日本の地中海 猫と大天狗の島 – 香川県

いつもイナバナ.コムにお越しいただく読者の方々には恐縮ですが・・。 私が毎回の記事を書き出すきっかけの・・おそらく3分の1位が “どうということもない、ちょっとした思い付き” です。

“何かそんなことを何処かで聞いたな・・”、”そう言やアレって実際どうなってるんだろ・・?” みたいな極めてフワフワした、今更で素朴で曖昧模糊な疑問を拠り所に記事を 仕立てる脳内手法をよくとっています。

無論、出鱈目な文章を並べるわけにはいきませんし、対応する画像などを用意できるかなども検討しなければならないので、全ての思い付きが記事に結び付くはずもないのですが。

何というか、こうしたインスピレーションに発した作業の方がキーを進めやすく、また、自分自身の勉強にもなるように思えるのです・・。

 

今回の記事の発端も たまたま目にした瀬戸内の写真から “瀬戸内海の島々っていくつあるのだろう?” という簡単な疑問でした。
周辺地域にお住まいの方、物知りの方ならご存知かもしれません。

答えは “島の定義によって異なる” もしくは “凡そ700から3000島” だそうです。

周囲数10メートルの無人の岩礁を含めるかどうか・・等で数が変わるというのは分かりますが、それにしても多いですね・・。認識不足の至り、せいぜい200から300位かな?と思っていました。島の外周100メートル以上のものだけで727島もあるそうです。

さらに、こうしたことを調べるうちに違う驚きもありました。

“瀬戸内海” は “地中海” だったのです。

地中海・・? ヨーロッパの南欧の国々、アフリカから中東の北部地域に囲まれた海のことを思い出しますよね?

しかし、同時に “地中海” には “周囲を陸地に囲まれ他の海域との水流交換の少ない内海” という学術的用語の意味もあるそうで・・。 “閉鎖性水域” の一種なのだそうです。

個人的に、瀬戸内海は南北はともかく東西にはそれなりに開けているのでは?と思うのですが・・。学術的地中海の定義に “その水交換の原理が海流や風ではなく塩分濃度の差によるもの” というのがあって、その辺りも関係しているのかもしれませんね・・。

因みに、それでは “ヨーロッパの地中海” の名は学術的用語がそのまま付けられたのか? という疑問が湧いてきますが・・、それは逆。

こちらは地中海、イタリア・タオルミーナ

元々 “ヨーロッパの地中海” には「Mediterranean」(medius・中 + terra・大地)の海という固有名詞が付けられていて、それが状況を的確に表していたこと、著名に知られていたことなどから学術的用語に取り入れられたのだそうです。

言葉や名前の歴史というのも不思議で興味深いですね。

 

さて、相当に尺稼ぎをしてしまいましたが日本の地中海、瀬戸内海の中ほど、香川県西部荘内半島(別:三崎半島) の北に位置する島が本日の本題「佐柳島(さなぎじま)」です。

島の外周6.6キロメートル、2021年時点での人口60人弱。

「人間より猫の数の方が多い島」と呼ばれていることでご存知の方も多いのではないでしょうか? 因みに猫の頭数は誰が数えたのか不明ですが約100頭とも。(^^)

NHK制作のドキュメンタリー『岩合光昭の世界ネコ歩き』の舞台になったこともあります。

小さな島とはいえ60人の人口はあまりに少なすぎる人数ですが、これは ご多分に漏れず若年人口の流出、そして島に残った島民の高齢化による結果です。多くの地方・過疎地が抱える共通の問題ですね。

一方で猫が増えた背景には島独特の理由が反映されています。

島という成り立ちから古来より漁業は島の主要な産業のひとつでしたが、江戸時代の後期辺りから養蚕が取り入れられ盛んになりました。 明治になる頃には国による富国政策の追い風もあり、貴重な現金収入に結び付くため、島の多くの斜面が桑畑に置き換えられ絹糸(シルク)の生産に拍車がかけられたのです。

 

そして養蚕における天敵ともいえるのが鼠(ネズミ)。 蚕の卵や繭が鼠による食害を受けることは養蚕農家にとって死活問題。
さらに鼠たちは漁業に使う網にも大きな被害をもたらします。

それを防ぐために意識的に導入されたのが猫でした。
言い換えれば “島の産業の守り神” として飼われ愛された存在だったのでしょう。

こうして島に定着し その数も増えた猫でしたが、時が経ち大正から昭和に至る頃には巷にナイロンやレーヨンといった化学繊維が普及し始めます。 対して本絹は高級品へとシフトしていきますが、その絶対的な需要量が激減したことから島の養蚕業も斜陽を迎え、いつしか慎ましやかに漁業に立ち戻るという経緯を辿りました。

そして残ったのが “守り神の末裔” たる猫たちなのです・・。

 

昭和も後半期になると上でも触れたように人口の流出が顕著となり、次第に島内民家にも空き家や管理する者のない空き地などが目立ちだし、それらをねぐらとして生活する野良猫が増える結果となりました。

温暖な気候、漁業にまつわる魚のおこぼれなどの餌、棲家の保証。猫の天敵となり得る大型生物の不在。 そして対する人間の減少が彼らの繁殖に大きく作用したといえるでしょうか。

一見、猫の王国のような島にも思えるかもしれませんが、何事も自然のバランスが肝要です。

島のように閉ざされた区域の中で無秩序に個体数が増えては、島の生態系に悪影響を与えますし、猫そのものの存続に危機を招くことにもつながりかねません。

最近では、猫の健康管理や これ以上の過剰な繁殖を防ぐために、ボランティア団体や行政によるTNR活動(一定数を捕獲して去勢・避妊手術をし、元の場所に戻す活動)が行われています。

これにより、以前の “ただ増え続けるだけ” の状態から、島民と猫が共生できる適正な数へのコントロールが進んでいるのだそうです。

 

島であり港町があれば当然 防波堤が存在します。
漁民が浜と行き来するために防波堤の所々には隙間が設けられています。

防波堤の隙間を猫がジャンプして飛び越える様が受けたのか、”飛び猫” の写真としてメディアやネット界隈で話題となりました。

防波堤を散歩し、港や狭い村の路地を渡り歩いて餌を求め、それが得られれば後は悠々自適に過ごす猫たち。 日向ぼっこにアクビをかき背伸びする彼らの姿に癒される人は多いでしょうが、それはあくまで人間側の感情でしかありません。

彼らが今日この島にあって生き続けるのには、それなりの歴史があり理由があるのです・・。

次回、続いてこの佐柳島から ちょっと変わったお墓の話と大天狗の社などのご案内をさせていただきたいと思います。

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