いつか見た風景を日本画の世界に訪ねて

“天高く馬肥ゆる秋” 古くから 涼やかな季節の到来とともに聞かれる言葉。 日中はまだ暑い日も残っていますが、朝晩は随分と過ごしやすくなってきました。

本格的な秋もすぐそこ・・というより 今年は酷暑の日が長く続いたので、うかうかしていると、とても短い秋になりかねません。 お早めに秋の楽しみ方を見つけておきませんか?

 

「芸術」「絵画」という言葉を聞くと ”難しい” ”よくわからない” という感想を抱かれる方も少なくありません。

文化レベル云々といったような面倒なお話ではなく、単に取り上げられる頻度が少なかったり、普段 触れ合う機会が少なかったりするのが原因かもしれませんが(後、一部にどうも特别なもの扱いしたがる人々がいますね・・)

「芸術」はそれを創作する人の心情の発露であり、同時に、それを見、聴き、感じる受け手は「素晴らしい」「美しい」「あまり好みじゃない」と思うままに感じれば良いだけのことなので、極めて単純なものなのですが・・

こちらを御覧ください

© 内田正泰

晴れやかな夏空を背景に古い校舎と運動場のような風景が描かれていますね。
正確にはこれは筆で描かれたものではなく、指で切り破いた紙を張り合わせて作った ”貼り絵” ですが、この絵を見て「これは どこそこの場所で・・」「作者はどのような意図で・・」といちいち考える人は少ないでしょう・・

人は日頃の癖で、どうしても目から入った情報を脳で理解するようにプロセスを進めてしまいますが、こと絵画や芸術の鑑賞にあっては ”頭で理解” する必要はほとんどないのです。

美術館も文化施設とはいえ、運営・採算という問題があるため どうしても「ゴッホ」だとか「ルノワール」だとか名の知れた画家展を開きたがる傾向にあります。

また、何故か「絵画」というと「西洋画」のイメージが大きいようにも感じられますが・・(日本人の ”難しい” の理由のひとつには抽象絵画などの影響があるのかもしれませんね・・w)。

この際ですから日本ならではの情緒を描いた「日本画」を意識してみてはいかがでしょうか。

「日本画」は本来、岩絵の具や和紙を用いた伝統的な技法ですが、ここでは伝統様式にとらわれず、上でご紹介した 内田正泰(うちだまさやす)氏の貼り絵なども含めて大きな括りで “日本で活躍する(した)情緒豊かな風景を描く” 絵師さんをご紹介します。

(各画像をクリックするとGoogleの画像検索を表示します)

 

◆ 東山魁夷(ひがしやま かいい)
言わずと知れた日本画家の雄、幽玄な風景世界を描くことで高名。
作品「緑響く」のように、森林と湖畔を対にした清浄な風景は好んで採り上げたモチーフ。

◆ 川瀬巴水(かわせ はすい)
明治から昭和にかけて活躍した新・浮世絵版画師、涼やかな画風。
各地を旅し “旅情詩人” と呼ばれながらも、身近な景色に穏やかな眼差しを向け続けた。

◆ 石渡江逸(いしわた こういつ)
川瀬に師事したこともある版画家、日常の風景を情緒豊かに描いた。
古き東京の風景を今に伝える。情感に満ちた夕暮れ以降の作品が比較的多い。

◆ 藤城清治(ふじしろ せいじ)
日本を代表する影絵作家、昭和時代の記憶を呼び覚ます方も多いはず。
鮮やかなる童話的世界。子どもの心に寄り添った心象風景は世界的にも希少。

◆ 内田正泰(うちだ まさやす)
手でちぎった和紙の縁ならではの線で描き出す遠い日の情景。
貼り絵絵師。単純な色彩構成に見えながら人の心に訴えかける情感には代え難いものがある。

◆ 林静一(はやし せいいち)
高名なイラストレーター・挿絵画家ながら、その真髄には日本の美が流れる。
“小梅ちゃん” など、可愛らしい絵で知られるが妖艶な作品もある。”現代の竹久夢二” 。

◆ 男鹿和雄(おが かずお)
美術監督職であり挿絵画家、「となりのトトロ」の風景画でも有名。
作品を主に背景画から支え、失われゆく日本の風景を描かせれば超一流の風景画家でもある。

 

如何でしたでしょうか。 日本画 と言いながらも水彩画から版画・貼り絵、イラストレーションに至るまで、少々 間口を広げ過ぎたきらいがあるかもしれません。

しかし、一貫してそこに流れるのは日本人の感覚ならではの、静かで叙情に満ち溢れた・・。そして 誰もがいつか遠い日に置き忘れたかのような美しさと僅かな寂しさなのです。

人の想いに際限が無いように、美術の世界も広大無限の広さを持ち合わせています。
もしも、上のリンクなどから興味ある発見を見つけ、新たな日本の美を探す心の旅のきっかけとなれば幸いです。

大阪城も目の前、「大阪歴史博物館」6階 特別展示室において、この10月5日から12月2日まで 特別展『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』が開催されています。 ”難波宮跡公園” を間近にその遺構も展示されている趣致豊かなこの場所で、”旅情詩人” の想いに触れてみてください・・。

特別展『川瀬巴水 旅と郷愁の風景』:大阪歴史博物館

日  程 : 令和6年(2024)10月5日(土)~12月2日(月)火曜日休館

時  間 : 午前9時30分~午後5時 ※入館は閉館の30分前まで

場  所 : 大阪市中央区大手前4丁目1-32 (6階 特別展示室)

問い合わせ : TEL:06-6946-5728 FAX:06-6946-2662

Amazon:『川瀬巴水作品集 増補改訂版』

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