1センチの小宇宙 アートマーブルの妙 – 兵庫県

画像 © KOBEとんぼ玉ミュージアム

時代劇などで時折出てくる “南蛮渡来” の貴重品に “ビードロ” や “ギヤマン” などの名が聞かれます。どちらもガラスもしくはガラス製品を表す言葉ですね。 お侍の時代に、主に権力者や豪商が登場する場面で用いられるので、その歴史も500年とか せいぜい1000年位かと思っていたのですが・・、

ガラスの歴史を紐解くと思いの外古く、世界で最も古いガラスは紀元前24世紀のメソポタミア文明にまで遡るのだそうです。人の歩みとともに4500年からの歴史をもつマテリアル界の超ロングランナーと言ったところでしょうか。(年代・発祥地に諸説あり)

当初のガラスは金属精製の燃焼過程で 偶然得られたものとも言われており、ごく小さなものや、時に陶磁器の釉薬的なものとして作られていたようです。 現代のように自由自在・高機能なものが出来ていたはずもなく、不純物も多く色も濁ったものであったようですが、時代とともに製造技術も進展し、より透明度の高いもの、強度の高いものが作られるようになっていきました。

当然、極めて貴重な製品であったため その用途は限られ、象徴的な施設の小窓や宝石に準ずる装飾品として、また 重要な交易物として扱われていたようです。

 

日本に初めてガラスが入って来たのは紀元前1世紀頃ではないかとも言われており、吉野ヶ里遺跡をはじめ多くの遺跡や古墳群から発見されています。 ガラス製造で賑わったエジプトから大陸を通して伝わったそうで、既に弥生時代後期に交易ルートは存在していたものの、航海技術もままならない時代に よくも海を渡ってまで来たものだと感心しますね。

この頃 入って来たものも含め、その歴史当初から作られていたガラス工芸品に『とんぼ玉』と呼ばれるものがあります。 東大寺正倉院にも多数の “とんぼ玉” が宝物として収蔵されているそうです。

いわゆる “ビーズ” ともいえる 直径3mm程度のから2cm位のものまで、色とりどりの彩色や模様が施された 美しいガラス玉で、多くは紐を通す穴が開けられており、ネックレスのように連ねて飾ったり、根付の飾りや 時に神具や調度の装飾にも用いられました。

単体では小粒ゆえに さほど押し出しの強い存在ではありませんが、ガラスの発祥からともに歩んで来た装飾マテリアルの要ともいえるでしょうか。

 

長く一部の階層における特別な存在でしたが、江戸時代になって大陸の新しいガラス製造技術が伝わると国内での生産も始められ、庶民の手に届くところとなり、根付や簪(かんざし)帯紐などの飾りとして普及してゆくことになります。

「とんぼ玉」の呼び名が起こり、調色や文様などの技法が飛躍的に高まったのもこの頃で、江戸後半期には “スジ” “雁木” “粉かけ” “蛍” など、多岐にわたる美しい輝きを皆が楽しんだそうです。

明治時代に贅沢を禁ずる政府の施策によって これらの技法は一旦 途絶してしまい、以来、半世紀近く空白の期間が訪れますが、戦後になって古来からの技術を復興の機運が高まったことから、過去の遺品や文献の解析、新時代技術の導入などによって “とんぼ玉製造技術” の復活を果たしています。

庶民文化に達した普及商品とはいえ、その美しさは千差万別の範囲を超え星々の煌めきに比するほど数多を数え、今に至っては最新の技術・技法を駆使し、また卓越したセンスを付加することで、さらに その輝きを増やし続けています。

現代の「とんぼ玉」は まさに 1cmの玉に封じ込められた小宇宙と言っても過言でない、身につけ身近に飾る特別な宝飾品とも言えるでしょう。

アート作家も多いガラス工芸の分野でも、「とんぼ玉」制作に関わるアーティストは独特の位置を占め、新たな作品を発表し続けています。

近年では「アートマーブル」と呼ばれる、「とんぼ玉」と美しいビー玉を掛け合わせたような作品も人気を呼んでおり、益々その宇宙の広がりは留まることを知らないようです。
また一部では「とんぼ玉」を含めて これらの硝子玉作品を「アートマーブル」と呼ぶ向きもあるようです。

 

兵庫県神戸市にある『KOBE とんぼ玉ミュージアム』は その名のとおり「とんぼ玉」の展示をメインとした珍しい美術館です。 ホームページより案内文を見てみましょう。

画像 © KOBEとんぼ玉ミュージアム

「当館は、ランプワークといわれる技法で作られたとんぼ玉をはじめとする古代から現代までのガラス工芸作品(約2000点)を展示した世界でも唯一のミュージアムです。
精緻で芸術性の高い作品から、個性あふれるユニークな作品まで、ランプワークの魅力と可能性を存分にご観覧いただけます。
また、デモ・体験工房では、初めての方でも楽しめるとんぼ玉制作体験ができます。
ミュージアムショップも併設し、「観る」・「学ぶ」・「創る」・「買う」楽しさに満ちあふれたミュージアムへ是非ご来館ください。」 〜当該ホームページより引用〜

『KOBE とんぼ玉ミュージアム』は、中央区の とてもシックなビルの2階にある、内在型美術館であり 大規模な施設ではありませんが、「とんぼ玉」のごとく限られたスペースに、その魅力を有り余るほど凝縮した稀有な空間でもあります。

面白いことにリモート体験に即した “3D ミュージアムツアー” が ホームページより手軽に出来るので、とりあえずはパソコンから訪問されてみるのがいいかもしれません。

「3D ミュージアムツアー」 コチラから * Internet Explorer など古いブラウザでは表示出来ない場合があります。

 

神秘的な魅力を放ってやまない 古来・現代の「とんぼ玉」、ミュージアムでは『ART MARBLE&PAPERWEIGHT 2022』を4月5日まで開催中です。

国内外のアーティストによる “アートマーブル&ペーパーウェイト” の展示、煌めき広がる瑠璃の世界に触れる手掛かりとされては如何でしょうか。

コロナ対策をしっかりされてお出掛けください。

 

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『KOBE とんぼ玉ミュージアム』 公式サイト

場  所 : 〒650-0034 兵庫県神戸市中央区京町79番地 日本ビルヂング2F

『ART MARBLE&PAPERWEIGHT 2022』

日  程 : 2022年1月8日(土)~4月5日(火)

開催時間 : 10:00〜19:00(最終入館18:45)

問い合わせ : TEL 078-393-8500 もしくは公式サイトから

 

 

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