海のアルプスそして南海の魔界伝承 – 屋久島

阿蘇、霧島、桜島 と、今も活動を続ける活火山を多数 擁することで知られる九州ですが・・、では、九州で最も高い “九州最高峰の山” は何処でしょう? と問うならば、それは意外にも九州本土の中には無かったのです。

“九州最高峰の山” が屹立するのは鹿児島県の沖合60kmに位置する島「屋久島」、ここに在る「宮之浦岳」(標高1,936m)なのだそうで、その高さ故に特異な気候を有しており、南国の風土漂う九州南方の地にあって 麓の町では常夏の状況でも、山を登るに従い気温は低下、山頂付近では4月頃まで雪が見られるほどの別世界と言われているそうです。

上空から真下に見下ろすと丸く可愛らしい島の形ですが、屋久島には このような1000m級の山々が、東京23区より小さな島面積に30以上も ひしめく “山岳の島” となっており、「海のアルプス」とも呼ばれる所以でもあります。

前回、ご案内した「種子島」の最高峰が284.2m、海上から見ると棚のように ほぼ平らに見えるのと極めて対照的で、20km程しか離れていない島同士で、これほどまでに その姿が異なるというのも、また自然の不思議といったところでしょうか・・。

 

そもそも、屋久島、種子島に近い この海域は世界でも有数の海底火山を抱える場所で、40km程北西にある 薩摩硫黄島、竹島(薩摩)を一帯とする海底には世界屈指の火山口である “鬼界カルデラ” が存在します。

付近領域を中心とし、西日本一帯に甚大な被害を与えた約7300年前の大噴火は、その時600km離れた紀伊半島にさえ20cmもの火山灰を積もらせたのだとか・・。

正に 底知れぬ自然の驚異と言ったところですが、本日の主題 “屋久島” も、南洋の海がもたらす湿った海風と上述の高山によって「一ヶ月の内の30日以上が雨」と言われるほど雨の多い島で、特に山地においては年間降雨量が10000mmにも達するそうです。

全てを滅ぼすかのような大噴火から 数千年後に芽生えた1本の小さな杉の芽、そこからまた三千年後に巨大な古木となって「縄文杉」と呼ばれ 多くの衆目を集める様をみていると、大自然・・というより地球が数える時の雄大さを思わずにはいられませんね。

昨年の3月、「山と海 住む地を越えて紡がれる縁」と題した一編の昔話記事をポストしました。

往古から山で働く樵(きこり)や猟師には “禁足日” と言うべきものがあったそうです。
山の神様にまつわる日であり、その日は山を汚さず、仕事を一切休み 一歩も山へは踏み入れないこととなっていました。

日付は様々なれど 全国各地で見られる風習で、海の島でありながら多くの山々を抱く ここ屋久島でも、旧暦の5月16日には “山の神のいさみ(集祭)” があるとして、山で働く者のみならず、それ以外の者も一切山へは立ち入らなかったと言われています・・。

それどころか 屋久島では山どころか、この日には海へ漁に出掛けることさえ止めていたとされています。 山の神の神事で山に入らないというのは分かりますが、海へも出ないというのは一体どういった理由があるのでしょう・・・。

 

『海鹿(うみしか)』

そう その日は五月の十六日じゃった

北の一湊(一湊という名の港町)から 鰹漁の大きな船が出たそうな

南東の風に乗って北に漕ぎ出せば やがて屋久曽根という漁場に着く
屋久曽根は カツオ や サバ、イシアラなどが沢山獲れる海の宝庫で
風や天気に恵まれると漁師たちは好んでこの漁場に行ったのだと

もくもくと煙を上げる硫黄の島を見上げながら この日は天気も良くて絶好の漁日和じゃったと

 

「カツオ鳥じゃ!」 ひとりの漁師が叫んだ

カツオ鳥はカツオの群れのあるところ 必ずその波上を沢山舞うとる
カツオ漁には欠かせん目印であったそうな

「そりゃ!急げ!」 カツオ鳥の下には今日の獲物が泳いどる

漕ぎ手は力を込めて櫓(ろ)を漕いだ
釣り手は竿の用意じゃ 撒き手は雑魚を撒く波間を探しとる

 

程なくして着いた群れるカツオ鳥の真下 餌を撒き竿を打つと これがまぁ釣れる釣れる
こんなにポンポン釣れる日はそう有ったもんじゃない

見る間に魚倉はカツオでいっぱい 甲板の上にまで溢れて足の踏み場もない程じゃ
今日は久々の大漁じゃ 美味い酒が飲めるぞ! 皆喜び肩を叩きおうたと

山積みのカツオを前に もうそろそろ終いにするかと思うた時 ひとりの男が叫んだ

「おい! ありゃぁ海鹿じゃねえのか!」

 

その声に 皆 凍りついた

「海鹿じゃと! どこじゃ?!」

すぐに分かった 声のする方をみると波の狭間に黒々とした “うねり” のようなものが 船をめがけて近づいてくるではないか

「海鹿じゃ・・ じゃが なんちゅう大きさじゃ」 鯨ほどもあろうかという影を見て皆震え上がった

「いかん! 戻るぞ!」 皆 総掛かりで竿を上げ 櫓を漕いで屋久曽根を後にした

しかし 来る時と同じ風は南から吹く風 帰るには逆風となる
おまけに船には山ほどのカツオがのっていて重たいのなんの

二人三人四人とかかって櫓を漕ぐも だんだんと海鹿は船を追い詰めて来よる

「追い付かれたら最後じゃ! 皆喰われてしまうぞ!」

こうなったら仕方がない もったいないが釣ったカツオを四、五匹まとめて船尾に投げ込むと 海鹿はそれを喰ろうて少しだけ遅れる

しかし 瞬く間に喰い尽くしてしまい また船に取り付こうとする
こんなことを繰り返す内 釣り上げたカツオも底をついてしもうた
一湊の港も見えてきたというのに もうどうすることも出来ん

船尻に取り付いた海鹿は ズルズルと巨体を這わせ ついに甲板へとその頭をもたげた

 

「だぁ~っ!」 海鹿の頭を櫓でもって思い切り叩いたのは 一人の若い漕ぎ手じゃったと

腹の底に届くような 声にもならん声を響かせて海鹿は船からずり落ち やがて海の底へと消えていったと・・

(助かった・・) ようよう港に帰り着いた男たちはもう 精も根も尽き果て 浜に上がるなり皆倒れ込んでしもうた

どうしたことかと集まった村人たちは漁師たちを助け起こし介抱したそうな

ありがたい漁場とはいえ 調子に乗って魚を獲り過ぎたのか・・
ようは分からんが このことがあってから後 一年に一度 “山神のいさみ” の日には 漁師もその日の漁を避け 一切 海へは出んことにしたのだそうな

 

「海鹿」は 軟体動物である「アメフラシ」の別名であり俗称でもあるそうです。

頭部にある触覚(突起)の姿から “海の鹿” と呼ばれたのでしょう。近縁種である「ウミウシ」と同じような由来でしょうかね・・。

ともあれ、実物でさえ あまり気持ちの良いものではありませんが(お好きな方もいらっしゃるでしょうが・・) あれの巨大なものに海で追って来られたら、なるほど生きた心地がしないと思います・・

屋久曽根とされる漁場は 正に前半でご紹介した “鬼界カルデラ” の一帯です。
現在も海底で火山性ガスを噴出し、その地下深くにはマグマ溜まりを抱えているカルデラ地帯は、その海水温と成分で栄養の豊富な、魚の多く集まる海域となっていたのでしょう。

実際に船を襲うような巨大アメフラシが存在するとは思えませんが、現在でも世界各地の密林や深海で新種の生物が発見されることは少なくありません。

人間の世界など眼中の外、数千数万の歴史をエネルギッシュに、そして悠々と送ってきた自然の驚異の中では、人の想像を超えた現象が いつ起こっても不思議ではないのです。

 

 

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