であることから大半の品種がシロヤマザクラであることも特徴のひとつとなっています。 ヤマザクラであるが故に、ソメイヨシノに比べると若干ヒラヒラとした華やかさに引くところが あるかもしれません。

しかし その姿は、古来より日本人に愛され親しまれた桜の原型に近いものでもあるのです。 夜になると其処此処にライトアップされた朧げな光が、昼間とは打って変わったミステリアスな情景が見れるのもポイントです。 山の中腹から桜の群生を見下ろす形が多いのも功を奏しているのでしょうか・・。

 

多くの桜の名所が江戸時代から明治期にかけて、元々植生があった所、新規に植生を施した場所を中心に新たに整備され、美しい公園、桜並木が確立されていったのに比べ、吉野山の桜は千年の時とともに、山岳宗教における象徴として維持されてきた歴史を持ちます。

紀伊半島の南部、言い換えれば往古における山嶺の彼方の奥地は、人智を超えた神霊の地であり、聖なる深山でありました。

1300年の昔、葛城山(奈良県御所市)や大峰山で修行を修めた “役小角(役行者)” が、吉野の地に分け入り蔵王権現の霊験を会得。この地に「金峯山寺」を開いたことが、霊場としての吉野の創始だったと伝わります。

蔵王権現の霊徳を桜の木に刻み吉野の山に祀った “役小角”、いうなれば吉野山における桜は御神体というべき存在でもあるのでしょう。 以来、吉野は高野山・熊野と連なる霊場の一角として、数々の古社・古刹を築き、数多の信仰を集める聖地となったのです。

後醍醐天皇がこの地を南朝と定めたのも、まこと神聖の都だったからでありましょうか・・。

 

霊場であり、そして同時に常世をさえ思わせる楽天地は、その後も多くの傑人・文人らをこの地に引き寄せました。

僧侶であり歌人でもあった西行法師は、この地に庵を結んで歌を詠み、その面影を辿った松尾芭蕉は「露とくとくこころみに浮き世すすがばや(とくとくと流れ落ちる西行法師縁の清水で我が身の浮世の汚れを濯いでみようか)」の句を残しています。 一転 太閤秀吉は五千人からの供を引き連れて大花見会を催しています。

人により、時代により、聖地との関わりもまたそれぞれということなのでしょう・・。

千年の永きに渡り人々に聖地の霊徳と、桜花爛漫の歓びを紡ぎ伝えてきた吉野山。その根源ともいえる「金峯山寺」において、明日24日から5月7日(日)にかけて『日本最大秘仏本尊特別ご開帳』が執り行われます。

役小角が体得し、吉野の本尊として奉納したと伝わる “金剛蔵王権現”。 数多の尊格が古代インドの神々と縁を結んでいるのに対し、全く日本独自の仏尊だといわれています。

憤怒の形相と荒ぶる姿形で 有り余るエネルギーを体現しながら、あらゆる真理をも司り、釈迦如来、千手観音、弥勒菩薩、三尊の徳さえ内包するという “蔵王権現”。 そして、金峯山寺 蔵王堂に秘仏として坐す本尊 “金剛蔵王権現” 三体は像高7メートルに達する巨像なのだそうです。

定期的な公開はなく、時記念に伴うご開帳であるだけに、次回の開帳はいつになるかは分かりません。 悪鬼・邪念を祓う怒りの表の内に秘めた慈愛と寛容の姿、それも三階建の建物にも及ぶ大きさ三体。この機会に縁を結ばれては如何でしょうか・・。

「下千本」「中千本」「上千本」そして「奥千本」と、吉野千本桜は吉野山麓 6kmに連なる山岳地帯でもあります。 聖霊の地として「吉野神宮」「如意輪寺」「吉水神社」「西行庵」など、名刹や見どころが尽きないのもご存じのとおり。

吉野千本桜の開花〜見頃〜満開は、丁度今頃から4月の中旬にかけてといわれています。 関連サイトなどで開花状況・集客状況を見ながらお出掛けください。 千年の春は既に満ちて来つつあるのです・・。

『日本最大秘仏本尊特別ご開帳』 金峯山寺 当該ページ

〒639-3115 奈良県吉野郡吉野町吉野山
TEL : 0746-32-8371

 

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