本年2024年も まことに暑い夏でした。(というか、現在進行系で継続中ですが・・ (^_^;)。 昨年に引き続き観測史上最高レベルの暑さのようで、熱中症による救急搬送者は7月だけでも4万3000人越えと猛烈な罹患数。
時にそのまま生死に直結する突発症状なだけに、下手をすればコロナより注意が必要な状況かもしれません。どうか熱中症対策を含め日頃からの体調管理にお気をつけください。
暑い暑い・・の連続で そんな気分にもなれませんが “中秋の名月(9月17日火曜日・2024年)” にもなりました。 いわゆる縁側にススキや団子を供えて満月を愛でるアレですね。
まぁ現在の熱帯夜にも近い状況の中で “お月見” というのも中々難しいでしょうが、せめて気分だけでも・・ということで、本日は “かぐや姫” を お話のキーワードに据えてみたいと思います・・。
“かぐや姫”。 ご存知「竹取物語」の主人公であり月の貴人・淑女。
「竹取物語」自体が平安時代前期の成立と見做されていることから日本最古の物語ともいわれています。
竹の中から生まれ 三ヶ月程で妙齢にまで成長、最後には迎え人らとともに月に還ることから “月の人”。 ひいては神に連なる存在さえ伺わせる描き方をなされていますが・・。
実際のところ この物語、現代でも通じるくらいアグレッシブな構成となっています。 子供向けに編集されたものは別にして・・、そもそも主人公である “かぐや姫” は、単に美しくそして色恋に身をやつす女性ではありません。
それどころか、物語前半にあって彼女には人間らしい欲や感情さえ希薄です。 五人の公卿たちに難題を課し求婚を撥ねつけるのは、他の伝承でも時おり見られる形ですが、凋落する彼らを見る目は憐れみはおろか嘲笑さえ持ち得ません。
唯一 自ら行動して、結果、死の床に着くことになった石上中納言に対してやっと些かの憐憫を抱き、その後に続く帝との関わりの中で ようやく少しずつ人の心の機微を育んでいきます。
物語の後半、月からの迎えが近づくにつれて悲しみに暮れる姫。育ての父母への想い、ようやく心を通わせはじめた帝への想い。そして抗えない別れの時・・。
いうなれば、天界と地上界を “光る竹” や “迎え人” という要素でSF的に包み、全ての登場人物たちを巻き込みながらも、物語はあくまで姫の成長譚であり、姫の生き様そのものなのです。
それは そもそも地上界に転生させられた因である、姫が背負った罪過(言い換えれば欠点)の補習であり、人が学ぶべき道でもあり、それを華麗に描いたストーリー構成なのですが・・。 結局、最後に月からの車に乗り、羽衣を身にまとったところで全ての心の痛みは霧散。 天界人の心象世界は地上の人智の及ばぬところ・・。
大陸や各地に伝わる伝承の影響を受けているとはいえ、日本最古・・の割には かなりダイナミックで、なおかつ(当時としては)新機軸に富んだプロットとなっているのです。
口伝が基本の民話・昔話の類と異なり、れっきとした作品の形で伝えられる “竹取物語” ですが、上記のとおり初出も作者も不明なお話ゆえに その発祥や関連を謳う地域は全国に存在します。
その中でも この “かぐや姫” の、一徹とした人物像のバックボーンとなるかもしれない説で、関連と発祥を唱えているのが奈良県北葛城郡広陵町でしょうか。
奈良県の北西部、金剛山系に隣接する広陵町に、かつてこの地に存在した “葛城王朝” の王姫に「迦具夜(かぐや)」と呼ばれる姫がいたという伝説が残っています。 同地に根付いた葛城王朝は繁栄を謳歌していましたが、時代とともに台頭してきた “大和王権” によって圧迫を強められていきます。
姫の美しさを見初めた大和王権の権力者たちは、何がしかの交換条件をもとに姫への求婚を迫りますが、姫にとって敵対する勢力への入輿は屈辱でもあり決して受け入れられるものではありませんでした。 圧力と甘言を弄しながら重ね重ね求婚を続けてくる者たちに対し姫は、ついに自ら命を断つことによって気高き意地を見せたのでした・・。
比する者なき美しさと屈することなき気高さを併せ持った迦具夜姫。 彼女の生き様をモチーフに権力者たちの持つ傲慢と狡猾を浮き立たせ、それを壮大にそしてドラマチックに描いてみせたのが「竹取物語」であり “かぐや姫” なのだそうです・・。
“葛城王朝” は現時点で学術的に確定されてはいません。しかし大和王権がその端緒に王権を開いた(とされる)橿原の地の周辺に、他の王朝文化の存在があったことは古代史的にも注目されており、伝承のような出来事があったとしても何ら不思議なことではありません。
上記の伝説は広陵町の「讃岐神社」に伝わる由緒を拠り所としていますが、竹取物語に登場する “竹取の翁” の名が “讃岐造(さぬきのみやつこ)” であることも、その証左のひとつであるとしています。(讃岐神社は讃岐氏(讃岐国)の一族である “斎部氏” が移住して創建されました)
史実はともあれ、このような伝承が「竹取物語」の成立に結びついた可能性も少なくありません。全国各地で “かぐや姫” の関連・発祥を謳う町も、それぞれに相応の根拠と歴史、そして清らかな月の光にも似た風雅を擁しているのでしょう。
「讃岐神社」には隣接して古代の墓標「巣山古墳」や「いにしえの丘」「竹取公園」などがあり、のどかな日和に往古へのロマンを満喫できる場所でもあります。古代史ファンの方のみならず古都奈良の風情を味わいたい方にもお薦めです・・。
『讃岐神社・竹取公園』 “ええ古都なら(南都銀行)” 関連ページ
最後に一報、九州は福岡県。福岡市天神地区において毎年10月下旬に「天神パレード」が開催されます。 地域の鎮守である6つの神社「警固神社・若宮神社・小鳥神社・金刀比羅神社・菅原神社・櫻ケ峰神社」と その連によって行われる、「月華祭」にまつわるお祭りです。
「月華祭」は 櫻ケ峰地蔵記(警固神社所蔵の絵巻)に伝えられる、夜に光を発する地蔵を祀った荒具社神と、その光とともに現れた “瀬織津姫神” の伝承を「かぐや姫」になぞらえて祀る秋の福岡祭りだそうで。 メインイベントでもある “神輿行列” では、それは可愛らしい “かぐや姫” が神輿上で笑顔を見せてくれます。
これもまた同地に遥かに伝わる信仰と歴史的背景から「かぐや姫」に結びついたものであり、輝ける月の女神の祝福に連なるものでしょう。 秋に福岡を訪れる機会のある方は記憶の端に置いていただければと思います・・。
(注:記事執筆時点で本年度の開催予定はまだ開示されておりません。)