時代の変化というものは、単に社会インフラや生活資材の進歩・自動化というだけでなく人が生きてゆく上での基盤、睡眠時間・活動時間、そして食生活などにも大きな影響を及ぼします。
そういった暮らしの変化を含めて “進歩” というものなのかもしれませんが、いつしか忘れてはならない大切なものまで忘れてしまいそうで、そぞろ不安になってしまうのは私だけでしょうか・・?
かつて日本人の主食であったはずの “米” の消費量が、年を追うごとに下降の一途を辿り、ここ50年で国内消費量が半分近くまで減ってしまいました。
パン食や栄養調整食品も手軽で良いですが、数百年をして日本人の活力を支えてきた米や五穀の意味をもう一度考え直してみたいものです・・。
食生活の変化による消費量減は米だけではなく漬物や納豆、醤油なども同じ状況です。 そしてかつては食卓のレギュラーメンバーであったはずの “味噌” も同様、ここ20年程で3割以上の減少をみています。
何かこうして見てみると “発酵食品” の摂取減が目立っているように見えますね。
さらにその理由となると「健康志向の高まり、多様な食品の選択肢、調理の簡略化」とあります。 選択肢の多様化や調理の簡略化はともかく、健康志向の高まりで発酵食品離れというのはどうしたことでしょう? 何か矛盾しているような・・。
発酵食品で注意すべきは主に塩分の過剰摂取であり、余分な脂質やカロリーの抑制は食事バランスの見直しや、外食頻度のコントロールでしょう。 健康を考えるなら、むしろ日々の食事に発酵食品を上手く取り込んでいくべきだと思うのです・・。
御託はここまで、ちょこっと話を戻して “味噌”。
完全に日本独自ではありませんが、1300年に渡って日本人の腹を満たし、力を生み出してきた発酵食品の雄であることに間違いはありません。
古代中国にあった “醤(ひしお)” がその元だといわれ、朝鮮半島を通って伝えられた後、日本の風土に合わせて熟成されてきました。故に当時は “未醤(みしょう)” と呼ばれていたとか。 (他に、それ以前の太古にあった日本独自の発酵食品が元とする説もあり)
一般的なイメージの味噌に比べると “塩漬け発酵豆の副菜” といった趣きで、現在の “もろみ味噌” や “金山寺味噌” に近いものだったのかもしれませんね。
時の経過とともに豆は潰されペースト状へと徐々に移行。 室町時代後期にもなる頃には “糠(ぬか)” も用いられるようになりましたが、当時の味噌は現在の “糠床” と異なり、豆・麹と糠が渾然一体となってそのまま食す形だったといいます。
江戸時代に至ると製造技術もさらに向上、全国各地で日本食の基盤となって行き渡るとともに、地方ごとの風土に合わせた特色も色濃く反映されるようになりました。 現在 私達の知る味噌の基礎が完成した時期といえるでしょう。
国民経済の発展した現代ではあまり聞かなくなった言葉ですが、その昔「米と味噌さえあれば(生活の最低ラインは)何とかなる」などと言われたのも、これらが日本人と共にあり社会の根底を成してきた証左ともいえるのです。
味噌にまつわる民話・・。 長崎県南島原市には「みそ五郎」という大男の伝説が今も息づいているようで・・。
各地の民話に時折見られるように “ダイダラボッチ” など巨人伝説の影響も見受けられ、嵐の最中 荒れ狂う海に入って、流される船を何隻もつなぎ止めるなど大入道さながらの活躍が伝えられています。
その名のごとく味噌が大の好物であり一日に四斗(約60kg/1俵)食べるそうで・・(こうなると如何に発酵食品といえど過剰摂取ですが・・巨人だから大丈夫なのでしょうw)
上記の活躍なども含め友好的な性格であることから、村人たちからも慕われた・・という伝えが大勢ですが、同時にことあるごとに村の味噌を大量消費するので村人たちの困惑を招いた・・などという話を併存しており、民話の両面性を具現するユニークな伝承です。
毎年、秋には須川の町で大型の “みそ五郎山車” を繰り出しての「みそ五郎まつり」も行われており、島原特産のそうめんや地産物品の即売会も含めて多くの人出で賑わっている模様。
2022年には その個性的なキャラクターを範にとり、ケンドーコバヤシ氏主演で「転生みそ五郎どん~ここは異世界?南島原~」というショートドラマも制作されました。
天災時に漁民を助けたのを他に、山地の開墾にも大きな鍬を振るって携わったとされる “みそ五郎”。 よく言われる巨人伝説のひも解きよろしく、当地における初期の開拓者・有力者を表したものだったのかもしれません。
そうだとした場合、味噌は開拓者へのお礼、もしくは租税の一種だったという解釈も成り立たないわけではありません。(実際に往古の時代には味噌も租税品のひとつだった)
何にせよ、古くから味噌は米・五穀と並んで、人が生きてゆく上で欠かせない糧であり、パワーの源であり、確かな価値の担保でもあったのです・・。
個人的な見解で恐縮ですが、味噌や漬物、納豆などの食品離れが進む理由に、その発酵食品特有の匂いが大きなファクターを占めているように思えてなりません。
現代の人は匂いを過度に嫌う傾向があるように見えます。
当然、体臭も嫌、汗も嫌、僅かな汚れも許せずあらゆることに除菌・滅菌を求めます。
衛生に気を配ることは良いことですが 行き過ぎた潔癖は返って自己免疫力の低下を招きます。 無菌室の中だけで生きてゆくわけにはいかないでしょう・・。
発酵食品の多くは自己免疫力の増進を助ける力を持っています。 皮肉なことに近年これらの効果を再認識したのは、むしろ外国の人々だったようで、日本国内での消費量が減少の一途を辿る中、海外への輸出量は増加し続けているそうです。
みそ五郎どん。どんな気持ち、どんな眼差しで今の日本を見続けているのでしょうか・・。
注:発酵食品とアレルギーに関してAIの回答。ご留意の程。
「発酵食品とアレルギーの関係は複雑で、発酵食品自体がアレルギーを誘発することもある一方で、発酵食品に含まれる成分がアレルギー症状を緩和する可能性も指摘されています。」