熊本県北西部、有明海に面した町 “玉名市” で一風変わったお祭りが開かれます。
その名も『第28回 玉名大俵まつり』、大俵の名の如く・・というレベルではありませんね。 直径約3メートル 幅5メートル、そして重量は1トンともいわれる巨大な俵を10数名の引手・舵手で豪快に曳き廻し、その速さを競うという勇壮なお祭りです。
この巨大俵引きイベントは 見た目のダイナミックさにかかわらず、「俵ころがしレース」という割と飾らない名前。これは巨大俵を大人たちが引くものから、通常サイズの軽量俵を子どもたちが持って走る競技があるなど、老若男女誰もが楽しめる祭りだからかもしれません。
祭りのキャッチフレーズ「楽しめばよか‼」の心意気です。(^^)
1トンもの重量といえば軽自動車1台分位の重さなので、迂闊に轢かれたりしたならば笑い事では済まないような気もしますが・・。 曳き俵の軸両端に留められた縄を前後広角に曳いて上手く制御することで、豪快かつスピーディーなレースとなっています。
ご存知のように俵の形は円柱状であるため急激な転回には向いていませんが、交差点で “山車” を回頭させる “辻まわし” や “やりまわし” のように、4手に別れた引手・舵手の縄加減で進行方向を調整しています。 スピードもさることながら、この縄加減も見どころのひとつといえるでしょうか・・。
この他にも1俵約60kgともいわれる俵を担いで移動競争する「積出王」「積出女王」決定戦や、子供たちによる「小俵陣取り合戦」の開催、玉名ゆかりの食材などを使った屋台やキッチンカー集結「玉名たまらんグルメ‼」の出店など多彩なイベントが盛り沢山。 家族ぐるみで楽しめる一日となるでしょう。 (競技や出店等の参加には事前申し込み必要)
今年、第28回という開催からも分かるように初回の開催は平成時代、比較的 新しく興された祭りです。
しかしこの祭りの仕切りには地元の古社「玉名大神宮」が受け持っており、祭りの掛かりとなる初日には “魂来名の儀(始めの儀) ” を立て、その後 高瀬船着場跡における “米俵積出の式” にも関わっています。 現在はイベントライクな行事として行われているこの祭りですが、そこにはれっきとした歴史の下地があるのですね。
原初に連なる由来を辿ってみると、そもそも この玉名の地が “米” の集積地であり、江戸時代には上方に向けた “米運搬船” で賑わった場所だったことが挙げられます。 そしてその立役者はというと・・。
加藤清正(かとうきよまさ)公ですね。 武闘派であり数々の戦功を立てながらも土木や治水、新田開発にも長けた技巧派でもあり、その知識を活かした “城造りの名手” としても名高いことは知られたところです。 豊臣秀吉の側近として数多の戦に参加、”賤ヶ岳の七本槍” などともいわれました。
秀吉の命により肥後国(当時の熊本県)に入府、19万石の領主となったときは若干24歳であったそうです。傑出した人材。西国の安定経営と武力維持という二重の課題を秀吉から期待され、苦労を重ねながらもそれらを堅実に果たしていきました。
当時、入府した地名 “隈本”(隅っこの土地、畏まった場所)を、もっと勇壮で景気の良い名前にと “熊本” へと改名したのも清正公であったといわれています・・。
秀吉から嘱望されるだけあって頭のよく回る人だったのでしょう。入府して真っ先に着手したのは、”九州平定” という事変で荒廃した村々の復興と農業政策でした。 米の生産に欠かせない水利拡大のために大規模な工事を行い、それに農閑期の農民たちを従事させ手当も払うことで農民たちの暮らしの保証と、将来的な穀物生産向上を同時に図ったのです。
動画で語られる “米俵を転がして運ぶ” ことが輸送の効率化と競い祭りの原初となった・・。という部分は史実的な側面はともかく、非常にユニークで興味深く柔軟な思考を持っていた清正公の人となりを表すエピソードといえるでしょう。
歴史を語る上で多くの武将・統治者たちに表裏陰影の両側面があることは知られたところです。 人間である限り一方面にばかり都合の良い顔もしていられません。
それは加藤清正公であれ変わりなく、ある方向から見れば民に多くの労務や税を敷いた一面もありました(秀吉による朝鮮出兵に伴う過大な戦費負担など)。 しかし、それでもなお地元で “清正公(せいしょこ)さん” と呼び親しまれたのは、彼が領国の民心に近い政策を行い、結果的に後の時代に続く “米の都” を実現したからに他なりません。
少々、大袈裟かもしれませんが、今日、『玉名大俵まつり』に集う人々の笑顔の下地は400年前から紡がれていたといっても過言ではないのです・・。
「玉名」の地名の由来は日本書記に記載されている「玉杵名(たまきな)」が元であるといわれています。「玉杵名」は「魂来名」の異文字でもあり、”神霊が依り来る場所”、”魂の安らぐ地” の意味を持つともされています。
人々が寄り集まり、楽しみ安らぐ地で開かれる往古の賑わいにつなぐ祭り。11月中旬から下旬の開催。お近くに立ち寄られたならば是非・・。
最後に・・、次回もこの玉名市近郊からの話題をお届けする予定です・・。