商材だけではない グラバーが残したもの – 福岡・長崎

今編記事は福岡県からのイベントを元にしていますが、長崎県にも深く関わる内容ですので “福岡・長崎” 編 とさせて頂いています。

 

グラバー 江戸時代の末期から明治にかけて長崎に居を構え活躍した人で、高台にあるその住居などの歴史的建築物が『グラバー園』として公開されています。 私も高校時代の修学旅行で訪れた記憶があり、当時は「グラバー邸」の呼び名の方が通りが良かった気がしますね。

長崎を訪れる人々に向けて必ず引き合いに出されるほど有名な観光地ですが、このトーマス・グラバーがどのような人だったかというと、”貿易商人” であったこと、日本人女性を妻に迎えたこと以外、あまり知られていないようにも思えます。

文明開化を迎えていた当時の日本の近代化に、大きな影響を与えたトーマス・グラバー、彼がこの国に持ち込んだ工業化への試金石「蒸気機関(動力)」を主軸に、その足跡や人となりを紹介する特別展『グラバーが運んだみらい展 蒸気のひみつ』が、長崎県の二つお隣り福岡県の “福岡市科学館” で開催されています。

 

安政6年(1859年)と言いますから、当時の日本は黒船の来航以降、攘夷思想や倒幕・佐幕の風が吹き出し、世の平穏が揺らぎ始めた頃でしょうか・・。
内外の緊張も高まる中、開港に踏み切った長崎に一人のイギリス人青年が降り立ちました。

トーマス・ブレーク・グラバー、この時 弱冠 21歳、スコットランド / イギリス系 アジア商社であった “ジャーディン・マセソン商会” の派遣員として日本を訪れたのです。

天賦の才覚に恵まれていたのでしょう、彼は前任者の仕事を引き継いだ2年後にはその業務を完全に掌握し、自らの名を冠した “グラバー商会” を立ち上げ 母体ジャーディン・マセソンの代理店として辣腕を奮いはじめたのでした。

商社であるグラバーの仕事には、一般国民にとって歓迎し難い業務も含まれていました。
この時代のイギリスのみならずフランスやドイツ、アメリカなど欧米の商社が率先して行っていた武器の輸出入にも多く携わっていたのです。

ジャーディン・マセソン自体、その流れの元をかの “東インド会社” に持つので言わずもがな と言ったところでしょうか・・。

倒幕・佐幕に分かれて国を二分する内乱になだれ込んでいった当時の日本において、近代武器の調達は必然の要求であり、その流れの中でグラバー商会をはじめとした欧米商社は大いにその収益を上げたのです。

この間、グラバーも取引に関連して 坂本龍馬の亀山社中や五代友厚、三菱創業の岩崎家などとも親交を持ち続けました。

 

武器商人としての側面をも持つグラバーでしたが、苛烈な動乱の時代を経て日本が生まれ変わり、明治時代に至ると当然のごとく武器の需要が激減、売掛金の回収にも窮したグラバー商会はついに倒産の憂き目となってしまいます。

次々と欧米商社が日本市場から手を引いてゆく中、それでもグラバーは日本を去ることはしませんでした。岩崎家との関わりを伝に高島炭鉱の経営にその職を得たのです。

そのかたわら三菱財閥の顧問ともなり、新しい時代における経営の基礎構築にも尽力、”麒麟麦酒”(現在のキリンビール / ホールディングス)の基礎をも築きました。

 

仕事のためならば手管を厭わないビジネスマンであるとともに、彼自身、日本に対して大いなる可能性と、そして愛着を持っていたのでしょうか。 彼の行動は単なる商業行為に留まらず、日本の近代化に極めて大きな足跡を残しています。

1865年(慶応元年)には、大浦海岸に500メートルの軌道(レール)を敷き、当時まだ未開業だった蒸気機関車を走らせて、地元民の度肝を抜くと同時に時代の変革を知らしめました。また、小菅の浜に造船工場を造り後の大造船地となる礎を築いてもいますし、国の新幣発行の為に機器導入にも奔走しています。

 

 

五代友厚の紹介で縁を結んだ日本人女性 “ツル” を妻に迎え生涯の伴侶としました。
一部に彼ら夫妻を元にしたと言われる* オペラ「蝶々夫人」と異なり、二人は明確な記録こそ残らぬものの、互いにとても信頼し合いしっくりした仲だったようで、二人して鹿鳴館の接待役を勤めたりもしたのだとか。

*「蝶々夫人」の登場人物 ”ピンカートン” ”蝶々さん” のモデルはグラバーとツルではないという説が近年有力です。

1899年にツルを病で先に亡くした後も グラバーは後添いを迎えることなく、その17年後 東京において73歳の生涯を閉じ、ツルと同じ墓所に埋葬されました。 亡くなる少し前には日本の近代化に貢献した褒章として、勲二等旭日重光章を授与されています。

 

幕末から明治へと至る動乱のるつぼの中で、グラバーは多くの商いを行うとともに、その商材だけでなく新しい時代への足掛かりを数多の人々に残しました。

グラバー邸に集い彼に触れ、異国の文化と黎明の大志を吸収し活躍した人々は、急激な成長期であった明治の立役者となってゆきます。 もしかすると、それこそ彼トーマス・グラバーが望んだ風景だったのかもしれませんね・・。

福岡市科学館で開催されている特別展『グラバーが運んだみらい展 蒸気のひみつ』は、彼が日本に持ち込んだ西洋技術のひとつ「蒸気機関」を主題に、旧グラバー住宅を原寸大で再現した展示空間を設け、彼の足跡を興味深く案内しています。

日本が熱く熱していた時代に、数々の輝きを放ったグラバーの想いを知る 良い機会となるのではないでしょうか。


過去の関連記事 : 「神々が欲し公使が愛した中禅寺湖の秋 – 栃木県」

 

特別展『グラバーが運んだみらい展 蒸気のひみつ』 福岡市科学館 公式サイト

日  程 : 4月29日(木)〜8月29日(日) ※但し、GW期間(4月29日〜5月5日)、夏休み期間(7月22日〜8月26日)は毎日開催

開館時間 : 9:30~17:30(最終入場17:00)

休 館 日 : 休館日 毎週火曜日および年末年始

場  所 : 〒810-0044 福岡県福岡市中央区六本松4-2-1

問い合わせ : TEL 092-731-2525 FAX 092-731-2530

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