変容の桜はほどなく北の地を春色に誘う – 北海道

この記事は3月21日付で書いています。先日17日福岡県では全国で最も早く桜が開花したとのニュースが報じられました。さすが温かい九州地方ですね、・・と、思ったところで、ふと考えました。 あれ? 沖縄県や奄美地方はもっと暖かいはずだし、九州よりも早く開花しているのでは?・・と。

実のところ、沖縄県では1月の末から2月の上旬にかけて既に桜が満開になっています。年によっては12月の末から咲き始めることもあるほど早いのだそうです。

にもかかわらず、福岡県が全国初とされるのは、咲いた桜の品種が “ソメイヨシノ” の開花に限ってのニュースであったから・・。 そう、沖縄県で1月に開花していたのは “ヒガンザクラ” であり、基本的に沖縄県や奄美地方では “ソメイヨシノ” が定着していないのだそうです。(奄美大島では湯湾岳の一部などにあるそうです。)

 

“ソメイヨシノ” という品種は、夏の間に “花芽” と呼ばれる(文字通り)花の赤ちゃんのようなものを形成するのですが、形成を終えるとすぐに “休眠” の状態へと移行します。 それが平均気温5度前後という冬の寒さに晒されることで “休眠解除” となり、翌年の春の開花へと成長を進めるというプロセスを必要とします。

つまり、平均気温5度前後が一定期間続かない地方では “ソメイヨシノ” が開花し難く、いくら暖かくても 定着し難い条件だということ・・。一口に “桜” といっても皆一様ではなく様々な特徴や習性を有していることがわかりますね。

 

ギョイコウ(御衣黄)

この記事が掲載される頃には、どうでしょう・・およそ西日本のかなりの地域で桜が5部~7部咲きといった感じでしょうか。北陸や北関東など冷涼な地域ではそろそろ開花、それより北の東北地方や北海道などは4月から5月にかけてということになるでしょうか。

北海道、渡島半島、内浦湾を望む森町清澄町の「青葉ヶ丘公園」でも、5月になる頃には咲き誇る桜を背景に『もりまち桜まつり』の開催が予定されています。昭和25年から続くと言われる歴史あるこの祭り、園内1000本からなる古桜の壮麗さが見ものですが、これ以外にも、この公園でしか見ることの出来ない希少種の桜があることでも知られています。

ギョイコウ(御衣黄)、ウコンザクラ(鬱金桜)と呼ばれる黄緑~淡黄色の花を咲かせる珍種や、森町の名を取った モリコマチ(森子町)、アオバシダレ(青葉枝垂)といった ここだけで見られる固有種が存在します。

桜の花色と言えば、白地にごく淡いピンク色から やや濃い目の桃色までが、一般的なイメージとして強いですが、こういった亜種の珍しい花色も、新鮮な感動をもたらしてくれるのではないでしょうか。

森町観光ナビ 森観光協会

 

優駿さくらロードのエゾヤマザクラ(蝦夷山桜)

襟裳岬にも近く競馬馬育成の故郷としても知られる浦河町西舎、この地に走る「優駿さくらロード」には、約3kmに渡って桜のトンネルが続く 通称 “うらかわ千本桜” があり、訪れる人の目を楽しませます。

当地の桜の多くは エゾヤマザクラ(蝦夷山桜)であり、ソメイヨシノに比べると赤味が濃く桜の原生種に近い、野趣溢れる風采が玄人好みとも言えるでしょうか。 ひとつには、意外と色の再現が難しい “桜の風景写真” を撮る場合にも発色が得やすく、一枚のきれいな絵となりやすいのも利点と言えますね。  エゾヤマザクラ の発色が明確なのは北海道の平均気温・寒気が関係しているようで道民誇りの桜でもあるようです。

見頃には1万人の観光客が訪れるともいわれる “うらかわ千本桜” 、毎年、桜祭りをはじめとした各種イベントや、ライトアップが行われることでも有名です。

うらかわ旅 (一社)浦河観光協会 / 浦河町役場商工観光課

 

洞爺湖のヤエザクラ(八重桜)

北海道観光のメッカ、洞爺湖の湖畔にも5月の上旬から中旬にかけて ヤエザクラ(八重桜)が咲き誇り、湖の清涼さと相まって観光の楽しみを増やしてくれます。

ヤエザクラ は多数の花びらが多層にわたって咲き重なる “八重咲き” 型の桜の総称であり、ひとつの品種の呼び名ではありませんが、丸くふんわりとした その容姿は古来から人々に愛される桜でありました。

昭和時代に ソメイヨシノ が周知される以前まで、ヤマザクラ とともに日本の桜の代表的な品種でもあったのです。

温泉地としても知られる洞爺湖の地、5月ともなれば絶好の行楽シーズンとなるかもしれません。 機会を得て出掛けられる方は是非とも “湖の景観” “桜の佇まい” “温泉” の三拍子を堪能していただければと思います。

洞爺湖観光 洞爺湖町役場 観光振興課

 

桜 という木はとても変異種を生じやすい植物なのだそうです。
原産の地がヒマラヤということにも少々驚かされますが、主に北半球の温帯からやや寒冷帯に分布していることからも、一定の寒さと暖かさを必要とする特質なのでしょうね。

日本においては ヤマザクラ を基本種とし、そこから広がった野生種だけで数十種類の亜種が存在するといわれています。 近年では和歌山県南部で確認された クマノザクラ が100年ぶりの発見として話題となりました。

平安時代、嵯峨天皇によって それまで日の本の花の代表でもあった “梅” から、その地位を禅譲されることになった “桜” 、以降、日本人の心の花のように愛され、江戸時代には職人による品種改良が相次ぎ、コヒガン、カンザクラ、そして ソメイヨシノという園芸品種が次々と生み出されていきました。 変異種が生じやすい特質を上手く生かしたのでしょう。 これらは原性種の ヤマザクラ に対して サトザクラ と呼ばれるそうです。

一般庶民に花見の風習が広まっていったのもこの頃です。

 

「青葉ヶ丘公園」

江戸時代末期に伊豆で発見された エドヒガンザクラ と オオシマザクラ の自然交配種は、当初 “吉野桜” と命名されましたが、奈良県の ヨシノザクラ(ヤマザクラ)との混同を避けるため “ソメイヨシノ” と改名されたそうです。

明治時代以降、見た目が優しく増やしやすい ソメイヨシノ が全国的に植樹され、今日に続く “桜” のイメージの主流となりました。

しかし、こういった、変異種が生じやすく人工交配が行ないやすいという特質は、本質的な種の維持継続という本道に対してのデメリットも招きやすく、桜のその歴史の中でも何度か危機を迎えているともいわれています。

元々200年から500年以上もあった ヤマザクラ に対して、ソメイヨシノ は50〜60年しかないともされており、気象の変化、社会環境の変容も相まって現代は桜にとって数度目の危機ではないかとも危惧されているそうです。

日本人にとって桜は換え難く美しいもの、しかし その背景には様々な歴史と危機への懸念が潜んでいる。 陽気な花見の折にそんなことを考えるのは興ざめかもしれませんが、心のどこかに一寸たずさえておくことも必要なのかもしれませんね。

 

 

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