日本初の学校区は番組から始まった – 京都府

コロナウイルス、オミクロン株の拡大によって、再び社会活動に停滞がもたらされつつあります。 既に多くの自治体で “まん延防止等重点措置” が適用され、飲食店などに対する制限措置などがとられていますが、商業・旅行関連の業種に対する影響も懸念されています。

まだまだ不明の部分も少なくないものの、ウイルス変異の通例によるものか 今次オミクロン株については、その重症化率は多少低いものと見積もられているようですが、このままインフルエンザや風邪のように、”with corona / ウイズコロナ” の時代に移行してゆくのか注視されるところですね・・。

2年を超えて世界に負の歴史を刻むコロナウイルスの災禍に、社会は疲弊しきってしまいましたが、医療はもとより その影響は生産やサービスなどの業態にとどまらず、子どもたち、また 社会的に大きな節目を迎える受験生たちにも甚大な被害をもたらしています。

修学旅行や各種イベントなどの中止・縮小化、リモート授業による集中力・交流の低下・受験への不安など、学生さんたちにも何かと不安の尽きない現状ですが、何とか今回のオミクロン株の山を越えることで正常化の方向へと向かってほしいと願って止みません。

 

さて、本日はこの日本の教育について取り上げてみたいと思います。
・・と、言っても私ごときに教育そのものを語る術などありませんので、軽く大まかに その歴史に触れてみることにしましょう。

“日本の教育の歴史” ・・少々 大それた物言いですが、このワードから皆様が思い起こされるのは何でしょう? 頻繁に変わる大学入試試験のシステム? 高度経済成長期の詰め込み教育? 戦時中の軍国主義的教育? それとも時代劇に出てくるような寺子屋? などでしょうか・・?

とりあえず(日本の)歴史において、最も古く確立された教育制度とは奈良時代に至る少し前、日本で初めて公的かつ規模の大きな “法律” が定められた「大宝律令」において「大学寮」が設けられたことに始まります。

都においては「大学寮」、都から遠い地方の国においては「国学」(太宰府は府学)と名付けられた、これらの機関で習うのは、明経道(儒学)、算道(算術)、音道(経典の音読)、書道(書き方)の四教科であったそうで、後に 紀伝道(文章)、明法道(法務)が加えられたとのこと。

また これら学術的な教育機関とは別に「典薬寮(医学・調剤)」「陰陽寮(天文・暦・占星)」「雅楽寮(音楽・舞)」などの専門機関が据えられたそうで、今から千三百年もの昔にも関わらず、結構本格的な教育制度が確立されていたことに驚きますね。

これらの制度は後の奈良・平安時代を通して受け継がれていきますが、やがて貴族間の勢力抗争や貴族そのものの力が衰えるに従い、その機能性を果たせなくなっていきます。

鎌倉・室町の時代へと時が移り、武士が世の趨勢を担うようになると、先ずは武道優先の時代となりますが、それでもその合間に学問を求める声は上がり、当初は学識のある都の貴族、そして後は、当時勢力を高めていた仏教、その寺院にまつわる学問僧による教授という、比較的 小規模な教育が各士族間・個人間でなされるようになっていったそうです。 政府・行政における一括的な専門教育から敷衍的な教育へと移り変わっていった時代ともいえるでしょうか。

只、これらの教育を受けることが出来るのは、貴族や士族をはじめとした一部の上流階級が主であったため、一般民衆にとっての基礎教育はまだまだ遠いものでありましたが、それでも商業が確立されていった鎌倉時代には、その必要性から庶民階級にあっても 文字の読み書きや算術を寺院などで習い、使いこなすことの出来る者は好かなからず あったようです。

 

江戸時代に入ると、世情の安定とともに “文治政治” の志向を受け “朱子学” を基礎とした教育が施されるようになっていきます。

武士のために各藩が設立したのが「藩校」、江戸後期には全国に優に200を越える藩校があったといわれ、武士と言えど既に刀よりも学識や知能の時代であったことが伺われます。

藩行政下にある藩校と異なり、学識者個人の手により開かれた教育機関が「私塾」、江戸後期には1500以上の私塾が開業されていたとされますが、その教えるところは師匠個々人によるため “朱子学” 以外にも “国学” や “洋学” また “医学” “経済” など多岐に渡ったようです。吉田松陰にまつわる “松下村塾” などよく知られていますね。

上で出てきました “寺子屋” は別名 “手習処” や “筆学所” とも呼ばれ、庶民の(主に子どもたち)が通い、読み書き、算術などを習う小規模な私塾でした。 師匠は主に学識経験のある僧侶や浪人などが多かったようですが、一定の修学を修めた町人や農民もいたそうです。

習い処ですから、当然 勉強を教え習うわけですが、町家・農家の師弟を相手の私塾、単に一斉の勉強を教えるだけでなく、一対一の指導であったり勉強以外の相談に乗ったりと、かなり日頃の生活に密着した存在でもあったようです。

松下村塾

幕末から明治へと国は大転換期を迎えます。明治時代を開いた新政府は明治5年「学制」を発布、近代教育制度の地盤固めに着手します。 これにより “万民が教育を受ける権利を有すること” の基礎が確立され、次いで「教育令」「学校令」が公布され、全国に現在に続く「学校」が次々と設置されてゆくことになりました。

この時「学校令」の中の「小学校令」により “義務教育(4年間)” も制定されました。

それまでの、国内から世界へとその目が移り、対欧米諸国の外交や懸念からも「富国強兵」が一義とされていた明治時代、国民の教育レベルの底上げと国力増強は当時の国家の悲願でもあったのです。

 

日本の教育の黎明期から近代までの歴史を簡単になぞってきましたが、さて、ここで本日のスポット「京都」でのお話です。

「番組」という言葉をご存知でしょうか? テレビ番組のことではありませんw。

京都府はその成り立ちである “京” の創始時代から、碁盤の目状に区切られ機能的な町家区画・行政が図られていたことは、よく知られていますが、明治時代、それまで町家の自治組織であった「町組」を複数統括して再編することになりました。

新たに再編された運営区分・組織の名が「番組」、27前後の町を括り一番組として京都府内に66の番組が出来上がったそうです。

そして これら番組ごとに一校の小学校が設置されることとなり、計64の「番組小学校」が開校されたのでした。 日本初の “学区制小学校” の始まりです。

 

注目なのはこれら新制度が始まったのが明治2年、つまり上で記した国家主導による「学制」よりも3年も早い時期、そして設置・開校に至る原動力が、京都府を動かし自らもその達成のために奔走・尽力した町衆であったことです。

これは 幕末から明治維新を経て世は新しい時代になったものの、京都においては天皇が東京に移られ事実上の遷都が行われたことと密接に関係します。

それまでも実質的な行政や立法機関は幕府の置かれている江戸にありましたが、権威の頂である天皇が去られたことで 京都は完全に都としての意義を失うことになってしまい、町の衰退に対する危機感は当時 相当なものであったと言われています。

 

千年の都の誇りを失ってはならない。日本の文化を象徴し、天子がいつでも帰られる町を作り存続させようとの都人の熱い想いが、町組の再整備や勧業などの近代化政策、そしてその将来への土台となるべき民衆教育の確立に注がれました。

民間主導による教育機関の設立、64校に上った「番組小学校」は、その後 “番組” が “区” “組” へと改められ、明治25年の新学区制度にも引き継がれながら、昭和16年の “国民学校令” 発布まで 京都における基礎教育の根幹を支えたのです。

少子化が進む現代まで、番組小学校の多くは統廃合が進み かつての姿を見ることは叶いませんが、その形跡を残す面影は其処此処に残っており、跡地の多くは公共施設などに利用されています。

その中でも下京区御幸町の『京都市学校歴史博物館』は、当時の「下京第11番組小学校」後の「京都市立開智小学校」の校舎施設を改修転用、平成10年に開館した全国でも珍しい “教育歴史博物館” です。

連綿と続いてきた元開智小学校の校舎を受け継ぎ、内部を博物館施設として改修を施し、外観は元の形を残しています。 館内施設は京都の教育の歴史を物語る貴重な展示物や資料で満たされ、風琴(当時のオルガン)などは必見。 外観においても明治8年 旧成徳小学校の玄関、正面校門、明治34年建築の高麗門など見どころに事欠きません。

明治に始まった近代日本の学校教育の礎、その萌芽を知るには稀有の博物館、興味をお持ちになられましたら、京都を訪れる際のご予定に組み入れられては如何でしょうか? そこには今日に続く教育の原点が息づいているかもしれません。

 

『 京都市学校歴史博物館 』 公式サイト

 

 

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