那岐山の巨神 そして巨神の申し子(前)- 岡山県

「ダイダラボッチ」日本の民話などに登場する巨人として つとに有名ですね。

「デイダラボッチ」「ダイトウボウシ」そして「大人(おおひと)」など、様々な呼び名で全国各地に語り継がれています。 当イナバナ.コムでも “ダンダラボッチ” 三重県の伝承としてお送りしたこともあります。

往古、国造りの神をして巨人信仰に類するものといわれ、多くは “山を築く” “湖や湾を造る” “岬などを欠けさせる” など、地形の形成に関わる逸話を残していますが、時にその大きさ故か鬼や物怪のイメージと混ざりあい、民衆の驚異として描かれることも少なくありません。

 

古く吉備国と呼ばれ 近代以降は “桃太郎伝説” で知られた岡山県にも、この国造りに与した巨神に連なる不思議な伝承が残っています。 とりあえず、お話の方をご案内しましょう。

 

〜 さんぶたろう 三穂太郎 〜

さても今は昔 吉備の国にとてつもない大男があったとな

頭の先は雲を突き抜け那岐の山よりも高く 仁王立ちなりゃ左の足は柵原に 右の足は勝央の里に届いてしまう始末

あまりの大きさに その姿をいっぺんに見た人もおらなんだと

 

吉備の国のどこからでも見えるもんで あちらこちらで呼び名が異なるほどじゃったが
太郎の里は那岐の横仙だったと言われておる

ある年の秋 この地の鎮守で開かれた宵祭りに ふと一人の女が現れた

近在ではついぞ見たこともない それも透きとおるような白肌の それは美しい女だったそうな

祭祀の席におった那岐の領主は この女をひと目見るなり瞬く間に虜となってしもうた
家来の者をもとおさず自ら立って 女に声を掛け上の席に誘うたという

時が経ち 二人は結ばれ やがて玉のような男子も生まれた

しかし ふとしたことで領主は妻の身上を見ることになってしまい
正体を知られた妻は 息子に五色の玉を与え 那岐の山の奥深く静寂に息づく淵に帰っていったそうな

五色の玉を身元に 男子はすくすくと育った

すくすくと どころか雨後の若竹さえかくもの如く その背丈はあっと言う間に父を越え 館の屋根も越え やがて地表の者の声さえ届かぬほどに育ってしもうた

これが 三穂太郎と後に呼ばれた者の生まれの謂れやと

 

ある日 都に行くかと三歩も歩けば もう都に着いておったと
これは せんないことと郷地に戻り その後 他国へ足を伸ばすことなかったという

その頃 美作の山々はまだ 落ち着きがなく ちょっとの風雨や地揺れで あちらへウロウロこちらへウロウロと彷徨っておったそうな

三穂太郎は その度に山を追っては駆け回り “もっこ” に山をすくっては
あちらには この山 こちらには この丘 その間にはきれいな小川をと
ひとつひとつ 美作の山野を整えていったのだと

 

ある日は ふと落としたもっこの土から二子山が生まれ ある日は放り出したもっこの土から男山と女山が生まれ またある日は挽いていた茶葉がこぼれたところに茶臼山ができたと言われておる

ようよう 背筋を伸ばした日には踏ん張った足元から沢田の足形堤が生まれたのだと

こうして 次々と美作を作り上げていったが いつしか その働きも緩うなっていった

何がどうあれ 母の居る那岐の山が一番 好きであった太郎
よう晴れた日などには 那岐の山の頂きにゆっくりと腰をかけて 隠岐の海と瀬戸内とを代わる代わる眺めておったそうな

時が経って 太郎は那岐山を取り巻く黒ぼこの土となって この地に眠ったという
母のもとへと帰ったのだろう

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生まれる前には地鳴りが起こって里がうち震え、吉備の山と因幡の山をせり分けるように那岐の山が立ち上がったとさえ語り継がれる「三穂太郎」の物語、まさに那岐山の申し子であり、美作を開いた国津神と言ったところでしょうか。

岡山県北東部、勝田郡 奈義町にある「三穂神社」は 出雲 大国主命の御子神 事代主命を祀る社ですが、同時に この “三穂太郎” に縁深き社としても知られています。

元々 “三穂太郎” の名は “遥か遠い地まで歩いて三歩” の “三歩太郎” が転訛して “さんぶたろう” になったと言われていますが、そうなると この「三穂神社」は元来 “三穂太郎” を祀るために起こった社という見方も出来ますね。

上でご案内した話では触れていませんが、一説に太郎はその晩年、一本の小さな毒針に刺されて亡くなったともされており、その亡き骸は時と流れる風によって やがて土へと還りましたが、微かに形を保った頭部が残っており それを埋葬したのが この社地であったと伝わっています。

 

杜の静けさに抱かれながら 数百・数千の時を刻む社には、現代では詳らかに出来ない謎や神秘が息づいており、その歴史の全てが明らかなわけではありません。
だからこそ、そこは神域なのであり、同時に私たちの畏敬とロマンを呼び覚ますのですが・・。

そして、この「三穂神社」には もうひとりのお方が祀られています。

後編では、このお一方とともに “三穂太郎” に連なるかもしれない、当地のもう一つのお話をお届けしたいと思います。

那岐山の巨神 そして巨神の申し子(後)→

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