早いもので今年ももう3月半ば、春の息吹も其処彼処に見えはじめています。
冬場にあって奇妙に気温が高かったと思えば、記録的な積雪で各地に障害を見たりなど、寒かったのか暖かかったのかよく分からない今年の冬でしたが、皆様には体調の変化などなくお過ごしでしょうか? これから季節の変わり目となっていきますので体調管理には重々ご注意ください・・。
当記事の掲載日、14日は奈良東大寺二月堂で行われている『修二会(しゅにえ)』の最終日、一般に「お水取り」の名で知られる法要の仕舞い日として知られる日です。
「お水取りが終わる頃には空気も温んで春が訪れる・・」とは昔から言われた言葉ですが 春分も間近、桜の花色呼ぶ季節の到来ですね。
只、この「お水取り」というのは二月堂の修二会で行われる一連の行事の中の一儀式であり俗称です。 正式名称は「十一面悔過(じゅういちめんけか)法要」、催行は12日深夜。若狭井という井戸から供養の水を取ることから この名で呼ばれるようになりました。
「修二会」 一年の無病息災や豊作を祈る祈念祭は古代から年のはじめに行われていましたが、修二会はその仏教版ともいえる法要。 古くは旧暦の2月に修められていたことから “二” の文字が入っており、それは法会の院でもある “二月堂” の名にも深く関わっています。
新暦となった現在は3月1日〜14日まで2週間に渡って行われます。
名称の “十一面” とは二月堂の本尊でもある “十一面観音”(観音菩薩の一面)。そして “悔過(けか)” とは いわゆる懺悔(ざんげ)を表します。
人であるが故に、意中意外問わず日頃犯している過ちや心の迷いを仏の前で悔い改める・・。
要するに “十一面観音の前で精進潔斎を修めて一年の安寧を祈る” というのが、”お水取り” ひいては “修二会” の本義といっていいのではないでしょうか。
奈良時代、天平勝宝3年(751年)、奈良と恭仁(京都南部)の境にそびえる笠置山で修行を積んでいた華厳宗の僧 “実忠(じっちゅう)”。 ふとした事から山中の洞穴を通じて異界(須弥山~古代仏教の聖山の一界~)に至ります。
そこで目にしたものは十一面観音の面前にて行われる悔過の行。自らの欲と弱さを認め悔い改めることで、より精神の高みに至る行法は、実忠の心に深く感慨を刻みました。
現世に立ち返り 人の世にもこの行法を施そうと、翌年天平勝宝4年に執り行われたものが修二会の開基伝承・・。
以来1274年に渡って只の一度も欠することもなく続けられ、 “不退の行法” ともいわれる大祭なのです。
この修二会、東大寺二月堂で行われるものが著名であり、ニュースなどで伝えられるのも二月堂のものばかりなので、東大寺独自の催事にも見えますが、国家安寧のため広まった法要であることから全国の寺院で行われています。
二月堂の法会に並び有名な修二会に、同じ奈良市 薬師寺の “花会式(はなえしき)”(こちらも通称 / 3月30日〜4月5日)、長谷寺の “だだおし”(伝承名 / 2月8日〜14日)、法隆寺の修二会(2月1日〜3日)などが知られていましょうか。
これらの法要には “鬼魔退散” の要素が織り込まれており、年度安泰の祈念とともに厄災(または疫病)祓いの祈りが込められているのも特徴ともいえるでしょう。
重責を負う4人の “四職(ししき)”、その補佐を担う7人の “平衆(ひらしゅ)”。 14日間、練行衆(れんぎょうしゅう)と呼ばれる計11人の行者によって二月堂の修二会は粛々と進められていきます。(※ 別火(べっか)と呼ばれる事前潔斎期間もあり)
数多の行を修め越した後、二月堂回廊を煌々と照らし行われる松明の行は言うまでもなく この法行のクライマックス。 特に3月12日の “籠松明” における躍動と神秘の様は、世界的にも知られています。
往時には国家安寧の祈念でしたが、国際的な気運の現代では世界平和の祈念も含んでいるのだとか・・。何がしか不穏な話題も少なくない時代、大祭の行に併せて好転と平和を祈りたいものです。
到来する春、そして今年度が皆にとってより良きものとなりますように・・。